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  • 院長 田中康文

ヘバーデン結節、ブシャール結節


手の親指以外の手の指には、指先に近い方から遠位指節間(DIP)関節、近位指節間(PIP)関節、中手指節(MP)関節と三つの関節がありますが、親指は2つの関節しかなく、指先に近い方からIP関節、MP関節があります。

このような手の指の関節が腫れたり痛んだり、指の関節が変形する代表的な疾患として、関節リウマチのほかに、ヘバーデン結節、ブシャール結節があります。ヘバーデン結節は人差指から小指にかけて、DIP(第1)関節が赤く腫れて変形し曲がってしまう原因不明の疾患で、しばしば痛みを伴います。親指のIP(第1)関節にもみられることもあります。第1関節の背側の中央の伸筋腱付着部を挟んで2つのコブ(結節)ができるのが特徴です。また第1関節の近くに粘液嚢腫と呼ばれている水ぶくれのような透き通ったでっぱりができることがあります。

この疾患の報告者、イギリスの医師へバーデンの名にちなんでヘバーデン結節と呼ばれています。関節リウマチはPIP関節に発症することはまれで、PIPやMP関節に発症することが多いのでDIP関節だけが腫れている場合はへバーデン結節の可能性が高いと思われます。

ヘバーデン結節に類似し、第2関節のPIP関節が赤く腫れ上がり変形することがあり、これはブシャール結節といわれ、へバーデン結節の約 20%に合併するといわれていますが単独で発生することもあります。発生頻度は、圧倒的に第1関節に生じるヘバーデン結節が多く、第2関節に生じるブシャール結節はそれほど多いものではありません。このようなブシャール結節は人差し指から小指のPIP(第2)関節がヘバーデン結節と同様に、こぶ状に膨らんで指が曲がって変形して、しばしば痛みや動きの制限が生じます。親指は他の指関節のようなPIP関節がないのでブシャール結節はできません。ブシャール結節は報告者のフランス人の病理学者、チャールズ ジャック ブシャールから名付けられています。

PIP関節は関節リウマチの好発部位でもあり、初期の場合は区別が困難で、このような場合は血液検査、レントゲン、関節エコーなどの精査が必要です。関節リウマチは関節に炎症が続いて、関節が徐々に破壊され、やがて機能障害を起こす病気で、徐々に骨びらんが増加し、骨と骨の隙間もが狭くなり(関節裂隙狭小化)、関節軟骨が薄くなっていきます。X線検査では関節周囲の骨粗鬆(骨が薄くなること)、関節の隙間の狭小化、骨びらん(骨が虫食いのように一部欠けていること) などから、リウマチの進行度がわかります。

一方、ヘバーデン結節、ブシャール結節は指の関節の軟骨がすり減り、骨棘などの変形を伴い骨腫大を特徴とする変形性関節症で、X線検査では関節裂隙の狭小化、骨棘形成、軟骨下の骨硬化、軟骨下の嚢胞などがみられます。

関節リウマチは関節周囲の骨粗鬆症を伴いますが変形性関節症は骨硬化を伴います。

また関節リウマチの腫れは弾力のある腫れで、変形性指関節症の腫れは骨棘形成による骨ばった腫れが触れます。

このようにヘバーデン結節、ブシャール結節は関節リウマチとは違う疾患です。以下に挙げる四つの症状のうち一つでもあると関節リウマチが疑われます。

1)朝、起きたときに関節のこわばり(朝のこわばり)が15分以上みられ、このような状態が一週間以上続く。(朝のこわばり:起きてしばらくは関節が思うように動かないことで、早朝の家事や仕事が辛いことがあります。)

2)全身の3つ以上の関節が腫れ、その状態が一週間以上続く。

3)左右の関節が腫れ(左右対称性)が一週間以上続く。

4)手指の第2・3関節、手首、足首、足趾のつけ根の関節が腫れ、一週間以上続く。

早期には、痛みよりも「腫れ」と「こわばり」が目立ち、それらが「一週間以上続く」ことがポイントです。関節リウマチは、早く見つけ、早く治療を始めるほどよい経過が得られます。

ヘバーデン結節、ブシャール結節はともに40歳以降のヒトに多くみられますが、男女差がないという報告や女性に特有な症状で、男性より約10倍多いという報告がありますが一般的には女性に発生しやすいようです。また,加齢によるホルモン異常や指をよく使う人がなりやすいといわれていますが、発症は50~60歳代に限局していることが多く、年齢とともに増えたという記載はありません。また、利き手ではない指にも発症することから、決して「使いすぎ」だけが原因ではないようです。

遺伝性は証明されてはいませんが、母や祖母がヘバーデン結節になっている人もいます。

女性ホルモンの減少を原因とする説もあります。手の病気は妊娠時、産後、更年期に起こりやすく、エストロゲンは腱や滑膜(関節を包む膜)の腫れを取る抗浮腫作用があり、閉経して急にエストロゲンが出なくなることで、腱や関節に炎症が起こりやすくなるといわれています。

ヘパーデン結節、ブシャール結節はいずれも指の第1あるいは第2関節が赤く腫れたり変形して、曲げ伸ばしの際に痛みが生じたり、動きの制限が出てきますが、朝のこわばりはありません。ある程度進行して変形してしまうと痛みはなくなります。

予防として、症状の出ている関節を、指や刺激の柔らかいものでひたすら揉み解して血行を促すことが効果的です。軽く擦る要領で、しばらく癖になるように根気よく擦ることです。異常に気づいた早期の時期から励行すると軽く済みそうです。

自分の母や祖母が経験していると体質遺伝が考えられますので、まだ症状がでていなくても日頃から指の関節のマッサージを心がけましょう。 

50歳以降の更年期に、DIP関節、PIP関節の痛み、腫脹、変形を訴えて整形外科に来院する患者さんはたくさんおられます。そんな人たちが医師に言われることの多くは、「年のせいです」「使いすぎです」「治りません」の3つです。実際、西洋医学的治療として、痛みがあるときには鎮痛剤の投与とともに安静にして、指をなるべく使わない、痛くても使わなくてはならないときは、テーピングでの固定やプラスチックの小さな装具による固定し、急性期では少量の関節内ステロイドを注射することがありますが、これらの保存的治療は実用的でなく、また効果も一時的です。また変形がひどくなり日常生活に支障をきたす場合は、手術を考慮し、関節を固定してしまう方法や人工関節を入れる手術を行うことがありますがこれらの治療は一般的ではありません。最近では、痛みを和らげるために指関節、特にPIP関節の緊張した浅指屈筋腱を切除するという手術法も考案されています。

一方、漢方的にはヘバーデン結節、ブシャール結節の痛みには重症でない限り、かなり改善される印象を持っています。ただ、すでに屈曲・拘縮している指関節の改善はありません。使用される漢方薬はヨクイニン湯、越婢加朮湯、桂芍知母湯、温経湯、附子末などがあります。

 

その1例を示します。

症例は77歳女性

主訴:手の指を曲げた後 あけられない

初診:平成30年3月26日

昨年の暮れ、左の薬指の第2関節が痛かった。最近、右手の中指の第2関節が腫れて痛い。

右手の中指のMP関節も少し痛い。朝、起きた時、まっすぐにならない、朝、痛くて、曲げられないけど、マッサージをしていると伸びてくる。

(所見)

《右手》

第1関節はすべて軽度屈曲、拘縮あり

中指の第2関節も軽度屈曲あり

中指のMP関節は軽度腫れており、圧痛軽度あり

《左手》

親指以外は第1関節はすべて軽度屈曲拘縮あり

薬指は第2関節が若干屈曲している

《まとめ》

左右の手の指の第1関節の屈曲拘縮はヘパーデン結節

右手の中指と左の薬指の第2関節の屈曲はブシャール結節と思われる。

また右手の中指のMP関節の痛み、圧痛はバネ指の可能性がある。

処方:

①越婢加朮湯5.0g、朝夕食前、8日分

②桂芍知母湯6.0g、朝夕食前、8日分

2診目(1週間後)

右手の中指の第2関節とMP関節はいくらか痛みが和らいだけどまだ痛い。右手の中指のつけ根がポッポする。唇が乾く。

(所見)

《右手》

すべての第1関節の軽度屈曲は変わらない

中指の第2関節軽度で屈曲あり

中指のMP関節の圧痛あり

右手の中指は伸ばすときに痛い

《左手》

親指以外の第1関節の軽度屈曲は変わらない

薬指は第2関節が若干屈曲している

薬指の第1関節が痛かったけど楽になった

《まとめ》

バネ指で口唇乾燥感と手のほてりのある人で温経湯が効果があったという報告があることから桂芍知母湯から温経湯に変更。

処方:

①越婢加朮湯5.0g、朝夕食前、7日分

②温経湯5.0g、朝夕食前、7日分

3診目(さらに1週間後)

指はまっすぐに良くなった。右手の指がポッポするのも良くなった。

(所見)

《右手》

第1関節はすべて軽度屈曲、拘縮は変わらない

中指の第2関節の屈曲は軽度になって痛みも無くなった

中指のMP関節の痛みも良くなって、圧痛も無い

中指のMP関節が腫れていたけど、いくらか良くなった

中指は伸ばすときだいぶ、楽になっている

《左手》

親指以外の第1関節の軽度、屈曲は変わらない

薬指の第2関節の屈曲は大分良くなっている

《まとめ》

温経湯がバネ指に著効した。

また右手の中指と左手の薬指の第2関節も改善したため、ブシャール結節にも効いた可能性がある。

処方:

①越婢加朮湯5.0g、朝夕食前、7日分

②温経湯5.0g、朝夕食前、7日分

4診目(さらに1週間後)

指の曲がりも痛みも大分良い

(所見)

《右手》

第1関節はすべて軽度屈曲、拘縮は変わらない

中指の第2関節は、まっすぐになって痛みなし

中指のMP関節の痛みなし、圧痛なし

《左手》

親指以外の第1関節の軽度、屈曲は変わらない

薬指の第2関節は伸びていて痛みなし

処方:

①温経湯5.0g、朝夕食前、14日分

以後、来院せず。


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