• 院長 田中康文

自然な眠気を強める睡眠薬:ロゼレム(不眠症:その10)

近年、自然な眠気を強める薬として、ロゼレムとベルソムラが販売されています。それぞれの特徴とメリット、デメリットについて説明したいと思います。

●ロゼレム

〔ロゼレムとメラトニン〕

ロゼレムの作用メカニズムには、メラトニンという体内時計のリズムを整えている物質が大きく関係しています。ロゼレムは生体内に存在しているメラトニンというホルモンが作用する受容体(メラトニン受容体)に働き、メラトニンと同じように刺激して、自然な睡眠状態を促していきます。そのため、依存性が極めて少なく、効果と副作用に個人差があるという特徴があります。

メラトニンは脳幹上部にある松果体という場所で作られ、視床下部に働いて、睡眠と覚醒だけでなく、代謝や免疫など様々な機能の調節をおこなっています。

このようなメラトニンは20時ごろから分泌されて増加していき、夜間の1~2時をピークに、明け方に減少していきます。そのため、メラトニンは体内時計を司るホルモンと呼ばれ、体内時計のリズムを整えて睡眠状態を維持していく役割を果たしています。このメラトニンの分泌は光と年齢に大きく影響されます。


光に対しては、2つの大きな影響があります。

  1. 光を浴びるとメラトニン分泌が抑制される。

  2. 日中に光を浴びると夜間のメラトニン分泌が促進される。


光を浴びると、網膜を通して視神経から視床下部にある視交叉上核という部分が情報を受け取り、松果体からのメラトニン分泌が抑制されます。そして日中に光を浴びることでメラトニンが抑制されていると、夜間の分泌が促進されることが分かっています。そのため、日中は光をしっかりと浴び、夜は光を避けるということがとても大切です。また、メラトニンの分泌は加齢とともに低下し、10代をピークに、50~60代では10代の1/10程度にまでも低下することが分かっています。そのため年を取ると眠りが浅くなってしまいます。これらの特徴から、特に高齢者は、日光浴が大切です。

視床下部の視交叉上核にはメラトニン1受容体とメラトニン2受容体という2つの受容体が存在しています。ロゼレムはこの視床下部の視交叉上核にあるメラトニン1とメラトニン2受容体だけに作用するように作られています。

メラトニン1受容体には体温を低下させて睡眠を促す作用があり、メラトニン受容体は体内時計を同調させてリズムを整える作用があります。このためロゼレムは、睡眠状態を安定させる作用が期待できます。しかしロゼレムは効果が出るまでに時間がかかり、2~4週間ほど飲み続けていくうちに徐々に効果が出ることが多いため、実感がなかなか得られにくいという欠点があります。そのため、ロゼレムは時間的な余裕があるときに使われます。メラトニンは加齢とともに減少していくので、高齢者には向いています。

〔ロゼレムの作用時間と適応〕

ロゼレムの最高血中濃度到達時間は0.75時間、半減期(血中濃度が半分になるまでの時間)は0.94時間となっており、極めて作用時間の短い薬ということになります。しかし、ロゼレムの効果は代謝産物にも認められ、ロゼレム全体でみると、半減期は2時間ほど、効果のピークは1時間ほどとなります。そのため、メーカー側の報告ではロゼレムの適用は寝つきが悪い(入眠困難)の改善となっています。

しかし入眠障害を改善するためには、切れ味がよい薬ほど効果がありますが、ロゼレムは強引さがなく入眠障害に対しては効果は期待しづらく、むしろ中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害に対して、効果が期待できます。また、ロゼレムは、体内時計のリズムを整える作用も期待できます。そのため、時差ぼけや交代勤務の時などに効果が期待できます。この効果には即効性が期待でき、通常容量の8mgの1/4あるいは半分の2~4mgでも十分であるとも報告されています。

〔ロゼレムのメリット・デメリット〕

メリットとしては、

1. 自然な眠気を強める。

2. 中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害に有効。

3. リズムを整える効果が期待できる。

4. 依存性が極めて少ない。

5. せん妄を起こしにくい。

6. 処方日数の制限がない。


デメリットとしては、

1. 入眠障害には効果が不十分なことがある。

2. 効果が出るのに時間がかかることがある。

3. 眠気が残ることがある。

4. 頭痛が起こることがある。

5. ジェネリックが発売されていない(薬価が高い)


ロゼレムは、生理的な物質であるメラトニンに作用する薬なので、依存性が極めて少ないという特徴があります。このため、多くの睡眠薬では、30日の処方制限がありますが、ロゼレムは処方日数の制限がありません。また睡眠薬を飲んだ時に、高齢者で時々、一時的に意識が混濁して興奮してしまい、異常行動などをとってしまうという“せん妄”が、ロゼレムでは起こりにくいという特徴があります。この点でもロゼレムは、高齢者に向いている睡眠薬といえます。

ロゼレムの副作用として、眠気が最も多いことが知られています。ロゼレムは作用時間は短く、薬の成分は比較的早くに身体から抜けていきます。しかし生理的な物質に作用する薬なので、効果にも個人差があります。ロゼレムが効きすぎてしまい、眠気が朝まで残ってしまう人もいます。その場合は、ロゼレムの量を8mgから4mgに減らすか、あるいは生理的なリズムに合わせて、21時に服用します。

ロゼレムの副作用として、眠気に次いで、頭痛が多いことが報告されています。メラトニン受容体1は血管に対して収縮作用に、メラトニン受容体2は拡張に作用し、ロゼレムはこの両方の受容体に作用することが知られています。この時、メラトニン受容体1より2の方が強く作用すると、脳の血管が拡張し、その周囲の三叉神経が圧迫されます。刺激をうけた三叉神経から痛み物質が放出され、頭痛が起こります。ロゼレムで頭痛がみられた場合は、頭痛に対して慣れることがあるため、しばらくの間様子をみるか、あるいは他の薬に変えます。


ロゼレムを使っていくにあたっては、睡眠習慣を見直すことも重要です。睡眠習慣と合わせて取り組むことで、睡眠薬に依存することなく不眠の改善を行っていきましょう。他の睡眠薬からロゼレムに切り替える場合、不眠がかえってひどくなってしまうことがあります。

睡眠薬を急に入れ替えてしまうと、前の睡眠薬の離脱症状が起こることがあります。それによって、反跳性不眠(不眠がひどくなってしまうこと)となってしまうことがあります。

この場合は、前の睡眠薬の量を減らさずにロゼレムを加えて、その後、良好な睡眠が得られれば、前の薬を徐々に減量していきます。

〔ロゼレムの用法、併用禁忌・注意〕

ロゼレムは、1錠:8mgだけとなっており、1回8mg,就寝前となっています。

ロゼレムは、幾つかの肝臓の酵素で代謝されて分解されていきます。このためこのような肝臓の酵素を阻害する薬は、併用禁忌・併用注意となっています。

抗うつ剤のデプロメール/ルボックスはロゼレムと併用が禁止されています。

また抗菌薬のニューキノロン系とマクロライド系、抗真菌薬のフルコナゾールとケトコナゾール、抗結核薬のリファンピシンが併用注意となっています。

これら以外には、アルコールは中枢神経作用があるために、相互に作用を強めてしまうために併用注意となっています。

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