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院長 田中康文

扁桃肥大、扁桃炎


扁桃肥大とは通常よりも扁桃が大きくなってしまう状態をいいます。以前は「扁桃腺」と呼ばれていましたが、現在は「扁桃」が一般的になっています。

扁桃とはアーモンドのことを指しますが、口蓋扁桃(こうがいへんとう)がアーモンドの形に似ているため名付けられました。口を大きく開けてノドを見た時に、のどちんこ(口蓋垂)の両側にあるのが扁桃ですが(正しくは口蓋扁桃と呼ばれます)、扁桃にはこのほかに、のどの一番奥にある「咽頭扁桃(アデノイド)」や舌の付け根にある「舌根扁桃」など、扁桃にはいくつかの種類があります。一般的に扁桃とは口蓋扁桃のことを指し、扁桃肥大とは、口蓋扁桃がとくに大きくなってしまうことを指します。

扁桃は咽頭の中で発達したリンパ組織で、口蓋扁桃と咽頭扁桃、舌根扁桃はのどの入口を取り囲むようにあって、身体の入口の関所のような働きをしています。つまり、鼻や口から入ってきた細菌やウイルスをとらえて、それに対して抵抗するからだの働き(免疫)の一部を担っています。

成長の著しい子どもの時期は扁桃の活動も盛んなため、扁桃も大きく、大人になると小さくなってきます。

子どもが成長していく過程で、感染症から身を守るため、1歳頃から口蓋扁桃は大きくなり始め、4~5歳で肥大し、7~8歳で大きさや働きのピークを迎え、12~13歳で縮小し思春期を過ぎる頃には萎縮します。

咽頭扁桃(アデノイド)はこれに先駆けて2~3歳で肥大し5歳で最大となり10歳頃までには退縮します。したがって幼児、学童期の扁桃肥大は基本的には生理的肥大で、扁桃内部で展開される生体に有利な免疫現象の形態表現と考えられるので、通常は臨床症状を伴わず、単に扁桃の肥大をもって手術などの治療の適応になることはありません。また、扁桃肥大だからといって必ずしも炎症を起こしやすいとは限らず、ほとんど炎症を起こさない場合もあります。

一方で扁桃はきわめて多くの外来抗原に早期に接触するため広範囲な病原微生物による感染症も成立します。急性扁桃炎や慢性扁桃炎のときなど扁桃はその生理的機能を逸脱して生体に不利に働く場合もありこれを病的肥大といいます。成人でこれら扁桃の肥大を認めた場合、急性扁桃炎や扁桃周囲炎などの炎症を繰り返した場合のほかに、悪性リンパ腫、癌などの腫瘍性病変による病的肥大を考慮する必要があります。このように生理的肥大か病的肥大であるかの判断が必要となります。

・生理的肥大や慢性炎症による肥大は両側性です。

・慢性扁桃炎では扁桃の発赤、膿栓の付着を認めます。

・片側性の肥大は悪性リンパ腫や腫瘍を疑います。

 触診では、小児の生理的肥大では柔らかく表面が平滑であるものが多いです。

・慢性扁桃炎では膿汁の圧出がみられます。

成人例では細胞間質、線維性分の増加により硬く、また埋没していることも多いです。

臨床検査では、細菌学検査、血清ASO, ASK抗体測定、尿検査による溶連菌感染の関与、病巣感染症の有無の検索、腫瘍が疑われる場合は病理組織学的検査が必要です。咽頭扁桃(アデノイド)は左右耳管のまんなかにあるので耳管狭窄、滲出性中耳炎の原因になったり、アデノイドの炎症が耳管経由で中耳に炎症が普及するため急性中耳炎を繰り返したりします。

以前は、扁桃が大きいと診断されるだけで摘出手術をおこなっていました。しかし、現在では、日常生活への支障が大きい場合に手術を検討しています。口蓋扁桃は子どもの頃には免疫の役割を持ちますが、他にも扁桃組織が存在するため口蓋扁桃を切除しても問題ないと考えられています。

また、子どもの場合には、多少扁桃が大きくても成長とともに扁桃が小さくなるので、すぐに手術するのではなく、しばらく様子を見ることも少なくありません。扁桃摘出の手術を検討するのは、以下のような場合です。

①繰り返し扁桃が腫れて発熱する場合

1年に3~4回以上扁桃炎になる

②繰り返す扁桃炎や他の臓器に悪影響を及ぼしている場合

扁桃にすみついた細菌によって、扁桃から離れた体の部分に病気が起こる状態を、

扁桃病巣感染症(病巣性扁桃炎)といいます。

よく起きる病気には、皮膚に起きる病気(掌蹠膿疱症、尋常性乾癬など)や腎臓に起きる病気(IgA腎症)、骨や関節に起こる病気(慢性関節リウマチなど)があります。

③扁桃が肥大しているため、呼吸や食事が困難になる場合

特に眠っているときに呼吸がしばらく止まる睡眠時無呼吸症候群になっている場合は手術をすすめられます。

④扁桃周囲膿瘍になった場合

口蓋扁桃だけでなく周囲にも炎症を起こした状態を、扁桃周囲炎といいます。炎症が続き、膿が扁桃やその周囲にたまった状態を、扁桃周囲膿瘍といいます。膿がたまった場合は手術をします。膿が首や胸にまで流れていくと、命に関わる非常に危険な状態になることがあります。

扁桃肥大の手術は、全身麻酔で1時間〜1時間半ほどかかり、入院期間は1週間〜10日前後が一般的です。術後に麻酔がさめると強い痛みが襲ってくることがあります。長い場合には1週間程度続くこともあります。また、手術中に舌を押さえつけておくことで味覚障害がや喉の違和感が残る場合もあります。しかし、ほとんどの場合、症状は一定期間を過ぎるとおさまります。また、扁桃腺が元々大きい場合、声の感じが変わることがあります。

以上が西洋医学的考え方と治療方針です。

しかし、漢方的にもしばしば扁桃炎を繰り返したり、高熱を出す人でも漢方で改善されることがよくあります。使用される代表的なエキス剤は、炎症が強い場合は、小柴胡湯加桔梗石膏あるいは桔梗石膏、柴胡清肝湯、白虎加人参湯、ニキビや副鼻腔炎にも使われる荊芥連翹湯、清上防風湯さらに中耳炎、副鼻腔炎、乳腺炎などにも使用される葛根湯などを組み合わせて用います。症状が軽い場合は桔梗湯などが用いられます。

しかし、症状が重いときや扁桃周囲炎あるいは扁桃周囲膿瘍の場合は煎じ薬を用いています。

 

以下にその一例を示します。

症例:39歳女性

平成27年の暮れに自分で鏡でノドの奥を見たら、ボコッとノドが腫れているのに気がついた。

痰は少しだけ出る。何かがくっついている感じの違和感がある。

ノドの痛みは基本的にないが日中なると微熱が出る。

そのため、当日、某病院耳鼻科を受診した。

鼻から管を入れたら扁桃腺が腫れているかもしれないし、腫瘍かもしれないし、癌かもしれないと言われ、抗生物質とムコダインを処方された。

(所見)

左の扁桃腺の上が腫れている、白い膿が奥にみられる、大きさは2㎝以上、口蓋垂から軟口蓋が赤く腫れている。この方は以前からノドの痛みを訴えていたため扁桃周囲炎もしくは扁桃周囲膿瘍を疑い以下の14生薬からなる煎じ薬で開始した。

(芍薬12g、枳実12g、玄参15g、甘草4g、知母12g、桔梗12g、牛蒡子9g、カロ根10g、石膏30g、

牡丹皮9g、連翹12g、金銀花12g、貝母12g、冬瓜子12g、以上朝夕食前)

その後、徐々にノドの違和感が少なくなり、扁桃の白い膿も赤みも少なくなり、腫れも次第に小さくなり、約3カ月半ほど経ってから症状も扁桃の赤みも腫れも消失した。

 

このように手術でなくても漢方薬だけでも治癒させることができることを覚えておいてほしいと思います。


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