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院長 田中康文

百日咳


百日咳というと今までは小児の病気として成人ではあまり注目されていませんでしたが、最近、成人での感染報告がみられ、遷延性・慢性咳嗽の一つの原因として注目されつつあります。成人で3週間以上続く咳の原因の2割弱が百日咳だと報告されています。

好発季節は春から秋、特に8、9月に多く発生します。幼小児では百日咳菌ワクチン接種により発症率が低下しましたが、ワクチンの効果は約10-12 年と報告されており、そのため抗体価が下がってくる青少年期や、ワクチン普及前の流行時期に得た自然免疫が低下してきている成人での発症が問題になってきています。そのため、百日咳感染者は他の慢性咳嗽に比して年齢が若く、また末梢血の白血球数が多く、とくに好中球が有意に多いとされています。

また百日咳菌は流行性、感染性の強い菌で、この菌の感染者は、70%~100%の家族内感染を起し、50%~80%の学校内感染を引き起こすとされています。このような百日咳菌はグラム陰性桿菌で、気道上皮細胞、主として線毛細胞に付着して百日咳毒素を産生し、その結果激しい咳を生じるとされています。

その小児期での百日咳の典型的経過は、まず結膜炎、鼻炎、発熱、全身倦怠感があり、咳嗽が起こります(カタル期:1-2週間)。 つぎに痙咳期(咳嗽発作期:4-6週間)に入ります。咳嗽がひどくなり、続性の咳嗽や、吸気時の笛声音(ひゅー)、発作性の咳、咳き込み後の嘔吐(嘔吐があるのは百日咳くらい)が特徴的です。 その後、回復期(2-3週間)激しい発作は次第に減衰し、時折忘れた頃に発作性の咳が出ます。 全経過約2~3カ月で回復します。

成人における百日咳の臨床症状は上記のような小児の症状と異なり、その特徴である激しい咳、時には嘔吐や眼瞼結膜などの症状を欠き、また自然寛解もあり、診断は困難といわれています。そのため百日咳と診断されず、乳幼児への感染源になることが問題となっています。特にワクチン未接種の乳児へ感染した場合、重篤化することもあります。 成人での慢性咳嗽の鑑別にはこの百日咳を考慮し、特に咳をしている家族または同居者がいる若い成人では、百日咳感染を疑って、抗体価の測定をした方がよいと思われます。

診断には血清抗体価を測定します。 百日咳菌抗体(細菌凝集法)検査は、ワクチン株である東浜株と比較的最近の流行株である山口株の2種類の抗体を測定します。感染初期と2週間以上経た時期のペア血清測定を行い、4倍以上の上昇で診断します。 シングル血清(1回の検査)で診断する場合は、ワクチン未接種者や10歳以上では東浜株、山口株のいずれかが40倍以上、10歳未満ではいずれか320倍以上が目安とされています。ワクチン接種者では抗体価が長期間持続することがあり、いずれか1280倍以上で最近の感染を強く疑うという報告もあります。また、確定百日咳患者と明らかな家庭内接触がある場合に百日咳感染を疑います。

 

《治療方針》 殺菌効果による症状軽減を目的に、マクロライド系抗菌薬を第1選択薬とする薬物療法を行います。 ニューキノロン薬も有効です。ただし咳嗽発作期に治療を始めた場合、無効ではないが、効果は限られます。 成人ではすでに痙咳期に入っていると考えられ、抗生物質の効果は期待できませんが、感染源からの菌の拡散は防止できますので、マクロライド薬の投与が必要です。 一方,中枢性鎮咳薬や吸入ステロイドを投与しても咳症状はほとんど軽減されません。

成人での処方例:下記のいずれかを用います) ・クラリシッド錠(200mg)2錠 分2 7-14日間 ・エリスロシン錠(200mg)6錠 分4 7-14日間 治療開始5日間は、自宅に安静にさせ、職場や学校を休むほうが良いと思われます。

 


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