• 院長 田中康文

排尿痛


排尿時に、下腹部や尿道に痛みを感じます。

「通ぜざれば則ち痛む」という言葉がありますが、尿道の通過が阻まれるために排尿痛が発生します。漢方では、明らかな尿所見がないにもかかわらず慢性的に排尿痛を訴えて、西洋医学的に原因不明、あるいは心身症と診断されている人が多く、そのような人は体質とのかかわりが強く、軽度のものが多いようです。

その原因として

1.気の不足(気虚)

2.気の流れの停滞(気滞)

3.腎の精氣の不足(腎陽虚、腎陰虚)があげられています。

1.気虚:ききょ(気の不足)

先天的、あるいは老化や慢性病により、気が不足して、尿を押しだす力が弱く、そのために排尿痛が

生じます。排尿に時間がかかり、透明な尿、元気がない、疲れやすい、息切れなどを伴い、疲労により増悪します。治療として、気を補い機能を高めることにより排尿を円滑にします。

主な生薬としては黄耆、人参、白朮、甘草など。エキス剤としては補中益気湯、啓脾湯などが用いられます。

2.肝鬱気滞:かんうつきたい(気の流れの停滞)

精神的ストレス、抑うつ、緊張などで肝気の流れが停滞し、膀胱の機能が阻滞されるために排尿痛が生じます。排尿時に脹った痛みがあり、情緒の変動によって痛みが誘発され、そのほかにはいらいら、怒りっぽい、ゆううつ、胸脇部や下腹部が脹って痛むなどがみられます。治療として、肝気をのびやかにし、気の流れを円滑にして痛みを除きます。

生薬としては、柴胡、香附子、鬱金、川楝子など。エキス剤としては四逆散、加味逍遙散などが用いられます。

3.腎虚:じんきょ(腎の精氣不足)

老化や慢性病などにより、腎の精氣が不足すると、尿の貯蔵と排出を行う膀胱の機能が低下するために排尿痛が起こります。これには陽氣が少なくなる腎陽虚と腎の陰液が不足する腎陰虚の2通りがあります。

①腎陽虚(じんようきょ)

老化・慢性病などの衰弱で、腎の陽気が不足し、温める能力が低下して、寒冷により膀胱の気の流れが悪くなり、排尿痛が生じます。排尿に時間がかかり、頻尿、夜間頻尿などがみられることが多く、さらに四肢の冷え、寒がる、元気がない、腰や膝がだるいなどの症状を伴います。治療としては、腎の陽気を補い体内を温めて、機能を増強し、膀胱の機能が円滑に行われるようにします。

主な生薬としては、附子、桂皮、乾姜、鹿茸、鹿角膠、菟絲子、杜仲、淫羊カクなど。エキス剤としては、八味地黄丸、牛車腎気丸などが用いられます。

②腎陰虚(じんいんきょ)

寝不足、過労、思慮過度などにより、腎の陰液が不足して相対的に腎の陽氣が余り、内熱が発生して排尿痛が生じます。尿が濃い、残尿感のほかに、頬部の紅潮・体の熱感、手のひらや足の裏のほてり、腰や膝のだるさなどを伴います。治療としては腎の陰液を補充し、内熱を冷まして、膀胱の機能を正常化します。

生薬としては、乾地黄、玄参、枸杞子、阿膠、牡丹皮、知母、黄柏など、エキス剤としては六味地黄丸+滋陰降火湯、滋陰至宝湯などが用いられます。

そのほかに「心熱下移」、「寒凝」という特殊な状態があります。

【心熱下移】

悩み、過度の思慮などにより、心に熱が発生し、その心火が下に降りて、膀胱に移り、排尿時に灼熱痛を生じます。灼熱性の排尿痛、濃い尿と排尿困難のほかに、焦躁、不眠、口内炎などを伴います。治療としては、心火を冷まし、利尿とともに心火を尿に排泄します。

生薬としては、清心瀉火の乾地黄、竹葉、連翹、蓮子、黄連、黄芩、利小便の滑石、木通、車前子など。エキス剤としては清心蓮子飲、導赤散などが用いられます。

【寒凝】

寒冷の気候や環境によって、凍結の性質をもつ寒冷が膀胱の機能を凝滞させるために排尿痛が生じます。排尿痛とともに下腹部や四肢の冷えがみられ、尿はうすく透明です。治療としては、体内を温めて冷えを除き、気の流れを円滑にして痛みを和らげます。

生薬としては、乾姜、附子、桂皮、呉茱萸、生姜、当帰、烏薬など。エキス剤としては、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、五積散などが用いられます。


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