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院長 田中康文

頻尿


おしっこが近い、回数が多い症状を「頻尿」といいます。 一般に日中8回以上、夜間は2回以上トイレに行くのを頻尿といわれています。特に日中の排尿回数は少ないが就寝中に排尿のために2回以上起きなければならないことを夜間頻尿と呼ばれ、3回以上になると生活の質が低下すると言われています。

夜間頻尿の原因として、水分過剰摂取やアルコール摂取、コーヒーや紅茶、緑茶に含まれているカフェイン摂取、利尿薬が入った高血圧治療薬の服薬などがあげられています。 夜間頻尿に対しては、まず適切な飲水量を守ることが必要です。

「適切な飲み水量」とはノドが乾いて口渇感を覚えた時は積極的に水分を摂った方がよいですが、ノドが乾いていないにもかかわらず飲む水は、少しだけにとどめておいた方よいと思われます。 しかし、高齢者で、体内の水分が足りないにもかかわらず、口渇感を訴えないことがあります。このような場合は自分の手の甲の皮膚をもう一方の手の人差し指と親指でつまみ上げ、その指を離してもつまみ上がった三角形の皮膚がしばらくの間そのまま残って居る場合は、体内の水分が足りない可能性があるため、積極的に水分を摂った方がよいでしょう。

食事以外に摂する飲み水の量は、だいたい1リットル前後以内が適切ではないかと思っています。 一般的には24時間の尿量が20~25ml/Kg(体重)(50Kgの人なら1000~1250ml)になるような飲水量が適切と言われています。 脱水による脳梗塞の発症または悪化の危険性が心配されていますが、24時間の尿量が20ml/Kg体重(50Kgの人なら1000ml)以上あれば脱水の危険性は少ないと考えられ、また、過度の飲水がいわゆる"血液をさらさらにする"効果により脳梗塞の予防になっているとの証拠は今のところありません。

それでは昼間は普通に尿が出ていても、なぜ夜間はおしっこの回数が増えるのでしょうか。高齢者は、夜間頻尿の頻度は増加するといわれています。

西洋医学的には、夜になると、尿として作った水分を再度くみ上げて体内に戻す抗利尿ホルモンが脳から分泌されるといわれています。高齢になるとこの抗利尿ホルモンの分泌が減ってくるので、昼間と同じだけ夜間でも尿を作って排泄しようとするから、夜間にトイレの回数がふえていくと説明されています。 (しかし、このような夜間頻尿は高齢者だけでなく、冷えの体質の人にもしばしばみられます。たとえ夜、湯たんぽなどを入れて足や体を暖かくしても夜間頻尿の症状がみられこの場合は西洋医学的に説明されていません。)

頻尿の原因として、前立腺肥大症、過活動膀胱(突然に起こる我慢しがたい強い尿意を尿意切迫感)(前立腺肥大過活動膀胱の診断基準・質問表は「ふれあい漢方あれこれ」を参考にして下さい)、炎症(膀胱炎、尿道炎、前立腺炎など)、前立腺癌などがあげられますが、そのほかに精神的ストレスや冷えによることも多く、この場合は漢方薬の出番となります。

東洋医学的に頻尿の原因を考えると、膀胱に蓄えられた尿は腎の陽気によってその貯蔵と排泄が調節されているといわれていますので、頻尿は直接的には膀胱・腎の病変によって発生します。 しかし、体内の水分を腎~膀胱に送り出す、あるいは腎~膀胱から尿として排泄するためには、「気(エネルギー)」が必要ですので、この「気」の作用あるいは調節する肝の働きも大切です。 東洋医学的によくみられる頻尿の原因は精神的ストレスと冷えの体質です。 それぞれの頻尿の症状の特徴を述べると

【精神的ストレスによる頻尿】

その症状の特徴は、①尿量が少ない、②情緒の変動で頻尿が甚だしくなる、③睡眠中は症状が消失、そのほかにイライラ、怒りっぽい・憂鬱などの症状をしばしば伴います。 これは精神的ストレス・緊張などによって、情緒と深い関係がある肝気がのびやかでなくなり、腎~膀胱のきを乱し、尿の貯留が少ないにもかかわらず頻尿を引き起こします。 治療は、四逆散や加味逍遥散などで、肝気をのびやかにさせ、気の流れを整えます。

【冷えの体質による頻尿】

その症状の特徴は、①夜間頻尿・多尿があり、②日中は尿の回数も量も少なく、③四肢の冷え・寒がる・むくみなどをしばしば伴います。 これは、元々冷えの体質や老化などにより腎の陽気が不足し、水分を温めて全身にめぐらすという水分代謝(気化と呼ばれています)が正常に行われないために、水分が停滞して、浮腫や日中の尿量減少が生じる一方、陽気が裏に向かう夜間には水分代謝(気化)がやや回復するために、夜間頻尿を引き起こすと説明されています。 その治療には腎の陽気を補い体内を温めて水分代謝を正常化する「温補腎陽」を行います。


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