• 院長 田中康文

好酸球性中耳炎


好酸球性中耳炎は成人の慢性中耳炎の中でも治りにくい代表的な病気といわれています。

そのため、好酸球性中耳炎をよりよく理解するために、耳の構造と機能、さらにその発生について、当ブログのカテゴリー「あれこれ」の中で「耳の構造と機能、その発生」というタイトルで少し説明しています。興味のある方は参照して下さい。(上記のタイトルをクリックすると別ページで開きます。)

さて、好酸球性中耳炎とは、著しい好酸球の浸潤とグミのような膠(にかわ)状の貯留液が中耳に溜まるのを特徴とする大人の慢性中耳炎です。細菌などの侵入やアレルゲンによる刺激などで、血液中の白血球の一つである好酸球が活性化し、発症すると考えられています。好発年齢は40~60歳台で、1:1.5~6で女性に多く、大人の難治性中耳炎の代表的な病気とされています。

この中耳炎は成人発症型の気管支喘息患者に合併していることが多く、成人発症型気管支喘息の約1割程度にこの中耳炎を発症し、非アトピー性が比較的多いとされており、約15%がアスピリン喘息を合併していると考えられています。

また多くの症例で好酸球性副鼻腔炎の合併がみられ、しばしば感音性難聴の悪化をきたし、時に急速に進行して耳が聞こえなくなることがある聴力予後不良の疾患です。

約2/3は両側罹患であり、QOLに大きな影響を及ぼします。

鼓膜の奥に水がたまる滲出性中耳炎型と、粘膜に穴(穿孔)がある慢性中耳炎型があり、後者では粘膜が盛り上がって、鼓膜からはみ出るくらいの肉芽を作るタイプもあります。

診断基準として以下の項目があげられています。

大項目:中耳貯留液中に好酸球が存在する滲出性中耳炎または慢性中耳炎。

小項目:(1) ニカワ状の中耳貯留液

(2) 抗菌薬や鼓膜切開など、ステロイド投与以外の治療に抵抗性

(3) 気管支喘息の合併

(4) 鼻茸の合併

これら4項目のうち、大項目と小項目の2項目以上を満たす場合を確実例とします。 

西洋医学的治療は、重症度により、ステロイド剤を中耳に入れて炎症を抑えて病変をコントロールすることにより、病態の進行を遅らせることができる可能性があるといわれています。そして合併する細菌感染には、抗生物質の投与が行われます。またニカワ状貯留物の除去には、温ヘパリン生食による耳浴と耳処置による吸引が有効といわれています。

手術として鼓膜切開、換気チューブ挿入、肉芽・耳茸の緩徐などの処置を必要に応じて行われています。しかし鼓室形成術に関しては、聴力の改善や耳漏の制御が多くの場合困難なことや、かえって骨導の悪化をきたし、ときには耳が聞こえなくなる危険性もあることから、耐性菌などを制御するために止むを得ない場合や、頭蓋内合併症を伴った場合などに限定すべきと考えられています。

喘息合併例は保存的治療でも手術的治療でも再発しやすく難治性であり、ステロイド剤で軽快をみても、感染、体調変化などにより増悪し、これを生涯繰り返すといわれています。また経過とともに内耳性の難聴をきたす例は多く、特に高音域に著明とされています。

内耳の音を感じる部分は巻き貝の形をしている蝸牛であり、その出口は薄い膜で隔てられているだけで、中耳に接しています。その蝸牛では、音の高さによって、感じる場所が異なり、中耳に近いほど高い音を感じます。したがって、高音域に難聴が著明ということは、内耳そのものの病気というよりも、中耳の炎症が波及して起きた難聴の可能性が高いということ言えます。

このように好酸球性中耳炎は難治性であり、ステロイド剤の鼓室内注の入により軽快しても再発しやすく、ステロイド剤により感染を誘発する可能性もあり、ステロイド剤以外の治療が求められます。

私達は漢方薬(煎じ藥)により短期間で改善した症例を経験したので、その要約を記述したいと思います。

症例は63歳女性、主婦

主訴:咳喘息から中耳炎を併発し、体質改善するしかないと言われた

現病歴:6年前の12月に大学病院の呼吸器内科で咳喘息と診断され、以後、内服とステロイド剤の吸入にて現在落ち着いている。

3年前の12月に右側の滲出性中耳炎にかかり、近医の耳鼻科にて定期的に通院していたが、2019年の6月ごろから右耳から黄色いゼリー状のものが出て来たので、そのゼリー状のものを検査に出した所、好酸球性中耳炎と診断された。

そのため、2週間に1回、耳鼻科にて耳を洗浄してもらっている

聴力はまったく問題ないといわれている。

自覚的には右の耳がふさがっている感じがある

また右の鼻から少しネバネバした鼻水が出ているが頭部のMRIを撮影した所、軽微の副鼻腔炎はあるが明らかなポリープはないといわれている。

昨日、大学病院の耳鼻科にて喘息の人が中耳炎になると難治性で、喘息を完治する薬は無く、体質改善しないと耳も直らないといわれた。

そのため、翌日の2018年10月11日に漢方藥治療を求めて当院を受診した。

経過:当院受診1カ月後の血液検査では好酸球数も含めて特に異常はなかった。

辛夷清肺湯、荊芥連翹湯、小柴胡湯加桔梗石膏などのエキス剤で約2カ月間ほど経過みていたが、右耳の閉塞感が若干弱くなり、右鼻からの鼻汁も少し減少した程度で、右耳からのゼリー状の浸出液は減らなかったため、煎じ藥に切り替えた。

その内容は葛根湯加ヨクイニン合桔梗石膏加減(葛根、桔梗、石膏、ヨクイニン、連翹、金銀花、滑石、枳実、芍薬、甘草、ビャクシ、麻黄、貝母、玄参、牡丹皮、知母)であった。

その結果、約2週間後にはいつもゼリー状のものを取る時、かなり痛かったがいつもより量が少なく塊がなくて、吸引だけで取れ、痛くなかった。

その1週間後にはゼリー様のものが少しだけとなり、鼓膜から出ている穴の所を吸引すると空気の通る感じがあって、さらに10日後にはゼリー状の物が無くなって、穴が塞がっていた。

その後、右耳から少しの浸出液が出る時もあるがゼリー状のものは出なくなったため、様子をみながら煎じ薬を少しずつ減量していたが3か月後にウイルス性の急性胃腸炎にかかり、それ以後、煎じ薬は飲んでいない。ゼリー状のものが出なくなってから約7カ月経過した現時点では右耳に少し浸出液が出る時もあり、また時々左耳からごく軽度の浸出液が出ることもあるが、ゼリー状のものはまったく出なくなっている。

この症例は好酸球性中耳炎の中でも軽度な方かも知れないが、ステロイド剤以外でも改善できる可能性を示唆しており、漢方薬による治療も検討すべきと思われる。


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