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  • 院長 田中康文

外耳炎(外耳道炎)


外耳とは、外側に出ている耳介と、耳の穴から鼓膜までの間の外耳道を合わせた場所のことを言います。

その外耳は炎症の場所により耳介炎と外耳道炎に区別され、耳介に炎症を起こす疾患には皮膚炎、軟骨膜炎、帯状疱疹などがありますが、外耳道炎の方がはるかに多くみられます。

外耳道炎は外耳道の皮膚の一部もしくは全部が感染により炎症を起こし、単に外耳炎と呼ばれることもあります。外耳道の皮膚はバリヤー機能があり感染を起こすことは基本的にはありませんが、過度な耳掃除などによって、外耳道の皮膚に傷をつけるとそこから細菌などが入り込んで感染を起こします。

限局性外耳道炎の場合は通常、黄色ブドウ球菌により、外耳道全体のびまん性感染(広汎性)の場合は緑膿菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌などの細菌感染によって起こりますが、すごくかゆくて、白っぽくてネバネバする耳ダレ(耳漏)が大量に出る場合には、アスペルギルスやカンジダなどの真菌(カビ)が原因のこともまれにあります。

外耳道炎の原因には、耳掃除のやり過ぎによる細菌感染のほかに、スイマーズイヤーといって水泳中に耳に水が入ったり、(若い女性に多いのですが)入浴時に濡れた外耳道を綿棒で掃除したり、ヘアスプレーや毛染め液が入ったりなど、こうした反復する外からの刺激がきっかけで外耳道炎が起こることもあります。特に耳垢が外耳道入り口付近にたまると、耳に入った水を捕らえやすく、その結果皮膚がふやけ、病原菌が侵入しやすくなります。

症状はかゆみ、痛み、耳だれなどですが、そのほかに耳のつまり感、耳鳴りを自覚することもあり、ひどくはれると聞こえが悪くなることもあります。耳介や耳タブをひっぱったり、耳の入口部を圧迫したりすると痛みが強くなります。子供の場合、熱が出たりふるえたりすることもあります。

炎症がひどくなると、痛みで眠れなかったり、口をあけても痛みを感じたりすることもあります。

黄色ブドウ球菌による外耳道膿瘍の場合、重度の痛みを引き起こし、血膿性の物質を排出することもあります。また大量の耳だれがある場合は、外耳道炎と鼓膜穿孔を伴う急性化膿性中耳炎の鑑別が難しいことがありますが、耳介を牽引した時の痛みは外耳道炎を示唆します。真菌感染症は外観または培養で診断されています。

ほとんどの場合、炎症がおさまればこれらの症状も改善し、軽度の場合は、触らずに放置するだけで自然に治ります。しかし、1〜2日たっても症状が改善しない場合や中には外耳道の骨を一部と化して真珠腫を形成するという特殊な外耳道真珠腫が奥に隠れている可能性もあるため、一度は耳鼻科の受診をお勧めします。完治するまで耳の中を触らないようにすることが大切です。

糖尿病の合併がある場合には、重症化することもあり、悪性外耳道炎と呼ばれ、緑膿菌により側頭骨の骨髄炎を起こすこともあります。

外耳道炎の多くは急性感染症ですが、時に慢性に経過することがあります。慢性外耳道炎は外耳道の皮膚全体が湿疹状になることが多く、外耳道湿疹と呼ばれています。外耳道湿疹は、外耳道の皮膚がただれたり、じくじくした状態になり、私たちが身体をゴシゴシと洗い過ぎると、皮膚が赤くなり炎症を起こすのと同じく、耳掃除のしすぎで、外耳道の皮膚が剥がれて起こることが多く、痒みや黄色い分泌液が出ると、気になってさらに耳掃除をしてしまうという悪循環に陥り、ひどいときは外耳道が荒れ過ぎて、さらに細菌やカビに感染して悪化することがあります。

耳垢は毎日全て取る必要はなく、耳垢を全部取ってしまうと、外耳道皮膚をコーティングしている防御がなくなってしまい、外耳道湿疹になりやすくなります。

このような外耳道湿疹は耳掃除のしすぎのほかに、近くにある湿疹が波及して起こったり、中耳炎などの耳だれや薬品をつけたための刺激などが原因のこともあります。

外耳道湿疹が生ずる状況には以下のものがあります。

①外耳道の接触皮膚炎や繰り返される刺激物質

ニッケルを含有するイヤリングや多数の化粧品(例えばヘアスプレー、ローション、毛髪用染料)などに対してのアレルギー反応や繰り返される刺激物によっても起こります。

②脂漏性皮膚炎、乾癬

脂漏性皮膚炎や乾癬など、特定の種類の皮膚炎様の病気がある患者の一部に自然発生することがあります。

③外耳道の酸性度低下

耳垢は弱酸性で殺菌効果があり、外耳道を酸性に保つことでばい菌をやっつけたり、湿度を保つことで耳のなかを守る効果を持っています。その外耳道が水が繰り返し入ることで酸性度が低下し、細菌が繁殖しやすい状況になります。

④綿棒またはその他の物による耳掃除によって引き起こされた、外耳道の不慮の外傷

綿棒で外耳道の掃除を試みた場合、外耳道の傷つきやすい皮膚に微小な擦過傷が生じ、細菌が侵入する可能性があり、また落屑または耳垢が外耳道の奥の方へ押し込まれる恐れがあります。こうして蓄積された物質は水を吸収する傾向があり、その結果、皮膚がふやけて細菌感染のきっかけとなります。

症状は、接触皮膚炎の場合、耳がかゆくなり、透明な分泌物が漏出し、時には裂瘡を生じて耳が痛くなることがあります。また二次的な細菌感染が生じる場合があります(急性外耳道炎)。

外耳道の腫れがひどくなると、ふさがって聞こえが悪くなる場合もあります。

腫れがひどくなって夜、眠れないこともあります。

(治療)

①急性外耳道炎の場合

抗菌薬およびコルチコステロイドの外用が効果的です。まず、耳鼻科的には吸引または乾いた綿棒を用いて、外耳道の耳垢や耳だれなどの分泌物を除去します。軽度の外耳道炎では、2%酢酸で外耳道のpHを変えることにより、そしてヒドロコルチゾンの点耳で炎症を緩和します。中等度の外耳道炎では、抗菌薬の溶液の追加が必要です。

外耳道の炎症が比較的重度な場合は、外耳道に耳用ガーゼ芯を入れ、1日4回、ブロー液(5%酢酸アルミニウム)または外用抗菌薬を染み込ませる処置を行います。ガーゼ芯は、外耳道が著しく腫脹している場合、点耳薬を外耳道のさらに奥へ向かわせるのに役立ちます。重度の外耳道炎の場合は、抗菌薬の全身投与が必要なことがあります。

外耳道真菌症では、外耳道を完全に清拭し、抗真菌剤の溶液を用いる必要があります。しかし、鼓膜が穿孔している場合、これらの溶液は内耳に重度の疼痛または損傷を引き起こす恐れがあるため、使用すべきではありません。

②慢性外耳道炎の場合

つねに耳をいじったり、糖尿病やアレルギー体質などが原因となることが多く、これらの原因の除去と局所治療が行われます。まず、誘因物質または刺激物質の回避が必要です。

接触皮膚炎による可能性がある場合、特にイヤリングの装着などアレルギーを誘発する物質を回避または中止する必要があります。原因物質の特定には、試行錯誤が必要です。綿棒、水、およびその他の可能性のある刺激物質は、炎症を悪化させるため、これらを耳に使用することを避けるべきです。

外耳道湿疹による皮膚炎は、ブロー液(5%酢酸アルミニウム)で治療可能であり、不快感を取り除くため必要に応じて何回でも使用できます。痒みや炎症が強い場合は、外用コルチコステロイド(1%ヒドロコルチゾンクリームまたはより強力な0.1%ベタメタゾンクリーム)により、軽減できます。急性外耳道炎が続発した場合は、外耳道の感染組織などの慎重な除去および外用の抗菌薬療法が必要になることがあります。

また難治例は短期間の経口コルチコステロイド(プレドニゾン)により治療することがあります。

外耳道膿瘍が明らかに目立つ場合には切開排膿が必要です。

耳垢により外耳道が完全につまってしまっている場合は、耳垢水(じこうすい:(グリセリンと重曹を基剤とした医薬品)という耳垢を柔らかくする薬を入れて、耳垢を取り除きます。

耳垢が硬く固まってしまっている場合は、耳垢を触るだけでも痛みを感じることがありますが、このようにすることで痛みもなく取り除けます。

(予防)

外耳道炎および外耳道真菌症のいずれについても、耳の乾燥を保つ予防策(例、シャワーキャップの着用、水泳の回避)が必要です。耳の痛みが強かったり、熱のあるときは入浴はさける必要がありますが、それ以外では普通に入浴してもいいのですが、耳にお湯やシャンプーなどが入らないように注意してください。もし入っても軽く綿棒などでふきとる程度にして、無理にゴシゴシと掃除して外耳道の皮膚を傷つけないようにしてください。

また、水泳直後に消毒用アルコールと酢を等量混合したものを数滴投与することが(鼓膜が無傷であれば)、スイマーズイヤーの予防に役立つ場合があり、また外耳道真菌症に対する優れた治療にもなります。

(漢方治療)

外耳道炎が慢性化し耳だれが起こったり、一度治ったものが再発を繰り返す場合、漢方治療は有効です。外耳道炎の症状が軽く、初発の場合は葛根湯でよくなりますが、耳痛や炎症が強い場合は、小柴胡湯加桔梗石膏または桔梗石膏、排膿散及湯などを合わせます。

耳だれがみられる場合は、十味敗毒湯や竜胆瀉肝湯などが用いられます。

耳だれの症状を悪化させないためには、いち早く耳鼻咽喉科にて診察を受け原因を知ることが大切です。そして、再発防止や慢性化を防ぐために西洋のお薬と漢方薬を上手に使ってみるのもよいでしょう。


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