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  • 院長 田中康文

掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)


皮膚の難病のひとつに掌蹠膿疱症という病気があります。

この病気は、手のひらや足の裏に周囲に赤みを持った小水疱が多数できます。同じく手足のひらに水疱ができる汗疱と非常によく似ていますが、汗疱は手のひらや指(指の腹、指の側面、指と指の間)、さらに足の裏や足指にも比較的小さな透明な水疱ができるのに対して、掌蹠膿疱症は膿を持ったように白く濁った膿疱ができますが、細菌や微生物は存在せず、無菌性膿疱と呼ばれ、ほかの人に感染することはありません。

手のひらの土手(母指球・小指球)や足の土踏まずやカカトに膿疱ができることが多く、数日で乾燥して黄褐色のかさぶたになりますが、その後、次々に膿疱が現れてきます。はじめは片側に出現し、まもなく対称的に現れてくることが多く、爪の中にも膿疱を生じて爪が変形してくることがあります。

膿疱ができる時は痒みを伴うことが多く、膿疱が破れると痛みを伴う事があり、足の裏に出来た場合は歩行に支障をきたす事があります。女性に多くみられ、抗生剤やステロイド軟膏の治療ではなかなか完治せず、治療に時間がかかる事が多い疾患です。

鎖骨、胸骨、肋骨、脊椎骨、骨盤などの骨と関節部は皮膚由来とされており、10%の人にこれらの部位に掌蹠膿疱症性骨関節炎(あるいは骨化症)を合併することがあります。胸鎖肋関節炎を引き起こした場合は、胸骨、鎖骨、肋骨などに腫れや痛みを生じ、脊椎に炎症が起こった場合は、腰や首に痛みを感じ、レントゲン検査でこれらの部位に骨硬化像や骨シンチの集積も見られなす。

この病気ははっきりとした原因が解明されていませんが、いろいろな説がありますので、少し紹介いたします。

①金属アレルギー説

歯科用金属やアクセサリーなどに含有するプラチナによる金属アレルギーの関連性を指摘する報告がありますが、頻度はそれほど多くはないようです。金属パッチテストを行い、アレルギー原因となっている金属を除去します。 

②ビオチン欠乏説

ビオチンは、皮膚を作るための重要な栄養素ですが、掌蹠膿疱症の患者において体内のビオチン値が低下しているという説があります。ビオチンはビタミンHとも呼ばれる水溶性のビタミンで、食事、腸内細菌の生成から自然に補給できるため、一般的に不足することはほぼないといわれています。しかし、大量のアルコール摂取や喫煙などにより不足することが指摘されています。お酒を飲むと、アルコールの分解にビオチンが利用されてしまって体内から少なくなってしまいます。ビールなら、1日大瓶で2本まで、焼酎なら、1日1合まで、日本酒なら、1日2合までを目安に。アルコールと同様にタバコもビオチンを大量に消費してしまいます。そのため、禁煙が勧められています。また、生の卵白はビオチンの吸収を妨げます。ケーキの生クリームは生の卵白を使っているので、できるだけ食べないようにした方がよいといわれています。加熱した卵なら、問題ありません。

③慢性病巣感染説

掌蹠膿疱症の患者のうち、約30%の患者に慢性病巣感染が見られるとも言われています。例えば、虫歯、歯周病、扁桃腺炎、中耳炎、副鼻腔炎、胆嚢炎など、これらの病気が悪化することで、掌蹠膿疱症を引き起こすことがあるといわれています。注意しなければいけないのが掌蹠膿疱症そのものは無菌性の病気ですが、離れた位置の細菌性の疾患が原因となることがある、という点です。

そのほかには、

④活性酸素説

⑤免疫異常説

などがあります。

治療として、西洋医学的にはステロイド軟膏、活性型ビタミンD3軟膏(商品名:オキサロール軟膏、ドボベット軟膏)などの付け薬による治療や、部分的な紫外線療法、さらにはテトラサイクリン系やマクロライド系の抗生物質を補助的に内服することで症状が軽減する場合もありますが再発も多いといわれています。

病巣感染がある場合は、歯肉炎や虫歯、副鼻腔炎、扁桃腺炎の治療で、改善がみられる場合もあるといわれています。たばこに関しては、禁煙することで症状が軽くなることもあります。

また、一部でビオチン療法という治療が行われています。ビオチン療法とは、ビオチン+ビタミンC+酪酸菌の3つの組み合わせのセット処方です。掌蹠膿疱症の原因として、ビオチンが不足していることがあげられるため、血中ビオチン値の上昇を目的として行う治療法です。腸内細菌叢が乱れていると腸内の乳酸菌によりビオチンが消費されてしまうため、酪酸菌(ミヤリサン・ミヤBM)の整腸剤を、さらに免疫力改善にビタミンCを加えた療法です。ただ、ビオチンの保険内での適用量は1日2mgまでですが、ビオチンの血中濃度を上げるためには通常量より多い多量の1日9mg~12mgで投与されることが多いようです。

その代表的な処方は以下のようになります。

《処方例(括弧内は保険病名)》

①ミヤBM錠、6錠、分3食後(消化不良)

②シナール配合錠(200)3錠、分3食後(炎症後色素沈着)

(指示箋)

①0.2%ビオチン散4.5g(ビオチン9mg)、分3食後、(慢性湿疹)

血中のビオチン濃度を一定に保つために、「8時間間隔」になるように3回に分けて飲みます。

ビオチン療法は即効性に乏しく、年単位の服用が必要なことが多く、またビオチン療法だけで十分な効果を得られることはそれほど多くなく、その他のつけ薬の治療や光線療法と組み合わせることで効果を得られるという報告があります。また、ビオチン療法の掌蹠膿疱症に対する有効率は15%以下ともいわれており、その効果に関するエビデンスは極めて乏しいとの指摘もありますが、掌蹠膿疱症に伴う関節炎には効果が高いという報告があり、ビオチン自体は副作用がほとんどなく安全な治療法ですので試してみるのもいいと思います。

もちろん、生活習慣の改善も大切です。

掌蹠膿疱症は生活習慣の改善にて症状が和らぐこともあります。

①和食を主とし、チョコレートやケーキなど、砂糖や生クリーム、生の卵白が多く含まれる食品や飲料はできるだけ控える。

②便秘の改善

③一度の大量の飲酒を避ける

④禁煙を行う

⑤ストレスや疲れをためない

⑥十分な睡眠をとる(午後10時就寝、翌朝6時起床の8時間睡眠が勧められています。)

⑦感染症の予防を心がける

などです。

これらの治療にても改善が乏しい場合は、エトレチナート(商品名チガソン)(ビタミンA誘導体)やシクロスポリンの内服も検討します。

漢方的にも西洋医学と同様に難治例も認められることがありますが、それでも西洋医学ではなかなか改善しなかった例もしばしば改善しますので是非一度漢方を試して頂きたいと思います。

漢方では、掌蹠膿疱症の現れている状態を体質から見直し、正常に解毒できる働きをを促して自己免疫力の正常化や血中の活性酸素を改善をしていくことで自然治癒力を高め症状を根本から改善させていくことが可能です。

掌蹠膿疱症は手のひらや足の裏という非常に限局した特殊な部位に発生します。手のひらは手を握ると体表に被われて隠すことができ、また足の底は地面に接していると表から見えなくなるので、これらの部位は表から見えない体内の内臓と深い関係がある皮膚といえます。また他の皮膚よりも角質層が厚く、特殊な構造を持ちます。

四脚動物では手のひら足の裏は地面に接し、体重を支えています。土は穀物に栄養や水分を与え育むみますが、人の体内の胃腸(漢方では脾胃といいます)も食物や水分を分解、消化・吸収して体に栄養を与え育むことから、脾胃は「地の気」と深い関係があるといわれています。

また、漢方では腎は生命エネルギーを蔵し、免疫力を高め、また下半身との関わりが強く、体重を支える機能と深い関係があります。このように手のひらと足底は脾胃と腎との関わりが強いと思われます。

表皮の機能や特性を支えるものは水液(漢方では津液といいます)や衛気(えき:表面を守る気・陽氣)といわれています。表皮には汗腺があり、そこから発汗し、表皮はいつも潤いが必要です。

肺は漢方では「肺は皮毛をつかさどる」「肺は水の上源」といわれています。水の上限とは、肺に水がたまっているという意味ではなく、酒樽やきゅうすのように、酒やお茶が出口からでるためには上方に空気穴が必要であるように、体の中で水液が配られるためには体の中でも上方に位置する肺が必要であるという意味です。

このように津液代謝には、引水を分解、吸収する脾胃、津液を配布する肺、尿として排泄する腎が関連します。また、津液を動かすエネルギー(漢方では「気」あるいは「陽氣」といいます)が必要で、気や陽氣との関わりが強い肝腎の働きも大切です。気の流れが滞る(気滞といいます)と熱が発生します。

掌蹠膿疱症は津液と気(陽氣)の停留が主体であり、発赤は気のうっ滞による熱の発生と見ることができます。従って、津液を配布する肺、津液を力強く動かす肝、さらに暖めて気を推進する腎の働きが特に重要となります。

津液代謝の中でも病態が停留ですから、病態としては津液を暖めて動かす陽氣が足りない(陽虚)あるいは流れが悪い(気滞:肝気鬱結)が背景にあることが推測されます。これらのことから

①津液全般の改善には防已黄耆湯

②熱冷ましと津液をさばくには越婢加朮湯、茵陳五苓散、防風通聖散、竜胆瀉肝湯

③気を動かすには、ストレスがある場合は四逆散、ストレスがない場合は排膿散及湯

④皮膚炎全般的な改善には十味敗毒湯、荊芥連翹湯

⑤腎虚に対しては、真武湯、牛車腎気丸、六味丸

⑥脾胃虚に対してはヨクイニン散/錠、麻杏ヨク甘湯、ヨク苡仁湯

などを各症状に応じて段階的に組み合わせます。

理論的にはまず越婢加朮湯(あるいは防已黄耆湯、竜胆瀉肝湯)+四逆散(ストレスがなければ排膿散及湯)+十味敗毒湯の組み合わせで対処することが多いと思われます。

外用薬としてステロイド剤(たとえばネリゾナ軟膏)1日2回、あるいは活性型ビタミンD3軟膏(オキサロール軟膏1日2回、ドボベット軟膏1日1回)などを患部に塗布します。

次に根本治療として、牛車腎気丸あるいは八味丸、六味丸などで腎を強化し、麻杏ヨク甘湯、ヨクイニン湯、ヨクイン錠などで脾胃を補強します。

掌蹠膿疱症を自己免疫疾患ととらえ、腎と肺を補強するために八仙丸(補腎の六味地黄丸に補肺の麦門冬と五味子の2味が加わっている)と熱を冷ますために三物オウゴン湯の組み合わせで対処して良好な結果が得られたという報告もあります。

*この記事は2014年に執筆し,2019年に修正・追加しました。


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