関節リウマチは免疫の異常によって起こる自己免疫疾患(膠原病)のひとつです。
本来、細菌などから体を守るため働く免疫システムに異常をきたし、関節を攻撃して発症するとされています。
関節は関節包と呼ばれる柔らかい袋に包まれており、その中に骨と軟骨が存在します。軟骨は骨と骨の間でクッションの役割を果たしています。関節リウマチでは体の免疫異常により、滑膜と呼ばれる柔らかい組織に炎症を来たして、骨の周りに増殖し、骨と軟骨を壊していきます。
最初は手の指など小さな関節が左右対称に腫れて痛むことから始まることが多く、次第に大きな関節にも波及していきます。朝起きたときに指がこわばって曲げにくくなる症状が特徴です。特に誘因なく手指が痛くなりこわばって手を握りにくくなります。指先の関節が痛くなることはまれで、指の真ん中や根元の関節、手首がリウマチの痛みの好発部位です。30~50歳代の女性に多く発症し、進行の度合いには個人差があります。
現在日本には、70~100万人以上の関節リウマチの患者さんがいると推定され、珍しい病気ではありません。リウマチの初期の痛みや腫れが進行すると、次にフタをはずす、ふきんをしぼる、服を着る、風呂で体を洗う、トイレで用をたす、などの日常生活動作が不便になってきます。さらに関節破壊が進むと、手や足はかなり変形してきます。フランスの画家ルノワールがリウマチを患っていたことは有名で、手指が変形していました。
手足だけでなく、手首、肘、肩、膝など他の関節に腫れや痛みを生じることもしばしば見られます。
お年寄りが老化の影響で膝が痛くなる変形性膝関節症では、内側の軟骨を痛めて両下肢が内側に曲がり変形してO脚をきたしますが、リウマチでは逆に膝から下が外側に曲がってエックス脚)の変形を来すことがしばしばあります。リウマチがさらに進行すると、自分の身の回りの動作ができなくなり、寝たきりになることもあります。このように何も治療しなければ、リウマチは徐々に状態が悪化して関節の痛みや変形が進行し、自力での日常生活が困難になっていきます。
かつてのリウマチ治療は痛みをコントロールすることが中心で関節破壊の進行とともに半数の方が寝たきりになってしまうような病気でした。しかし、最近の治療の進歩により、早期に発見し、早期から適切な治療を行うことで、関節破壊の進行を防ぐことができるようになってきました。
関節破壊は発症2年以内に急速に進行することがわかってきており、早期診断早期の治療によって速やかに寛解へ導くことが重要と考えられています。朝起きて、手足がこわばる、パジャマのボタンが外しにくい、歯ブラシが持ちにくいといった症状が続いている場合、リウマチの可能性があります。
リウマチの原因は完全には解明されていませんが、TNF、IL-6、T細胞などの因子が破骨細胞と呼ばれる骨を溶かす細胞を活性化して関節を破壊していくことが分かってきました。これらの因子をおさえる薬が現在のリウマチ治療の主流となっています。
西洋の治療は、メソトレキセート(リウマトレックス)などの免疫抑制剤を中心としたDMARDs(病患修飾性リウマチ薬)と呼ばれる抗リウマチ薬などの薬剤群を使用し、その疾患進行のコントロールを行うことが治療の主流となっています。特に近年、生物由来製剤と呼ばれる抗TNF-α抗体などの免疫・炎症惹起物質に対するモノクローナル抗体製剤の使用により強力に疾患活動性をコントロールし、完全寛解を目指した治療が行われるようになってきています。そのほかには消炎鎮痛薬やステロイド剤なども時に使われます。
これらの薬剤により、多くの患者さんが病状の進行が止まり、症状の改善を認める一方、非常に高価であることや免疫抑制による結核や真菌感染などの感染症のリスク増大やステロイド剤、抗リウマチ薬などの副作用が問題となります(特にリウマトレックスによる間質性肺炎は、投与量と関係なく発症し、発見が遅れた場合は重篤な転帰に至ることがあります。労作時の息切れや咳嗽といった自覚症状があればその可能性があります)。
漢方の治療は、ステロイド剤、免疫抑制薬などと併用して、治療効果をあげる場合と、単独で使用し、効果をあげる場合があります。また一定期間の漢方治療を行うと、多くの症例がステロイド剤、免疫抑制薬の減量が可能になります。
このように関節リウマチに対する漢方治療の効果は大変すぐれています。西洋医学的一般治療と比較しても十分な効果を有していると思われます。
リウマチにみられる関節の痛みや腫れのことを中医学(中国医学)では痺証(ひしょう)と言います。痺証は外からの風(外風)・寒邪・湿邪が体に侵入し、体に悪影響を及ぼして発症に至ったと考えられています。
外風とは現代的には感染性病因(ウィルス・バクテリアなど)や、気候・気温・気圧の変化などを指します。
外湿とは外界における湿邪(湿気の多い環境・ウィルスなど)のことを指します。
全ての痺証において、病邪が人体の外殻の表(皮・肌)から外殻の内部(肉・筋・骨節)へ侵入するためには、風邪の先導が必要になります。寒邪とは外界の寒気のことを指しますが、寒邪が寒の性質を保ったまま体内に侵入するのかどうかは疑問が持たれています。というのはリウマチでは寒冷刺激やクーラーなどで悪化することがありますが、このような悪化時には局所の関節はむしろ熱を帯びることが多いのです。
リウマチにおいては、病が慢性化する過程で、外殻における外邪と内からの正氣の戦い(邪正闘争)によってほとんどの場合寒邪は寒の性質を失うか、場合により化熱します。したがって慢性化した痺証の主たる病因は風湿邪であり、時に熱邪をともなうことがあります。
中医学では、初期の関節の疼痛、腫脹、ときに熱感がある時期を風湿病あるいは風湿相搏(そうはく:強い者同士が激しい戦いをすること)といいます。やや慢性化した時期には関節の腫脹が恒常化し、ときに熱を帯びます(この時期には芍薬が必要となります)。さらに進むと関節の変形を生じます。この時期を歴節病といいます(関節リウマチは、症状があちこちの関節を経歴することから、古代の中国医学では歴節と呼んでいました)。
関節の痛みは漢方的には気血の流れが滞って起こるとされているため、その治療の主体は通絡止痛といって、気血の流れを改善することで痛みを和らげようとします。そのため、通絡止痛には桂皮と芍薬、麻黄、附子などがよく使われます。
また、関節内に水が貯まっている状態では、ヨクイニン、蒼朮、防已などがよく使われ、さらに通絡の補助と除湿の効果を上げるために黄耆もよく使われます。
関節の熱感が強い場合、石膏などの熱冷ましの薬を一時的に使いますが、熱感が治まり次第、できるだけ早く減量・中止とした方がその後の病勢コントロールに有利であるといわれています。そのため、関節に熱感が軽度みられる場合は、石膏より知母という熱冷ましの生薬の方がよく使われます。
痺証によく使われるエキス剤は、これらの生薬が入っており、その代表的なものとして、桂枝加朮附湯、ヨクイニン湯、防已黄耆湯、桂芍知母湯、越婢加朮湯、麻杏ヨク甘湯などがあります。関節リウマチには附子がよく使われますが、その効果の主たるものは通絡止痛作用にあります。しかし、附子は煎じ薬として使うより附子末として服用する方がその止痛効果は圧倒的にすぐれ、逆に暖める作用については、煎じ薬として使う方がすぐれているといわれています。この附子末の通絡止痛にすぐれ、温める作用が少ない点は、熱性の関節痛にむしろ使いやすいと思われます。