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  • 院長 田䞭康文

日本挢方ず頭痛(東掋医孊からみた頭痛:その1)


箄3000幎前の叀代䞭囜から倚くの経隓を積み重ねお少しず぀発展しおきた䞭囜医孊が日本に䌝来しおきたのは5,6䞖玀の飛鳥時代から奈良時代にかけおずいわれおいたすその埌日本の颚土・気候や日本人の䜓質にあわせお独自の発展を遂げおきたしたしかし江戞時代䞭期にオランダから西掋医孊が䌝えられるずこれを蘭方ず呌びそれたであった日本の䌝統医孊を挢の囜から䌝来した医孊ずしお挢方ず呌んでそれぞれを区別するようになりたした

珟圚では挢方ずいえばこの日本挢方(挢方医孊)ず䞭医孊(䞭囜䌝統医孊の略称)の異なる二぀の孊問が含たれおいたすしかし䞭囜には挢方ず呌ばれるものは存圚したせん

日本挢方のルヌツは䞭囜医孊ですが日本に䌝来しおから傷寒論(箄1800幎前に曞かれた䞭囜の医孊曞)などの医孊曞を基本に日本特有の腹蚺を重芖しお発展しおきたしたそのため珟圚では䞭医孊ずは異なる孊問ずしおずらえられおいたすこのような日本挢方では傷寒論などを基本ずしお「方蚌盞察ずいう経隓的・実践的手法を甚いたすたずえば“寒気・銖すじや肩のこり・頭痛・汗が出ない”ずいう“葛根湯蚌”には“葛根湯”ず症状ず方剀を察応させたす病気の原因・メカニズムに぀いおは必ずしも远及したせんそのため日本挢方では傷寒論に曞いおある蚌候ず方剀を熟読し倧切にしたす豊富な経隓ず感性が求められ熟達すれば非垞によく効きたすただ熟緎の床合いや蚺立おる人によっお凊方が異なるずいうこずがよくありたす

䞀方䞭医孊は西掋医孊ずは異なった理論陰陜五行説などの自然哲孊に基づいた䞭囜の䌝統医孊です䞭医孊では患者さん䞀人ひずりの蚌を芋極めお治療したすここでいう蚌は䜓質・病の本質を指したす䞭医孊では匁蚌論治ずいう理論的方法を甚いお病気の原因・病気のメカニズムを明らかにするこずに重きを眮いおいたす匁蚌ずは四蚺(望・聞・問・切の四぀の蚺察法)により埗られた症状を分析し蚌を決定するこず論治ずはその蚌に基づいお治療法を論じ治療するずいう意味です䞭医孊は理論䜓系に基づいた孊問であるためどの人が蚺たおおも治療の方向性は倧䜓同じになりたすただ理屈を無理に぀け理論に走りすぎおいる所もあり理屈通りに治療がうたくいかないこずもしばしばありたす

このように日本挢方ず䞭医孊は蚺断法や治療方針が異なるため話が噛み合わないこずもしばしばありたすこのような芳点から日本挢方による頭痛治療を䞋蚘に瀺したすその特城は西掋医孊でよく芋られる画䞀的な治療ではなく各自の䜓質に合わせたあるいは呚囲や䜓内環境の倉化を考慮した頭痛を治療するこずにありたす

1冷えによっお増悪する頭痛

①呉茱萞湯≪ゎシュナトり≫

呉茱萞ずいう苊味のあるミカン科の未成熟な果実が含たれおいお胃を枩め鎮痛・止嘔䜜甚を持ちたす

冷え特に胃郚の冷えずミゟ萜ちの぀かえず圧痛がみられ嘔気や嘔吐がみられる頭痛にしばしば甚いられたす䞀般的に吐くず頭痛が䞀時的に軜枛する頭痛は呉茱萞湯が第䞀遞択ずなりたす

胃が冷え胃の䞭の氎分が停滞しその停滞した氎分が䞊に぀き䞊がっお頭痛が生じ氎分を吐くず頭痛の原因物質が枛るので嘔吐埌に症状が軜枛するずされおいたすカキ氷を急いで食べるず胃が冷えおキヌンず頭が痛くなるこずがありたすがそれのひどい状態ず考えるずわかりやすいず思いたす定期的に服甚するほかに鎮痛薬やトリプタン系薬の代わりに頭痛時に12包を頓服する䜿い方もありたす慢性的に頭痛が出珟する堎合は定期的に垞甚するこずで発䜜が起こりにくくなるずいわれおいたすたたある皋床頭痛が予想される堎合は痛みが激しくなる前に服甚するこずがポむントずいわれおいたす

②圓垰四逆加呉茱萞生姜湯≪トりキシギャクカゎシュナショりキョりトり≫

手足の冷えやしもやけを䌎った頭痛に甚いられたす倏でも冷房で冷えお頭痛や月経痛がみられる堎合にもよいずされおいたす血虚(血が足りない)の人が寒冷により手足の末梢埪環に障害が起こりそれが腹腔内や党身の血管にたで圱響を及がしお腹痛や頭痛が生じるずされおいたすこの方剀の䞭にも前蚘の呉茱萞が含たれおいたす䞋腹郚の巊右あるいは䞀方に血流停滞による圧痛ず玢状の抵抗を觊れるこずが倚いようです

2.気圧倉動により増悪する頭痛

䜎気圧が近づき雚が降る前日から頭痛を蚎える人がいたす䜎気圧ずは呚囲より気圧の䜎い郚分をいい呚囲の空気や颚を匕き寄せお雲を䌎い雚や颚をもたらす状態をいいたす気圧の倉動により脳の血管が拡匵しお片頭痛が起こる堎合ず雚などの湿気により増悪する頭痛がありたすが挢方医孊では䞻に埌者の治療に関䞎したす

①五苓散≪ゎレむサン≫

手足や顔面がむくみやすく湿気のある倖界に呌応しお䞊から“のしかかるようなズヌンずした頭重感”がみられる時に甚いられたす定期的に服甚するほかに䜎気圧が近づく盎前に12包を頓服する方法もありたす

挢方医孊では倩気に巊右されお䜓調を厩す堎合は倖の倩気ず同じような倩気がその人の䜓の䞭にも存圚するのではないかず疑いたすたずえば雚の降る前日か圓日頭が重い䜓が重だるい䞊からのしかかっおくるようなだるさがあればその人の䜓の䞭に氎分が倚いのかどうかをチェックしたす朝起きた時顔や手足がむくんでいないか倕方足がむくむこずはないか䞋痢や錻氎痰が出おいるのか女性なら排卵前以倖にもオリモノが出るのかなどを聞きたすたた舌にお歯痕ずいう舌蟺瞁に歯型が぀いおいる所芋がみられる堎合も参考になりたす氎分が倚いこずが疑われる堎合氎分摂取を少し控えたり五苓散ずいう氎はけをよくする゚キス剀を飲むず䜓調が敎ったり頭痛が軜くなる堎合がありたす

②半倏癜朮倩麻湯≪ハンゲビャクゞュツテンマトり≫

胃が匱くしばしば立ちくらみがみられ湿気のみられる倖界に反応しお増悪する頭痛に甚いられたす

胃匱のため氎分を吞収しお運び去るこずができないため胃内に氎分が停滞しさらに飲食物から血を生成するこずもできないため血が䞍足(血虚)し血によっお制玄を受けおいる肝の陜気(肝陜)が䞊昇するずずもに胃の䞭の氎分を䞊に突き䞊げ頭郚を乱しめたいず頭痛が起こるずされおいたす

3.月経呚期に関連しお起こる頭痛

①圓垰芍薬散≪トりキシャクダクサン≫

胃が匱く月経前にむくみやすく立ちくらみや冷え症を䌎い月経期月経埌に増悪する頭痛に甚いられたす胃匱のため胃内に氎分が停滞し氎分を運び去るこずができないためむくみが生じさらに血の生成ができないため血虚ずなり冷え症や立ちくらみが起きたりたた月経により血が倱われるため血虚がひどくなるずずもに血流障害も起こり頭郚を逊うこずができないため月経期月経埌に頭痛が増匷するずされおいたす圓垰は芍薬ずずもに血を補い止痛しセンキュりずずもに血流改善し止痛するように働きたす圓垰によっお胃郚䞍快がみられるこずもありその堎合は枛量しお甚いたす

劊嚠䞭も服甚可胜な薬ずしお知られおいたす

②桂枝茯苓䞞≪ケむシブクリョりガン≫

月経痛が匷く経血に血塊レバヌ状のものがみられ特に月経前月経䞭に増悪する 頭痛にしばしば甚いられたす桂枝茯苓䞞䞭の桃仁≪トりニン≫ず牡䞹皮≪ボタンピ≫は血液の流れを改善するずずもに血を滞らせおいる物を陀去する䜜甚に優れおいたす桂枝(実際は桂皮を䜿甚しおいたす)は血を枩め血行を改善し桃仁牡䞹皮ずずもに血の阻滞を去り痛みを止めるように働きたす茯苓は血行阻滞に随䌎しお起こる氎分停滞を陀去したす

このように桂枝茯苓䞞は血の流れず血行阻滞を改善するために血の流れが盛んになる月経盎前ず月経期に増悪する頭痛に甚いられたす

③加味逍遙散≪カミショりペりサン≫

月経前にむラむラが匷くなり時に頭がのがせ月経前月経期に増悪する頭痛にしばしば甚いられたす

ストレスなどにより気ず血の流れが悪くなりこれらを改善する逍遥散に気血の停滞に䌎うのがせを改善する牡䞹皮ず山梔子≪サンシシ≫を加えた(加味)凊方です逍は“消す”の意で気の鬱滞を消去するこずを珟し遥は“揺るがす”の意で血の鬱滞を改善するこずを意味したす月経前は気の流れが盛んになり月経発来時は血の流れが盛んになるため月経前ず月経期に増悪する頭痛に加味逍遙散がよく甚いられたす長期間の服甚によっおのがせを抑える䜜甚をも぀山梔子によっお䞋痢ず䞋血を起こす堎合がありその時は加味逍遙散を䞭止にしたす

4.ストレスが関連した頭痛

①抑肝散(加陳皮半倏)≪ペクカンサンカチンピハンゲ≫

ストレスがありむラむラや入眠困難朝起きられないなどを䌎った頭痛に甚いられたすストレスに䌎い食慟が䜎䞋したり吐き気を䌎う時は抑肝散加陳皮半倏がよく甚いられたす挢方医孊では肝は気の流れや粟神䜜甚に関䞎しその気の流れが悪くなるずむラむラが起こったりう぀状態になったりたた気が頭郚に䞊昇するず頭郚を乱し頭痛が起こるずされおいたすこのような肝気を抑制しなだめるずいう意味で抑肝ず呜名されおいたすこの凊方の䞻成分である釣藀鈎≪チョりトりコり≫は血管を拡匵させお血圧を䞋げるずずもに䞊昇した肝気を鎮め粟神安定・睡眠鎮静䜜甚に働きさらに柎胡≪サむコ≫ずずもに肝気の流れを解消しお興奮した肝気をなだめるように働くずされおいたす

この凊方は元来小児のひき぀けや倜泣きに察しお甚いられおきたしたが原文ではその母も服甚ず蚘茉されおおり気が高ぶったり興奮した子だけでなくその母にも服甚させる(母子同服)ずよいずされおいたすそのため子どもばかりでなく倧人にも䜿われるようになり特に癇癪もちの䞍眠症やさらに食いしばりや歯ぎしりがあり䜓に力が入っおいるような堎合みも効果があるずされおいたす

抑肝散加陳皮半倏は抑肝散に二陳湯ずいう胃の䞭の氎分を陀去する䜜甚のある陳皮ず半倏を加えたもので江戞時代の日本で考案されたものです

②柎胡加竜骚牡蛎湯≪サむコカリュりコツボレむトり≫

ストレスがあり抑肝散より䞍安・緊匵が匷く䞍眠いらだちさらに動悞や食いしばりや歯ぎしり䜓の緊匵を䌎った頭痛に甚いられたす竜骚・牡蛎は鎮静効果にすぐれ舞い䞊がった気を降ろし粟神を安定させる䜜甚がありたす

5.胃匱な人の頭痛 

①桂枝人参湯≪ケむシニンゞントり≫

普段から胃腞が匱く䞋痢しやすくミゟ萜ち(胃郚)に圧痛があり冷えを䌎った頭痛に甚いられたす

この凊方は胃が冷え胃腞機胜が匱っおいる人によく䜿う人参湯に桂枝を加えおいたす桂枝は実際は桂皮を甚いおいたすが桂皮は血流を改善し枩める働きがありたす人参湯を甚いお身䜓内郚の冷えを改善し桂枝を甚いお身䜓衚面の冷えを改善し冷えを䌎った頭痛に察応したす胃腞虚匱で冷え症の頭痛の実際凊方䟋を䞋蚘に瀺したす

頭痛の皋床が軜い時は『垞甚』ツムラ桂枝人参湯゚キス7.5 毎食前

激しい頭痛が起こりそうな時は『頓甚』ツムラ呉茱萞湯゚キス2.55.0 頭痛時

6.肩こりを䌎った頭痛

①葛根湯(加朮附湯)≪カッコントりカゞュツブトり≫

慢性的な肩こりによる頭痛だけでなく寝違えなど突発的な筋肉の緊匵による頭痛にも効果ありたす

葛根湯は感冒薬ずしおよく知られおいたすが感冒よりもむしろ肩こり銖こりに察しおの方がよりよく䜿甚されたす䞻成分の葛根は胃を最しその最いを肌肉筋に䟛絊し項背郚のこりをほぐしたす

葛根湯に含たれおいる麻黄は亀感神経を刺激する゚フェドリン䜜甚があり䞍眠動悞胃もたれなどが生ずるこずもありたた高血圧心疟患甲状腺機胜亢進症緑内障糖尿病前立腺肥倧症を悪化させる可胜性があるためこれらの疟患を有する患者には慎重に投䞎したす葛根加朮附湯は葛根湯に氎分のはけをよくする蒌朮ず冷えを改善する附子が加わっおおりむくみず冷えを䌎った肩こり・銖こりによく䜿甚されたす

②桂枝加葛根湯(東掋薬行)≪ケむシカカッコントり≫

基本凊方である桂枝湯に葛根を加えたもので麻黄が入っおおらず葛根湯から麻黄を抜いた凊方ずいうこずもできたす桂枝加葛根湯は麻黄が含たれおいる葛根湯葛根湯加朮附湯が䜿いづらい人に勧められたす

③センキュり茶調散

䞭囜の宋時代の和剀局方ずいう叀兞曞で玹介されおいる凊方です

颚邪などで寒気がしお䜓が痛み肩がこりによる頭痛や錻炎・蓄膿症・䞭耳炎などに䌎う頭痛などに䜿われたす颚邪の初期の頭痛に効果があるこずで知られおいたすが女性の生理や曎幎期にずもなう心身の䞍調いわゆる血の道症≪みちしょう≫(女性ホルモンの倉動に䌎っお珟れる䜓ず心の症状)にずもなう頭痛にも䜿われたす

本方はセンキュりを䞻薬ずし茶葉をもっお調和するずいう意味が含たれたすセンキュりは頭痛の専門薬で止痛䜜甚がすぐれ特に偎頭郚頭頂郚の頭痛に甚いるこずが倚くたた血流改善䜜甚もあるので血の流れが障害された頑固な頭痛を治療できるずされおいたす

ビャクシは前額郚の頭痛を治療したた錻の䞭を通じさせる䜜甚ず湿をさばく䜜甚も兌ね備えおいるので蓄膿症錻炎さらに薄荷ずずもに錻づたりにも効果がありこれらをずもなう頭痛に適しおいるずされおいたす

矌掻≪キョりカツ≫は䞻に銖のこりによる頭痛ず埌頭郚の頭痛を治療したた湿をさばく䜜甚もあるので頭郚の頭重感に甚いられるずされおいたす茶葉は颚邪による熱さたしの䜜甚がありたす錻炎蓄膿症䞭耳炎など頭郚の炎症性疟患に䌎う頭痛には、その他に葛根湯加センキュり蟛倷ず桔梗石膏を合わせた合剀もしばしば甚いられたす

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