住所
栃木県下野市
文教1-2-28
  • 院長 田中康文

好酸球性副鼻腔炎



私達は最近、難治といわれている好酸球性中耳炎が漢方藥の煎じによって短期間で改善した症例を経験しました。好酸球性中耳炎の特徴は、好酸球の浸潤と高粘性(ときに膠状)の分泌物ですが、好酸球性副鼻腔炎も同じような粘膜で、同じような好酸球性炎症が起きているものだと考えられます。そのため、好酸球性中耳炎の症例に類似した煎じ薬にて、現在、好酸球性副鼻腔炎の患者さんを治療中ですが、約1カ月半を経過した現時点で比較的良好な感触を得ていますので、その症例を簡単に記載します。

症例は35歳、女性、主婦

既往歴として以下のものがあります。

・小学校5、6年生の時中耳炎になったがそれ以後はない。

・15歳(高校生)の時、頭痛のため、バファリンを飲んで息が苦しくなった。

 その頃から花粉症と乾燥肌がみられた。

・20歳ぐらいから薬と関係なく喘息が起こった。以後、吸入剤でコントロールされている。

 現在も風邪がひどくなると、時々喘息が起こる。その時も吸入剤で喘息が治まる。

 喘息に対して夜だけ毎日吸入している。

・22、23歳の時、好酸球性副鼻腔炎といわれた。その時、すでにポリープが出来ていた。

・25歳の時、鼻茸の手術をしてそれ以降はしていない。

現病歴:最近、耳鼻科では鼻茸が少しずつ悪くなっている。

最近も血液検査で好酸球が増えていて、前に鼻の組織を取って好酸球が増えていた。 時々、鼻づまり、鼻汁がひどくなって垂れ込んで、好酸球性肺炎になる。難聴はない。

経過:好酸球性副鼻腔炎の診断の元で煎じ薬(葛根湯加ヨクイニン合桔梗石膏)を開始。

2、3週間後には鼻づまりも少しよくなり、黄色い鼻汁も少し減り、現在も改善中です。

1カ月後には匂いの強いニラとかニンニクを食べると少し感じるようになっています。

来院1か月後の血液検査では好酸球数は1240(正常値:70~450)(白血球數の22%)と著明に増加しています。

漢方藥はステロイドのような副作用がなく、比較的安全な薬なので、今後、ステロイドに変わりうる有力な治療法になる可能性があるので好酸球性副鼻腔炎で悩まれている方は是非1度試して下さい。

さて、副鼻腔とは、鼻の穴(鼻腔)の周囲にある4対の空洞のことで、小さな穴で鼻腔とつながっています。風邪などをきっかけに、鼻腔や副鼻腔の粘膜が炎症を起こして肥大化すると、互いの出入り

口をふさぎます。すると、副鼻腔内に鼻汁がたまり、そこにウイルスや細菌が繁殖し、膿ができてたまり、黄色のドロッとした鼻汁や鼻詰まりが生じて生活の質を著しく低下させます。

また、副鼻腔の一つで鼻の両側にある上顎洞と、上の奥歯の付け根は非常に近い位置にあり、この位置の虫歯から菌が広がり、副鼻腔炎になることもあります。

副鼻腔炎は3カ月以上続くと、慢性副鼻腔炎と呼ぶようになります。慢性化の原因は、粘膜が膿と接触することでさらに炎症して肥大化し、鼻腔につながる穴が狭くなって膿の排出が困難になり、ますます膿ができるという悪循環を起こすためです。慢性化するとおおよそ半数の患者の粘膜にキノコに似た白いポリープ(鼻茸)ができるのも特徴です。ポリープと呼んではいても腫瘍ではなく、あくまで炎症して肥大化した粘膜です。症状が進行すると嗅覚障害が起き、深刻になるとごくまれに目の炎症や髄膜炎などの合併症を引き起こすこともあります。このような感染型の副鼻腔炎は従来、蓄膿症とも呼ばれていましたが、衛生環境や栄養状態の改善もあって近年減少傾向にあり、治療法も確立された今日では治しやすい病気となっています。

一方、2000年を境に、これまでと異なる難治性の新型副鼻腔炎が大人の間で急拡大しています。罹患者の鼻の粘膜や血液を調べると、白血球の一種である好酸球が増えていることから、01年に好酸球性副鼻腔炎という病名がつけられています。その後、好酸球性副鼻腔炎は類をみないほど急速に増えています。

好酸球性副鼻腔炎は両側の多発性鼻茸と粘調な鼻汁により、高度の鼻閉と嗅覚障害を示し、抗菌薬は無効であり、ステロイドの内服にのみ反応するといわれています。(このような難治性の好酸球性副鼻腔炎をより理解するために、まずは鼻と副鼻腔の構造と機能について説明しています。興味のある方は「あれこれ」の「鼻と副鼻腔の構造と機能」を参照して下さい。)

好酸球性副鼻腔炎は以下のように特徴づけられています。

(1)喘息の合併

(2)両側性、鼻茸が中鼻甲介周囲に多発

(3)嗅覚障害

(4)血中好酸球数の増加

(5)副鼻腔粘膜に好酸球が高度に浸潤

(6)副鼻腔内に粘稠な分泌物の貯留

(7)時に好酸球性中耳炎の併発

などの特徴をもち、抗菌薬や手術に抵抗を示し、ステロイドの全身投与が有効であるとされています。好酸球性副鼻腔炎の症状は、鼻汁が出る、粘膜が炎症して鼻が詰まるという点では、従来の副鼻腔炎と変わりません。しかし、

・鼻汁は白や無色でつきたての餅のようにネバネバし、鼻をかんでも簡単に出てこない

・両側の鼻に必ずと言っていいほどポリープができる

・初期段階から嗅覚障害になり、鼻詰まりがない時でもにおいが分からない

・罹患者の半数が喘息を併発する

・成人に多く発症するなどの点で従来の副鼻腔炎とは大きく異なります。

特に、喘息との関わりは深く、アスピリンなどの解熱剤で喘息を誘発するアスピリン喘息の合併や、喘息が原因で好酸球性副鼻腔炎になるケースも多数みられます。しかし、気管支喘息を起こすようになってから、好酸球性副鼻腔炎になるのか、逆に好酸球性副鼻腔炎になってから気管支喘息も起こすようになるのかは、まだはっきりとした結果はでていません。これまでの調査では、気管支喘息が先の人、好酸球性副鼻腔炎が先の人、気管支喘息と好酸球性副鼻腔炎が同時に起こった人は、ほとんど同じ割合であり、それぞれ30%から35%程度です。男性の方が女性よりも多いといわれています。また成人がなりやすいのも特徴で、ほとんど20歳以上の成人になってから発症し、15歳以下の子供では発症しないといわれています。

好酸球性副鼻腔炎の10~30%に中耳炎を伴うこともあり、好酸球性中耳炎と命名されています。一方、好酸球性中耳炎の60~80%が副鼻腔炎を合併する、と言われています。ほとんどの例で中耳炎より先に好酸球性副鼻腔炎を発症し、かなりあとになって中耳炎を発症することもあるようです。したがって好酸球性副鼻腔炎の患者さんは、今中耳炎を合併していなくても、将来そうなる可能性があるということになります。そのため、好酸球性副鼻腔炎をきちんと治療することが好酸球性中耳炎の予防になります。

好酸球性副鼻腔炎の患者さんが、あまり強く鼻をかんだり、安易に通気療法(鼻から金属の管を入れて、耳管に空気を通す、強制的な”耳抜き”)を行ったりするのは避けるべきともいわれています。

以下にこの病気の研究班によって作成された診断基準をあげてみます。

《好酸球性副鼻腔炎の診断基準》

①病側:両側:3点

②鼻茸あり:2点

③CTにて篩骨洞優位の陰影あり:2点

鼻のCTを撮影すると目と目の間の所(篩骨洞)に影が認められ、その影は頬の所の上顎洞よりも濃く、重症であることが特徴です。

頬の痛みや歯の痛みなどはあまりありません。

④末梢血好酸球(%)

2<≦5:4点

5<≦10:8点

10<:10点

スコア合計:11点以上を示し、鼻茸組織中好酸球数(400倍視野)

が70個以上存在した場合を確定診断とします。

《重症度分類》1)又は2)の場合を対象とする。

1)重症度分類で中等症以上を対象とする。

 重症度分類

CT所見、末梢血好酸球率及び合併症の有無による指標で分類する。

A項目:

 ①末梢血好酸球が5%以上

 ②CTにて篩骨洞優位の陰影が存在する。

B項目:

 ①気管支喘息

 ②アスピリン不耐症(アスピリンで喘息やショックを起こしたことがある)

 ③鎮痛剤や解熱剤などの非ステロイド性抗炎症薬にアレルギーがある

診断基準スコア11点以上であり、かつ

1.A項目陽性1項目以下+B項目合併なし:軽症

2.A項目ともに陽性+B項目合併なし

 あるいはA項目陽性1項目以下+B項目いずれかの合併あり:中等症

3.A項目ともに陽性+B項目いずれかの合併あり:重症

2)好酸球性中耳炎を合併している場合を重症とする。

副鼻腔炎の人は、日本に100万人から200万人いると言われています。そのうち鼻茸が存在するような慢性副鼻腔炎患者が20万人います。好酸球性副鼻腔炎の中等症・重症の人は、20万人の中の10分の1にあたる約2万人いると推定されています。

1900年代には、この病気の人があまり日本にいませんでした。1990年代後半から2000年にかけてこの病気の人が徐々に増えてきました。台湾、韓国、中国など東アジアの国々も最近この病気に罹る人が増えてきています。これだけ急速に患者数が増えた理由や病気の原因はまだ分かっていません。

ただ1990年頃までは、重症の気管支喘息治療にステロイドを内服させていました。それが吸入ステロイドを用いることが第一選択になった頃からこの病気が増加してきたとされています。昔からこの病気は存在していたのに、合併する気管支喘息の治療でステロイドの内服を行っていたために、わからなかったのかもしれません。そうすると、鼻、気管、肺すべてに関連する全身性の呼吸器疾患であり、鼻だけの病気ではないのではないかと考えらえています。すなわち何かの原因で全身の病気が起こり、鼻では好酸球性副鼻腔炎が起こり、気管や肺では気管支喘息が起こり、アスピリンを飲むと全身反応や呼吸が苦しくなるのではないかということです。

好酸球性副鼻腔炎が合併する気管支喘息、アスピリン不耐症も発症にウイルスが関与しているとも疑われています。ウイルス感染が起こると好酸球性副鼻腔炎の病状は、急激に悪化します。特に鼻茸は大きくなり、鼻水も粘稠になってきます。鼻の粘膜にウイルスが感染した時に、過剰に反応して好酸球を呼んでくる物質をたくさん分泌する人が、この病気になるのかもしれないと考えられています。そうすると遺伝的にこの病気になる人が決まっているのかもしれません。

しかしこの病気自身の歴史が浅く、遺伝するのかどうかはまだ分かっていませんが、これまで遺伝するとの報告はありません。ただし両親が気管支喘息の場合、子供は気管支喘息を発症する可能性は高まるので、それに伴う好酸球性副鼻腔炎も発症するかもしれません。

試験管での研究によると、好酸球性副鼻腔炎の鼻茸では血液を固める作用が亢進しており、血の塊を溶かす作用が減弱していることがわかっています。また,好酸球が分泌する化学物質が炎症を起こすと考えられていますが、なぜ好酸球が増えるのか、どんな化学物質か、どのようなメカニズムなのかなどは、解明に向けた研究が進められています。

治療法は、従来の感染型の副鼻腔炎の場合、鼻腔や副鼻腔にたまった鼻汁を吸引したり洗浄したりし、マクロライド系抗生物質を服用する薬物療法が基本となります。半数は服薬を2~3カ月続けると症状が改善しますが、改善しない残りの半数の方には外科療法を施します。外科療法は、鼻の中を内視鏡で観察しながら、ポリープや病的な粘膜を切除したり、副鼻腔に通じる穴の周囲の骨を切り取って広げたりして、副鼻腔を開放して鼻汁を外へ排出しやすくします。この外科療法で、ほとんどが完治します。

これに対して、好酸球性副鼻腔炎は従来の副鼻腔炎と原因が異なるため、治療法も違い、唯一、治療効果の認められているのがステロイド剤の全身投与とされています。しかし、経口ステロイドの内服で軽快をみても、感染、体調変化などにより増悪したり、また、症状が治まっても、服薬を中断すると悪化するといわれています。このため、長期的な服薬管理が必要な厄介な病気と言えます。

薬だけで十分に改善しない場合、外科療法を施す点は従来と変わりません。施術内容も同じですが、好酸球性副鼻腔炎では手術により鼻腔に充満したポリープを摘出すると、鼻閉は一時的に改善しますが、術後6年間で約半数のケースでポリープが再発するといわれています。特にアスピリン喘息に伴う好酸球性副鼻腔炎では、保存的治療でも手術的治療でも再発しやすく難治性であり、術後4年以内に、全例再発するといわれています。

治療で副鼻腔炎が改善すると喘息も改善し、逆に副鼻腔炎が悪化すると喘息も悪化することが報告されています。再発防止には、鼻うがいが効果的といわれています。また風邪などをひくと症状は悪化するので、規則正しい生活と帰宅後には必ず手洗いをした方がよいといわれています。このように、好酸球性副鼻腔炎は現時点ではステロイド剤以外の治療はなく、また完治までの治療法が確立されていません。

しかし、この文章の最初に記載しましたように、漢方薬の煎じにより、改善される可能性が大きいため、ステロイドの全身投与の前に1度は試みるべき治療方法ではないかと思われますので、是非試して頂きたいと思います。


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