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  • 院長 田中康文

⑦頭痛の圧痛点と体操(西洋医学からみた頭痛Q&A:その7)

(片頭痛の圧痛点)

Q.片頭痛に圧痛点があると聞いたことがあるのですが本当ですか?もしあるとしたらどこですか?そしてそれはなぜ生ずるのですか?


(片頭痛の予防体操)

Q.片頭痛が起こらないようにするための予防体操があると聞いたことが

あるのですが本当ですか?もしあるとしたらどのような体操ですか?


(緊張型頭痛の圧痛点)

Q.緊張型頭痛も圧痛点があるのですか?

もしあるとしたら片頭痛の時の圧痛点とは異なるのですか?


(緊張型頭痛と体操)

Q.緊張型頭痛も体操があると聞いたことがあるのですが、それはどのようにすればいいのですか?


 

(片頭痛の圧痛点)

Q.片頭痛に圧痛点があると聞いたことがあるのですが本当ですか?もしあるとしたらどこですか?そしてそれはなぜ生ずるのですか?

【回答】

片頭痛の人も緊張型頭痛の人も頭痛が起こる前に後頸部のこりや痛みを訴えることが多く、

紛らわしいのですが、片頭痛の患者さんに聞くと緊張型にみられるような首こりとは違う、もっと強い痛みや張りですと答えることがあります。

実際、片頭痛の患者さんの後頸部の色々な場所を親指や人差し指で圧迫しながら、ここですか?それともここですか?と尋ねて探っていくと、そこです、そこが周りと違って痛いですと答えることがあります。このピンポイントの圧痛点を発見したのは国際頭痛センターの坂井文彦先生です。


《片頭痛圧痛点の位置》

髪の毛の生え際に位置し、左右の耳たぶの下を結んだ線上の、首の真ん中から

左右それぞれ約1.5㎝外側の窪んだ所(縦に長く走っている筋肉と筋肉の間の一部)を圧迫すると痛みが生じます。この位置は頸神経の3番目の出口部分に相当します。


片頭痛は脳血管が拡張して血管周囲に炎症が起こるとともに、血管を取り巻く三叉神経が刺激されて動脈の拍動に伴ってズキンズキンとした頭痛が起こります。この脳血管を取り巻く三叉神経は末梢神経なので、その痛み信号は一旦中枢の、脳幹中央部から頸髄上部まで伸びている三叉神経脊髄路核に伝えられ、その後、上方に向かい、脳幹の上方に位置する視床という部分を介して大脳皮質に痛み信号が伝わり、ここで痛さを感じます。この時、痛み信号の一部が三叉神経脊髄路核の尾側末端を通じて頭蓋外に出て上部頸神経に放散するために頸神経の3番目に痛みが生ずるのではないかと思われます。


それではなぜ片頭痛が起こっていない時でも圧痛点が存在するのでしょうか?

片頭痛を持つ患者さんは「ある時期からすっかり頭痛持ちになってしまいました」とよく言われます。このことは片頭痛が繰り返し起こると痛み信号が記憶され片頭痛の記憶回路ができてしまうと同時に、痛み信号に敏感になってしまい、少しの刺激でもすぐに頭痛が誘発されるようになることを意味しているように思われます。すなわち痛みの中継点である視床の近くに海馬という記憶と深い関係がある所がありますが、この海馬とその周辺に片頭痛の記憶回路ができてしまうと同時に三叉神経脊髄路核の過敏な状態が持続しているために片頭痛がみられない時期でも圧痛点が存在するのではないかと思われます。

 

(片頭痛の予防体操)

Q.片頭痛が起こらないようにするための予防体操があると聞いたことが

あるのですが本当ですか?もしあるとしたらどのような体操ですか?

【回答】

片頭痛の慢性化を予防するために考案されたストレッチ体操が国際頭痛センターの坂井文彦先生によって報告されています。


《片頭痛予防体操の方法》

①立った姿勢で:足を肩幅に開き、正面を向き、両手を胸の所に持って行きます。

②両側の肘を肩と同じ高さになるように水平に持ち上げます。

③左肘を水平のまま前に突き出すように、左肘と左肩を前方に90度回転させるよう上半身をひねります。

この時、顔は正面を向いたまま、頭を動かさず、頸椎を軸として、左肘と左肩、上半身だけを回すことがポイントです。右肘を後ろに引っ張るようにするとよく回ります。

④左肘と左肩を元の位置に戻しながら、今度は右肘と右肩を前に突き出すように90度上半身をひねります。


このように肘と肩と上半身を左右交互に90度回転させて戻します。

肩が回り始めたら、胸も腰も胴体ごと、背骨を軸として、左右交互に回します。

これをリズミカルに坂井先生は最大2分間続けるというのですが、実際やってみると分かりますが30秒間から1分間も同じ動作をするとかなり疲れるので、20回から30回程度でいいのではないかと思います。オフィスなどで椅子に座って行う場合、同じように頭を正面に向けたまま左右交互に肘と肩を前に突き出すように肩を交互に回転させても同様の効果があります。この場合、足は閉じても開いてもどちらでもかまいません。


この体操は片頭痛が起きていない時に、頭を動かさずに、リズミカルに回すのがコツです。

片頭痛の頻度が月に2回以上の患者さんに勧められています。片頭痛の最中は動くとひどくなるので、片頭痛の最中の体操は禁止です。この体操の前後で上部頸部の圧痛点を比較すると、体操前の痛みを10とすると体操後は2~4に減少するそうです。

この片頭痛予防体操は、まっすぐに前を見ながら行うと、首の後ろの圧痛点がストレッチされ、そのストレッチ信号が頸神経を逆行して脳に送り返されて、三叉神経脊髄路核の興奮を弱めるとともに、脳に記憶された片頭痛回路からの信号も発信されなくなるのではないかと思われます。腰や胴体も一緒に回すと、腰、背、首といった体幹を支えているすべての筋肉がストレッチされ、脳に送り返されるストレッチ信号がより増えて、片頭痛がより改善する

可能性があります。

痛みの神経には一度に一つの痛みしか伝えない性質があり、そのため、痛みが生じている神経回路に別の信号を送ると、それまであった痛みが緩和されることはよく知られております。このことから痛みが伝わってくる回路に逆に適切な信号を送ると、痛みが軽減したり、あるいは痛み信号が来なくなるのではないかと思われます。

さらに、リズミカルに体幹を回すと、ストレッチ信号がリズムに乗って脳の痛み回路に送られ、痛み調節系のセロトニンが活性化され、頻繁に起こっていた片頭痛が軽減する可能性があります。

 

(緊張型頭痛の圧痛点)

Q.緊張型頭痛も圧痛点があるのですか?

もしあるとしたら片頭痛の時の圧痛点とは異なるのですか?

【回答】

緊張型頭痛では片頭痛の圧痛点を圧迫しても痛みは生じないとされています。緊張型頭痛では首から肩にかけての筋肉そのものの「こり」で生じ、後頸部や首の横の筋肉を圧迫すると、痛み気持ちいいという感覚が生じます。一方、片頭痛では筋肉と筋肉の間に圧痛点があるので、緊張型頭痛ではそこを圧迫しても基本的には痛みがそれほど生じないとされています。

緊張型頭痛は、僧帽筋と肩甲挙筋の緊張によって生じます。特に僧帽筋は人間の背中と首の一番表層にある筋肉で、英語でtrapezius(「台形」の意味)と言い、首、左右の肩、第十二胸椎がつくる台形から命名されています。和名の僧帽筋はカトリック教会の一派の修道士のフードに見立てたことによるといわれています。

このような僧帽筋の上方の筋線維は肩甲骨を持ち上げ、中間付近の筋線維は内側に引っ張り、下方の筋線維は下に下げ、上方と下方の筋線維が両方収縮するときは回転させる作用があります。肩と首の間をさわりながら正面を向いて片手や両手で重りを持つと、僧帽筋の動きを感じることが出来ます。


緊張型頭痛では、このような僧帽筋のほかに肩甲挙筋もしばしばこりが見られます。肩甲挙筋は、頸椎と肩甲骨をつなぐ筋肉で上位頸椎の第1~第4頚椎横突起(首の側面)を起始とし、下方やや外側に向かって走り、肩甲骨内側上角(肩甲骨の内側上部の角)と肩甲骨内側縁に付着します。この筋肉は肩甲骨を上方へと引く作用があります。緊張型頭痛では片頭痛のピンポイントの圧痛点と違って、これらの筋肉のどれを圧しても痛みがみられることが多いようです。

 

(緊張型頭痛と体操)

Q.緊張型頭痛も体操があると聞いたことがあるのですが、それはどのようにすればいいのですか?

【回答】

緊張型頭痛は、長時間の不自然な姿勢や精神的なストレスにより、後頸部から肩、上背部にかけての筋の緊張と収縮(こり)、一般的に血行障害が原因で起こるとされています。頭痛の原因になっている筋肉のこりをほぐし、血行をよくして頭を支えている首と肩、上背部から疲労物質、痛み物質を洗い流すことを目的とします。


《緊張型頭痛体操の方法》

首こり・肩こりは僧帽筋と肩甲挙筋の筋収縮で生じます。これらの筋肉は肩甲骨を持ち上げたり、内側・下方に引っ張ったり、回転させます。そこで、以下のような簡単な肩回し体操をして首や肩、上背部の筋肉の緊張をほぐします。緊張型頭痛の予防だけでなく、頭痛の最中に行えば痛みの軽減に有効です。


●●●●肩回し体操●●●●

肩を回すことで腕と頭を支えている僧帽筋をストレッチして血行をよくし、首や肩のこりを解消します。

①正面を向いて両肘を90度程度曲げます。

②両肘をまげた位置から、肩を中心にして、上着を脱ぐように、両肘で体の横に輪を描くように前から後ろへ両肘を大きく回します。

これを5回繰り返します。

③次に、後ろ回しをします。

同様に肩を中心にして、リュックサックを背負うように、両肘で後ろから前へ大きく

回します。

これを5回繰り返します。

前回し5回と後ろ回し5回を2クール、合計20回まわします。


このような肩回し体操のほかに、肩こりや首こりは肋骨と肩甲骨から成る肩甲胸郭関節という関節が安定していないために生ずるともいわれています。

そのため、その関節を安定するために以下の体操が提案されています。


●●●●菱形筋(りょうけいきん)の筋トレ●●●●

菱形筋は僧帽筋よりも奥にあり、第6頚椎~第4胸椎の棘突起から肩甲骨内側縁に停止し、肩甲骨を内側に寄せたり、上に上げたりして、肩甲骨の固定に強く働きます。菱形筋が弱くなると、肩甲骨を背中の中心に寄せたり、上げたりする力が衰え、その代わりに肩甲挙筋という肩の筋肉が多く使われ硬くなり、その結果、肩こり、首コリが生じます。首の付け根から肩甲骨にかけて肩こりがある人はこの筋肉が弱っています。

①肩幅の広さで足を開いて立位をとります。

②右手の手のひらを壁あるいは窓に押しつけるように、手のひらを床に対して垂直に立て、右腕を水平に伸ばして、少し後方へ動かします。

③右手を伸ばしたまま背中の中心へ回せるところまで回し、その状態で10秒間キープ。

このとき、右肩が前に出ないようにします。

④これを4~5回繰り返します。

反対側も同様におこないます。両手同時に行ってもかまいません。


●●●●前鋸筋(ぜんきょきん)の筋トレ●●●●

前鋸筋は、ボクシングなどで素早いパンチを繰り出す時などに使われます。

起始:第1~9(または8)肋骨の外側の中央部に付着しています。前鋸筋の字の通り、のこぎり状に肋骨に付着しているのが特徴です。

停止:肩甲骨の上角、下角、内側縁に付着しています。

前鋸筋は、肩甲骨と肋骨に付着している筋肉です。このことから肩甲骨を前に押し出す他、上方回旋し、肩甲骨を固定します。その作用は

・肩甲骨の外転:パンチを繰り出す動き(手を伸ばす動き)

・肩甲骨の上方回旋:腕をあげる動き(肘を肩よりも上げる動き)

この筋肉は脇の下の肋骨側にあり、肩甲骨を安定させる最も重要な筋肉です。

①両手を前方に伸ばし、両手を回して右手の甲と左手の甲とを合わせます。

②そのままの姿勢で、肩がすぼまないように、肘、腕を力いっぱい伸ばし10秒間キープ。

このとき両脇の下に力が入ります。

③これを4~5回繰り返します。


●●●●上腕三頭筋(長頭)の筋トレ●●●●

上腕三頭筋は肩関節を外側にねじる際にとても重要な筋肉です。菱形筋と一緒に働くので、肩を最大限振り上げる際に強く働きます

①肩の力を抜いて立ち、肘を曲げ、両手のひらを外側に回して脇を締めます。

②そのままの姿勢で、肩が上がらないように、力いっぱい脇を締めながら肘を伸ばし10秒間キープ。

③これを4~5回繰り返します。



片頭痛と緊張型頭痛とが混在することも少なくなく、片頭痛予防体操と緊張型頭痛体操を毎日の日課にしてください。緊張型頭痛では首のこりを感じるため、首をグルグル回したくなります。首がゴキゴキいって気持ちいいし、首の疲れを取るのにも良いと誤解されているのですが、首の筋肉にさらに負担をかけます。緊張型頭痛の人は、首を回す体操は行わないでください。特に高齢者の方は首のグルグル回しは厳禁です。高齢者は頸椎の骨が弱くなっており、骨折して頚髄を圧迫して四肢麻痺を起こすことがあります。できるだけ首には負担をかけないこと、血行をよくすることが基本です。

緊張型頭痛は、ストレスで筋肉が硬くなり、硬い筋肉には血液が流れにくい、疲労物質や痛み物質が筋肉から洗い流されない、そして溜まった疲労物質が筋肉をさらに硬くする、という悪循環になりやすいので、筋肉のマッサージや鍼灸も有効です。特に鍼灸はマッサージのようなもみ返しがなく、首に負担をかけることもなく、筋肉のこりをほぐし、血行を改善します。片頭痛にマッサージや鍼灸は逆効果です。緊張型頭痛は血管が収縮、片頭痛は血管が拡張して起こるため、血行がよくなるマッサージや鍼灸はかえって片頭痛を悪化させる可能性があります。


緊張型頭痛は入浴で筋肉の硬さがほぐれることでよくなるのに対して、片頭痛では逆に、お風呂に入ると血管が拡張して頭痛がひどくなります。頑張りすぎる人、肩の力を抜くのが下手な人に緊張型頭痛が起こりやすいので、リラックスすることが大切です。

消炎鎮痛薬も一時的には有効ですが、飲み過ぎると薬物乱用頭痛が加わり、緊張型頭痛がかえって悪化する可能性がありますので注意して下さい。

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