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  • 院長 田中康文

耳垢について


耳垢について少し説明したいと思います。

外耳道にある分泌線には、外耳道の入り口近くにある耳垢腺(じこうせん:汗腺の一種)、皮脂腺そして汗腺などがあります。耳垢は、これらの腺の分泌物に、外から入ったホコリと古くなった角化表皮が混ざったものからなりますが、いちばん大きな部分を占めるのは、耳垢腺から分泌される脂肪,タンパク質などの混合物です。

外耳道の長さは大人の場合、3~3.5センチほどで、耳の入り口近くには毛が生えています。この外耳道の表皮は約1、2カ月かけて鼓膜から外側に向かって爪が伸びるように少しずつ移動していき、耳毛のところまで達し、ここではがれおち、耳垢腺からの分泌物と一緒になって耳垢となります。そのため、耳垢は特に入り口の付近にたまりやすくなっており、外耳道の奥には普通耳垢はありません。

外耳道にはもともと自浄作用があり、耳垢は食事やあくびなどで顎を動かすたびに外側に移動し、やがて耳の外へと押し出されます。しかし、高齢になるとこの自浄作用は衰え、また人によっては外耳道が狭く曲がっていて、耳垢が外に出にくいこともあります。

このような排出されない耳垢は、次第に大きくなって外耳道をふさぐようになると「耳垢塞栓」と呼ばれる状態になります。日本人は耳掃除をよくしますので耳垢塞栓は、あまり多くないのですが、寝たきりのお年寄りなどが、何年にもわたって耳掃除をしないために起こることがあります。耳垢塞栓は、湿型の耳垢の人に多く見られます。

耳垢が少しくらいたまっても、かゆみや痛みなどの症状がありませんが、外耳道が完全につまってしまって耳垢塞栓という状態になると、耳栓をしているのと同じように聞こえにくくなるばかりでなく、外耳道炎をひき起こし痛みが出てくることもあります。

外耳道塞栓の状態になると、自分ではとても除去できませんので必ず耳鼻咽喉科医を受診して除去してもらってください。

「耳掃除だけで受診するなんて…」と思われるかもしれませんが、耳垢の除去は立派な医療行為として認められています。耳垢清掃術は健康保険が利き、3割負担の人なら両耳で500円前後になるかと思います(初診料などは除く)。特に耳垢が湿っている人は耳垢塞栓になりやすいため、定期的に掃除をしてもらうといいでしょう。

耳垢にはカサカサした乾性耳垢とワックス状に湿った湿性耳垢があります。この乾湿の違いは、耳垢腺からの分泌物の量の差や、耳垢腺自体の数によるとされ、遺伝によって決定され、人種によって大きな差があるといわれています。北部の中国人や韓国人で湿性耳垢は4 - 7%、ミクロネシア人やメラネシア人では60 - 70%、白人では90%以上、黒人は99.5%、日本人全体では約16%が湿性耳垢で、残りの約80%は乾性耳垢といわれています。ただし日本国内でも北海道や沖縄と、本州の間で割合に大きな差があり、北海道のアイヌ民族では約50%が湿性耳垢であるといわれています。

日本には元々湿性耳垢の縄文人が居住しており、やがて本州には乾性耳垢の弥生人が流入したが、その影響が及ばなかった北海道・沖縄には湿性耳垢が保存されたことによる、と説明され、その報告によると、乾性耳垢は西日本に多い傾向があり、渡来人の人骨が西日本で比較的よく発見されることと一致するととされています。

また東北地方や北関東、南九州地方の人にも湿性耳垢が多いことが報告されています。

湿った耳垢である人は体質的に発汗量が多く、体臭が強い傾向にあるといわれ、独特な臭いがあり、体臭の原因の1つとされるアポクリン腺である耳垢腺の量が比較的多いとされています。

このようなアポクリン腺の活動状態は同一人物でも第二次性徴により変化し、成長期を過ぎると共に汗の分泌量も低下し、高齢者では耳垢は粘度が高い粘土状になる傾向があるといわれています。

(耳掃除について)

耳掃除が毎日の習慣になっている人も多いのではないでしょうか。耳掃除は耳垢を掃除してすっきりすると同時に、耳の中にある快感を生じさせる「迷走神経」を刺激するため、「気持ちイイ」と感じます。だからといって、毎日耳掃除をしている人は要注意です。

耳掃除のやり過ぎはかえって危険なのです。耳垢はたまりやすい人とたまりにくい人があり、たまりやすい人は、生理的に分泌が盛んな人です。耳垢の型によっても違いが出てきます。耳垢は、外耳道の外側1/3程度、つまり「耳穴の入り口から約1.5cmより手前」まででしかできません。従って、掃除をしてもいいのは、耳の入り口から1~1.5センチ程度で耳の毛が生えているところまで。およそ綿棒の頭一つ分と覚えておきましょう。ですから、それより奥を耳掃除しても“全く意味がない”のです。

自分で掃除をする際、綿棒や耳かきを絶対に耳の奥まで入れない。耳の奥まで入れることで耳垢を鼓膜のほうまで押し込み、結果的に耳垢がたまってしまいます。さらには、過剰な耳掃除は外耳炎を引き起こす恐れもあります。

耳掃除のコツとしては、耳の入り口近くにある耳垢だけを取るようにして、耳の奥の方の皮膚をこすり過ぎないようにすることが大切です。

綿棒などの使いすぎも皮膚の表面のワックスを除去しすぎてしまうので、注意が必要です。

耳掃除の方法は

  • 「乾性耳垢」の場合

乾性耳垢の方は、耳掃除をしなくても良いくらいだとも言われています。といっても、やはり気になるという方は、綿棒または耳かきで耳の穴の外側1.5cmほどの部分を耳の壁をなでるようにやさしく外に向かって掃くようにして耳垢を掻き出して下さい。綿棒の大きさは、大き過ぎると耳垢を押し込んでしまうので、大人が赤ちゃん用のものを使うくらいでも良いでしょう。

  • 「湿性耳垢」の場合

綿棒をそっと耳の穴へ1.5cmほど入れたら、螺旋を描くように外に向かって3~4回ふき取って下さい。

では、どのくらいの頻度で耳掃除をすればいいのか。

耳には自浄作用がありますので、1、2カ月に1回程度で十分、多くてもせいぜい2週間に1回まで。

耳垢の除去は、市販の綿棒でぬぐい取る程度でよく、綿棒で除去できないところを軽く耳かきで除去したらよく、基本的には、耳かきを使う必要はありません。

入浴後に、綿棒やタオルで軽くふく程度で比較的容易に耳垢を除去することができます。

耳掃除を嫌がるお子さんもいるかもしれませんが、耳の入り口をそっとやさしく綿棒で掃除するだけでよく、それだけで子どもの外耳炎や耳垢塞栓の予防につながります。

幼少児は、外耳道の外3分の1くらいのところに塊となってとまっていることが多く、痛がったり、泣き叫んだりして除去できない場合は、耳垢水(グリセリンと重曹を基剤とした医薬品)を外耳道に注入して耳垢の塊を柔らかくしてから除去します。

このように耳掃除の正しい方法を守り、さらに耳垢の働きを理解して、耳の健康を維持していくことが大切です。

 耳垢には、主に3つの働きがあります。

1つ目は、侵入したゴミの吸着です。耳垢腺からの分泌物は適度な粘性を持っていて、外耳道に入ってくるゴミやホコリを吸着してくれます。そして外耳道皮膚には線毛と言う細かい毛があって、耳垢として外に運び出してくれるのです(自浄作用)。また、耳垢の成分が持つ苦味や臭いが昆虫の侵入を未然に防ぐとも言われています。

2つ目は耳垢腺から分泌される濃度の高い脂質によって、外耳道を湿潤に保ち、外耳道皮膚を守る作用です(潤滑作用)。

3つ目は、感染防御としての役割です。耳垢は元々弱酸性で、中にリゾチームというタンパク質分解酵素と免疫抗体のIgAを含んでいて、細菌の繁殖を抑える作用を持っています(抗菌作用)。

このように、まるで汚いもののように思っていた耳垢が実は、私たちの耳の中を異物から守っていたり、殺菌作用によって適度な清潔を保っているのです。

耳垢を完全に無くしてしまうような、耳掃除のやりすぎは、耳の健康のためにも良くありません。

耳掃除の頻度は、月に1回、片耳にかける時間は1~

2分程度で十分だとされています。

入り口から1cmというのは直接目で見える範囲なので、だれかの耳掃除をしてあげる時も、見えている耳垢だけ無理をせず取るというのが正しい耳掃除の方法です。

私たちのからだには、「耳垢を自然に排出する」という働きがあります。この自然の働きに任せ、正しい耳掃除、安全な耳掃除で、耳の健康を保ちましょう。

安全な耳掃除とは、動きながらの耳掃除や、寝転がるなど不安定な体勢での耳掃除をしないことです。周りの物や人にぶつかったりしないよう、周囲の安全を確かめて、行うようにしましょう。


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