• 院長 田中康文

潰瘍性大腸炎


潰瘍性大腸炎は厚生労働省が指定する難病の1つですが、その名の通り、大腸に慢性的な炎症が起こり潰瘍を形成する疾患です。病変は肛門あるいは直腸から上行性(口側)に向かって連続的に広がる性質があり、大腸粘膜および粘膜下層を障害し、びらんや潰瘍を形成し、最大で直腸から結腸全体に広がります。その病変の広がりにより、全大腸炎、左側大腸炎、直腸炎に分類されています。同じ炎症性腸疾患ということでしばしばクローン病と比較されますが、クローン病は大腸だけではなく口から肛門まであらゆる場所に炎症ができるという点で異なっています。

潰瘍性大腸炎は近年、増加傾向にあり、日本において患者数は18万人以上といわれており、決して希な病気ではありません。欧米ではさらに日本より患者数が多く、発症率は10倍近いというデータもあります。この点から、潰瘍性大腸炎の発症には欧米式の食習慣や環境が関与しているという説が挙げられています。発症年齢のピークは男性で20~24歳、女性では25~29歳と若年者に多い傾向はありますが、中高年以降でもしばしば発症し、目立った男女比は認められていません。

発症の原因として、腸内細菌の関与や本来は外敵から身を守る免疫機構が正常に機能しない自己免疫反応の異常、あるいは食生活の変化の関与などが考えられていますが、まだ原因は不明です。欧米では患者さんの約20%に炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎あるいはクローン病)の近親者がいると報告されており、何らかの遺伝的因子が関与していて、遺伝的要因と食生活などの環境要因などが複雑に絡み合って発病するのではないかとも考えられています。

主な症状としては出血を伴う下痢と下腹部の痛みが挙げられます。下痢症状は便に膿や血液、粘液を含むことがあり、多い方では1日に20回近く便通がある場合もあります。便意とともに痛みを伴う場合も多く、日常生活に大きな支障をきたしやすい病気でもあります。他の症状としては出血による貧血、食欲不振、下腹部の張り感、発熱、体重の減少などが挙げられます。一般的に、粘液便・軟便下痢・倦怠などの症状が持続しながら、過労、ストレス、感冒などの誘発により、再び下血、悪化するというのがよく見られるパターンです。

西洋医学的には、重症の場合や薬物療法が効かない場合には手術が行われることがありますが、原則的には薬による内科的治療が行われています。しかし現在、完治に導く内科的治療はなく、治療の目的は大腸粘膜の異常な炎症を抑え、症状をコントロールすることにあります。薬物治療では、活動期の重症例にはステロイド薬やアザチオプリン(商品名:イムランなど)などの免疫抑制薬が使われるほか、軽症から中等症では、アミノサリチル酸薬などが使用されています。

①アミノサリチル酸製薬

経口製剤と局所製剤(注腸薬、座薬)があります。従来からのサラゾスルファピリジン(サラゾピリン)と、その副作用を軽減するために開発された改良新薬のメサラジン(ペンタサやアサコール)があります。軽症から中等症の持続する炎症を抑えて、下痢、下血、腹痛などの症状を緩和させ、再燃予防にも効果があるとされています。アミノサリチル酸薬は、そのまま服用すると小腸上部で大半が吸収されてしまうため、ペンタサでは、アミノサリチル酸薬を腸溶性のエチルセルロースの多孔性被膜でコーティングすることで、小腸から大腸までの広い範囲でアミノサリチル酸薬が放出されるように調節されています。一方のアサコールは、pH依存性の薬剤で、アルカリ性によって溶けるコーティングで覆われています。そのためペンタサに比べて、より下部の大腸に到達してからアミノサリチル酸薬が放出されるように調節されています。このことから、病変が大腸に限局している炎症性腸疾患をはじめ、炎症性腸疾患の下部消化管病変に、特に有効性が高いとされています。

②副腎皮質ステロイド薬

代表的な薬剤としてプレドニゾロン(プレドニン)があります。経口や直腸からあるいは経静脈的に投与されます。この薬剤は中等症から重症の患者さんに用いられ、強力に炎症を抑えますが、再燃を予防する効果は認められていません。最近では、中等症から重症の患者さんに対して、直腸から投与されるレクタブル注腸フォームが販売されていますが、この薬が腸内で到達する範囲は概ねS状結腸部までであり、直腸部及びS状結腸部の病変に対して使用されています。この薬は泡状製剤であり、合成副腎皮質ホルモン剤であるブデソニド製剤が主成分で、立位で使用でき肛門からの液漏れが少なく、局所で抗炎症効果を発揮するといわれています。

③免疫調節薬または抑制薬

ステロイド薬を中止すると悪化してしまう患者さんに対しては、アザチオプリン(イムランなど)が、ステロイド薬が無効の患者さんにはタクロリムス(プログラフ)などが用いられています。以下のようなケースでは外科手術(大腸全摘術)が検討されます。

  • 内科治療が無効な場合(特に重症例)

  • 副作用などで内科治療が行えない場合

  • 大量の出血の場合

  • 穿孔(大腸に穴があくこと)の場合

  • 癌またはその疑いの場合

発病して7~8年するとごく一部の患者さんは大腸癌を合併することがあり、そのため、症状がなくても定期的な内視鏡検査が勧められています。潰瘍性大腸炎では、内科的治療により症状の改善や消失(寛解)がしばしば認められますが、再発する場合も多く、また急性の症状は緩和できても、完全治癒に至らないことがほとんどといわれています。そのため、しばしば漢方薬が試みられ、西洋医学では改善できなかったケースが好転したり、あるいは完治したケースも報告されています。是非一度は漢方藥を試して頂きたいと思います。西洋医学では、上記したように潰瘍性大腸炎に対して、ガイドラインが作成され、定型的な治療が行われていますが、中医学では症状を詳細に分析し、同じ病気でも各個人に合った治療が行われるという特徴があります。そのため、各症状を調節するために生薬の種類と量を加減できる煎じ薬がしばしば用いられています。

例えば①食欲不振、下痢軟便、胃もたれ、疲れやすいなどの症状があれば、脾胃虚(胃腸虚弱)として黄耆、人参、白朮、大棗、生姜、甘草などの生薬を含んだ煎じ薬、エキス剤であれば六君子湯、啓脾湯などが用いられます。

②粘液便あるいは粘血便が目立つ場合は、湿が滞っているとし(水湿内停)、茯苓、山薬、蒼朮、茅根、五味子、車前子、陳皮、木香、厚朴などの生薬を含んだ煎じ薬、エキス剤であれば五苓散、啓脾湯、茯苓飲合半夏厚朴湯)+田七人参)などが用いられます。

③お腹が冷えている、手足が冷たい、寒がるなどの症状があれば、胃腸機能が弱まっている上に胃腸機能が冷えている(脾虚寒)として、乾姜、附子、補骨脂などが含まれている煎じ薬か、あるいは人参湯+真武湯などのエキス剤を用います。

④赤い膿性の粘液があり、便は強くにおい、腐臭や酸臭(酸っぱいような悪臭)があれば湿熱と言って胃腸機能が湿と熱によって傷害されているとして、白頭翁、秦皮、黄連、黄、黄柏、ヨクイニン、茵陳、冬瓜子、山梔子、白芍、滑石、沢瀉、猪苓、ヒカイなどを含む煎じ薬、あるいは茵陳五苓散、猪苓湯、竜胆瀉肝湯などのエキス剤が用いられます。

⑤出血が目立つ場合は、仙鶴草、地楡、田七人参などの生薬、エキス剤であればキュウ帰膠艾湯、帰脾湯などが用いられます。

⑥精神的ストレスが強ければ柴胡、芍薬、防風、香附子、木香、枳実、竜骨などの生薬を含んだ煎じ薬、エキス剤であれば加味逍遥散、四逆散などが用いられます。また、普段から食欲があまりないなど、胃腸機能が少し弱い人で、軽微なストレス・緊張・不安・心配・情緒変動ですぐに下痢を起こす場合は、胃腸機能を高める白朮、茯苓、甘草などとともに、肝気を安定させる白芍などが含まれている煎じ藥か、あるいは芍薬甘草湯、桂枝加芍薬湯などのエキス剤が用いられます。

このような漢方薬とともに食事に気をつけることが大切です。食事は、食物繊維を多く含む食品や発酵食品など、脂肪や消化の悪いものは避けて体力維持を心がけます。タンパク質は、脂肪の少ない、白身魚や大豆、卵をとるよう心がけます。

最後に一時期話題になった青黛(せいたい)について少し触れたいと思います。広島市の天野國幹先生は潰瘍性大腸炎患者に対して伝統的漢方処方である錫類散(中国語での読み:シレイサン)の改変処方を処方して、多くの成果をあげてきたそうです。その後、錫類散に配合されている生薬一つ一つについて検討した結果、青黛が主要有効薬ではないかとみて、青黛を処方した所、効果がみられたそうです。このような青黛は、植物から抽出したインディゴを含有する生薬で、主に藍染の染料として用いられてきましたが、中国では、古くから潰瘍性大腸炎に対して、青黛を含む漢方処方や青黛単独の処方を使って治療成果をあげているという論文がいくつも存在しています。その後の日本での青黛を用いた臨床調査では、従来の治療薬に反応しなかった難治例を含めて約7割の患者さんに有効で、内視鏡において劇的な改善を認めた例もあり、有望な代替治療薬の候補になりうると考えられてきました。

しかし、その後、インターネット情報や口コミの噂を信じて、青黛を民間療法として個人で勝手に服用し、肺動脈性肺高血圧症を起こしたという事例が複数あることを厚生労働省が発表しています。これを受けて、現在、生薬会社は販売を中止しています。


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