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院長 田中康文

肩関節周囲炎(四十肩、五十肩)


外傷もないのに、ある日突然肩周辺に強い痛みを感じ、肩関節が動かしにくくなる病気です。医学的には「肩関節周囲炎」と言い、40代~50代にかけて発症しやすいので「四十肩」や「五十肩」と呼ばれています。

夜、寝ていると肩が痛くなる「夜間痛」は五十肩の典型的な症状の1つです。寝返りを打つと痛い、痛いほうの肩を下にして眠れない、眠ってから1~2時間ほどすると痛みで起きてしまう、朝起きると肩が痛いなどの症状がみられます。

五十肩は、加齢によって筋肉・関節が硬くなったり、萎縮してもろくなっている所に負荷がかかり、炎症が起きやすいことが原因の一つと考えられています。最近の研究で、五十肩の患者さんの関節には「余計な血管」が増えており、その血管の周りには神経線維も一緒になって増えており、その神経から痛みが生じているのではないかと思われています。また、余計な血管からフィブリンという線維成分がしみだし、関節の袋に繊維成分が必要以上に溜まってしまい、普通なら薄くて柔らかいはずの関節の袋が、分厚く固くなってしまい、このために五十肩では肩が痛くなるのとともに固くなって動きにくくなってしまいます。

五十肩は激しい痛みが現れる急性期(発症~2週間程度)と、鈍い痛みが続き肩関節が動かしにくくなる慢性期があり、治療してもしなくても数週間~半年後(時には1,2年)に痛みがなくなるという特徴があります。しかし、痛みが消えても肩関節の可動範囲が狭くなることもあります。

西洋医学的治療としては、消炎鎮痛剤の内服、理学療法、関節内へのステロイド剤と局所麻酔剤の混合注射、神経ブロックなどが行われています。また、痛みによる筋肉の過度な緊張をほぐすため、温熱療法などを行う場合もあります。

慢性期には関節内へのヒアルロン酸の注射や夜間痛などを伴った重症例では、関節腔拡張術や鏡視下関節包切離術などの手術が行われています。

上述したように、五十肩は肩関節内に炎症、異常な血管増殖と血流障害、さらにむくみが生じており、肩関節周辺には筋肉の強ばりがみられます。特に夜間痛は関節内外の血流障害によって起こるとされています。このような原因となる状態は漢方薬と鍼灸治療の組み合わせにより改善される可能性が大きいように思われます。

 

代表的な漢方薬として以下の薬が用いられます。

①二朮湯

13生薬(白朮、茯苓、陳皮、天南星、香附子、オウゴン、威霊仙、羌活、半夏、蒼朮、甘草、生姜)から成る漢方薬は体を温め水分代謝を向上させて痛みを改善します。

寒冷刺激で痛みがひどくなる、むくみ体質で胃腸があまり強くない方に向いていて、水分や血液のめぐりをよくすることで、五十肩にアプローチしてくれます。

②桂枝茯苓丸、桃核承気湯

肩関節内外のうっ血を除き血流を改善します。特に固定性で移動しない、昼軽く夜間増強する疼痛は血流障害によることが多く、これらの症状の改善に効果があります。

③芍薬甘草湯

特に夜間痛の緩和を目的に、就寝前だけ飲むことがあります。

④麻杏ヨク苡仁湯

余分な水分を取り除くヨクイニン、発汗作用をもつマオウなどからなる薬。主に炎症期から拘縮期に用いられます。

⑤桂枝加朮附湯

鎮痛作用と体を温める作用が高い薬。冷え性の人で、胃腸虚弱で鎮痛薬が飲めない人にも。

⑥独活葛根湯(市販の漢方藥)

葛根湯をベースに、独活とと地黄を加えた9つの生薬(葛根、桂皮、芍薬、麻黄、独活、生姜、地黄、大棗、甘草)から成る漢方成分は血流を改善し、肩の痛み・こわばり・炎症に働きかけます。

 

寝ていても痛い、じっとしても痛いなどの、痛みが強い急性期(炎症期)は無理をして動かさないほうが良く、無理に動かすと炎症が余計に増して痛みが治りにくくなります。鈍い痛みが出たり関節が動かしにくくなったりする慢性期は、肩を冷やさないようにすることが大切です。

冷えると痛みがひどくなるので、夏は冷房対策もしっかりと行いましょう。

また、糖尿病のある方は五十肩になりやすく、また一度五十肩になると治りにくいことが知られていますので、糖尿病はきちんとコントロールしましょう。

治療や自然経過で炎症期が過ぎれば痛みは徐々に落ち着いてきます。

そのタイミングで動かしていくのが最も早く治るコツです。

痛みが和らいだなら、負担のない範囲で自分で肩を動かすことが大切です。

1.前方に伸ばす運動

痛いほうの手を机の上に置き、そのまま手を机の奥にすべらせていきます。

すると脇がどんどん開いていく形になり、手を持ち上げているわけではないですが、肩が手を挙げたかのような状態になるのがわかります。痛みが出ない範囲まで伸ばしていき、5秒ほど止めて、元に戻します。これを5回繰り返してください。

2.後ろに回す運動

エプロンのひもを後ろで結ぶ動作のように、痛いほうの手を後ろに持っていきます。痛くない反対の手で痛いほうの手をつかまえて、さらに体の後ろに軽く引っ張って伸ばします。

これも痛みが出る手前くらいのところで5秒ほど止める、というのを1日5回してみてください。


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