「隠れ貧血」が妊娠を遠ざけている可能性があります。
妊活中に大事な成分と言えば、葉酸やビタミンをイメージされる方も多いと思います。
葉酸やマルチビタミンを含んだサプリメントは実際に多く販売されています。しかし、鉄分が子宮内の粘膜を厚くしたり、卵巣の老化を防ぐ働きがあることは意外に知られていません。実際に妊活をしているけど、なかなか妊娠しないという方の特徴として、フェリチン(鉄分の貯蔵量)が少ないことが多いと言われています。
鉄分は赤血球を作り出す働きがあります。その赤血球は、体全体に酸素や栄養を運ぶ大事な役割があります。赤血球が減ってしまうことで充分な酸素や栄養が行き渡らず、卵巣や子宮の働きが鈍くなってしまう可能性があります。また鉄はミトコンドリアにおけるエネルギー産生においても重要な役割を担っています。
生物が生命活動を続けて生き続けるためにはエネルギーが必要ですが、体内の鉄が不足した環境下では、ミトコンドリア内のエネルギー産生が低下します。そのため、ネルギー不足が受精卵の発育停止=生命活動の停止を引き起こす可能性があります。 これまでに何回も体外受精を繰り返しているのに、良質の受精卵ができない、胚盤胞まで育たない、受精卵を何回移植しても着床しない、などの患者様では、受精卵が発育停止している可能性があります。 その原因の一つとして体内の鉄不足によるエネルギー産生の低下が関与している可能性はあります。また、鉄不足によるエネルギー不足は冷えも引き起こします。体内の鉄を増やし、貯蔵鉄を上げることがすなわち冷え性の改善につながり、不妊の治療にもなると考えられます。
さらに鉄分は、子宮内の粘膜を作るという大事な役割があります。この粘膜が厚く、ふかふかになることで、受精卵が着床する可能性が高くなります。また着床後、胎児の成長にも鉄分は欠かせません。血液を通じて胎児に充分な酸素や栄養を送って上げる必要があります。低酸素の状態が続いてしまうと、未熟児や低体重児で生まれてしまう可能性が高くなります。
最近は精子や卵子の「質」が妊活に大きく影響することがわかってきています。体内で発生する活性酸素が精子や卵子の「サビ」(酸化)を引き起こすのですが、鉄分には、その活性酸素を除去する働きがあります。また、 卵子の老化を抑制する抗酸化酵素が働くためには鉄が必要です。そのため隠れ貧血の方では、卵子の質が悪くなり、妊娠しにくくなります。 体内の鉄の6~7割は血液に含まれるヘモグロビンの成分として、残りの2~3割は脾臓、肝臓、小腸粘膜などに貯蔵鉄(フェリチン)として蓄えられています。体内の鉄が不足すると、まず貯蔵鉄から不足分が補われて、血液中に供給されます。
ところが、一般的な健康診断や献血では、赤血球中のヘモグロビンやヘマトクリットの数値を調べるので、貯蔵鉄が不足していても気づきません。そのため、貯蔵鉄は減り始めているものの、まだ貧血症状が現れていない段階を「潜在性鉄欠乏」(隠れ貧血)といいます。
女性は毎月の月経で鉄が失われるため、妊娠可能な年齢の女性のほとんどが鉄欠乏に陥っていると言えます。月経による出血などで体内の鉄が失われると、まずは生命活動を維持するために重要なヘモグロビンの鉄を維持することを優先し、貯蔵鉄であるフェリチンの鉄が最初に消費されます。さらに毎月の月経によって徐々に鉄が失われていき、失われた分の鉄が補充されない状態が続けば、ヘモグロビン値は正常でもフェリチンが低いといういわゆる"隠れ貧血"と呼ばれる状態に陥ります。日本人女性の多くは月経による鉄の喪失、貧相な食生活(鉄、たんぱく質不足、糖質過多)の影響により潜在性鉄欠乏(低フェリチン)の状態です。 フェリチンの値ですが、5ng/mL以上が正常と言われていますが、10ng/mL以下になっている状態の場合、妊娠の可能性はほとんど見込めないといわれています。 妊娠を望む人の血中のフェリチンの数値は報告により多少バラツキがありますが、最低でも30ng/mLから50ng/mLは必要という報告、常時50ng/mL程度以上に維持した方がよいという報告、さらに60ng/mL以上が必要という報告があります。
食物に含まれる鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。日本人の食べる食材には非ヘム鉄が多く含まれますが、吸収率が高いのは肉や魚に含まれるヘム鉄です。 非へム鉄: 野菜や海藻などの植物性食品に含まれ、吸収率は5%以下と低い。食物繊維や、コーヒー・お茶に含まれるタンニンが吸収を阻害してしまいます。
非ヘム鉄が多い食材はほうれん草、きくらげ、プルーン、海草類など。
ヘム鉄: 肉や魚などの動物性食品に含まれ、吸収率は10~30%と、非ヘム鉄の5~10倍も吸収されます。豊富な食材はレバー、赤身肉、牛肉、鶏肉、鰹、マグロ、イワシ、煮干し、せんまい、あさりなど。
吸収率の高いヘム鉄を含む食材を、意識して取ることが薦められます。 毎日レバーを食べるのは難しいかもしれませんが、意識して3食とも肉を食べるようにすると、2~3日で体がポカポカと温まるのを実感できると思います。鉄の吸収をあげる方法として、ビタミンCやビタミンEの摂取も有効です。また、フェリチンはそもそも鉄結合タンパク質(タンパク質に覆われた状態)であるため、タンパク質が不足した状態では鉄だけ摂取してもなかなか上がってきません。 鉄と同時にタンパク質の摂取が必要です。
冷えの改善、不妊の改善のためには鉄そしてタンパク質を補う必要があります。しかし、鉄分の取りすぎには注意して下さい。鉄は元々酸化させる力の強いミネラルです。フェリチンは、周りの細胞を傷つけないようカバーを着けた状態の鉄だといえます。必要以上の鉄をとり続けると、カバーが足りなくなり、余った鉄がカバーを着けないまま血液中に流れ出てしまいます。体を維持するうえで欠かせない鉄ですが、余ってしまうとその強い酸化力で体を傷つけてしまいます。良く知られているのが、鉄の貯蔵器官である肝臓のダメージや、血液中に流れ出した鉄による血管へのダメージです
次の項目にすべて当てはまる人は鉄分過剰に注意が必要です。
元々貧血でない(ヘモグロビン+フェリチンの検査をしておけば確実)
出産経験なし
鉄を含んだサプリメントを半年以上摂っている 又は レバーが大好きで頻繁に食べている
現時点で妊娠していない
※ 1日の食事摂取基準2010年版 より抜粋