• 院長 田中康文

脳の活動を抑制する睡眠薬:非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(不眠症:その9)


ベンゾジアゼピン系睡眠薬はベンゾジアゼピン骨格を持ちますが、ベンゾジアゼピン骨格を持たない睡眠薬は非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と呼ばれ、区別されています。

ベンゾジアゼピン系は催眠と鎮静作用があるω1受容体と抗不安と筋弛緩作用があるω2受容体の両方に作用しますが、非ベンゾジアゼピン系は催眠と鎮静作用があるω1受容体だけに作用するとされています。そのため、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は不眠の改善作用に特化しており、筋肉を緩めるような作用が少なく、ふらつきや転倒の危険性が緩和されています。

また従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬と比べると、依存性や副作用が軽減され、使い勝手のよい睡眠薬として処方が増えています。

しかし非ベンゾジアゼピン系は半減期(血液中の濃度が半分になるまでにかかる時間)は2~5時間、最高血中濃度に達する時間は0.8~1時間と超短時間型しかなく、しかもアモバンとマイスリー、ルネスタの3種類しか販売されておらず種類は非常に少ないです。

〔非ベンゾジアゼピン系のメリット・デメリット〕

メリットとしては、

  1. 睡眠が深くなる ベンゾジアゼピン系が睡眠を浅くしてしまうことがあるのに対し、非ベンゾジアゼピン系では深い睡眠を増やす作用があります。

  2. 翌朝の眠気やふらつきなどの副作用が少ない 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、睡眠だけに作用するように作られているので、筋弛緩作用や抗不安作用がわずかです。このため、ふらつきなどの副作用が少なく、転倒などが心配な高齢者の方にも使いやすい薬となっています。 また、作用時間が短いため、翌朝に眠気が残ってしまうこともあまり起こりません。

  3. 依存性が少ない 非ベンゾジアゼピン系はベンゾジアゼピン系睡眠薬より依存が形成されにくいことが報告されています。 しかしマイスリーなどは安易に処方されることも多く、ときに乱用され、依存や副作用も強く出てしまうことがあります。用法・用量は必ず守るようにしましょう。 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のメリットをみると、良さそうに見え、確かに安全性の面ではベンゾジアゼピン系に勝るとも言われていますが、やはり、デメリットもあります。

デメリットとしては、

  1. 効果が中等度 副作用がマイルドな薬は、効果もマイルドです。このため、頑固な不眠がある方には効果がみられないことがあります。

  2. 種類が少なく超短時間型しかない 数多くの作用時間や強さから選べる種類豊富なベンゾジアゼピン系に対し、日本で使える非ベンゾジアゼピン系睡眠薬はマイスリー、アモバン、ルネスタの3種しかなく、どれも超短時間型です。 そのため、寝つきが悪いという方には有効ですが、中途覚醒や早朝覚醒がある方には効果が認められないことがあります。

  3. 服薬後の健忘 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳の活動を抑えることで睡眠をもたらし、しかも超短時間型ですので、自然な感じでウトウトしていくというより、急に効いてきて ストンと眠るような感覚があります。これはベンゾジアゼピン系睡眠薬も同じです。とくに、非ベンゾジアゼピン系では、飲んだ後の行動が記憶から飛んでしまう「健忘」という副作用が出やすいので、注意が必要です。 朝起きると覚えのない友人への発信履歴があるなど、睡眠薬を飲んだ後に自分がやったことを忘れてしまうことがあります。 このような服薬後の健忘は作用時間が短いために起こります。急激に覚醒レベルを落とすために、中途半端な覚醒状態にしてしまい、記憶だけが抜け落ちてしまうことがあります。 すべての方におこるわけではありませんが、可能性はあるので注意しましょう。 対策としては、 ・布団に入る直前に飲む ・アルコールとは絶対に一緒に服用しない ことに注意しましょう。 アルコール類の摂取により、薬の作用が過度に増強する場合があるので本剤を服用中は原則として控えましょう。 それでも改善がみられない場合には、薬の変更・減量を検討します。

  4. 依存 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は耐性がつきにくく、ルネスタでは1年、マイスリーでは8か月連続服用しても耐性が認められなかったとする報告があります。 しかし漫然と使ったり、量をどんどん増やしたりすれば依存がつきやすくなってしまいますので、依存を避けるためには、以下のことに注意していきましょう。 ・用法・用量を守る 睡眠薬依存が問題になるのは、効かないからと量がどんどん増えて、大量になってしまう方です。 ・勝手に増量したり乱用したりは絶対にしない ・出口を見据えて薬を使っていく ・アルコールとは一緒に服用しない

  5. 眠気の持ち越し 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は半減期は2~5時間と短いので、普通に服用していれば翌朝に眠気を持ち越すことはほとんどありません。ただ、まれに睡眠薬の代謝が悪い方がいて、薬が効きすぎてしまうことがあります。 万が一眠気の持ち越しがあって、生活に支障をおよぼす場合には、 ・効果がより短い薬に変える ・睡眠薬を減量していく のどちらかが選択肢になります。 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の中でも半減期に差はあるので、より半減期の短い睡眠薬に変えていくのはひとつの方法です。 それが難しければ、睡眠薬の量を少なくしていきます。薬の量を少なくすれば、半減期は変わらなくても、薬が有効な濃度での作用時間を短くすることができます。

  6. 苦み 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のうち、アモバンとルネスタには苦みの副作用があります。 唾液から分泌されるために、飲んだ直後だけでなくて翌日も続くことが多いです。マイスリーには苦みはありません。ルネスタの方が苦みを感じることが少ないので、アモバンの苦みが気になるときはルネスタの方がいいかもしれません。

※まとめ※

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、依存性や副作用が少なく、使いやすい薬です。

しかし種類が少なく「寝つきの悪さ」に特化した超短時間型しかないため、頑固な不眠や中途覚醒にはあまり効果が認められないことがあります。また、気軽に処方されることが多いためか、ときに乱用されることがあります。用法・用量を守って正しく使うようにしましょう。

〔非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の種類〕

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、日本ではアモバン・マイスリー・ルネスタの3種類が発売されています。基本的に効果はおだやかで、作用時間はすべて超短時間型となりますが、その中でもやはり効果や作用時間が異なります

非ベンゾジアゼピン系の3剤は、基本的には入眠障害に使う薬です。睡眠薬の強さは、用量を増やせば作用は強くなりますので、最高用量(マイスリー10mg、アモバン10mg、ルネスタ3mg)で比較していきます。

1.効果の強さ アモバン>マイスリー≧ルネスタとなり、アモバンは非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の中では効果が一番強い薬となります。 2.作用時間の長さ それぞれの睡眠薬の半減期と最高血中濃度到達時間を調べると、 ルネスタ:半減期は5時間、最高血中濃度到達時間は1時間 マイスリー:半減期は2時間、最高血中濃度到達時間は0.8時間 アモバン:半減期は4時間、最高血中濃度到達時間は1時間 と報告されていることから、作用時間の長さは ルネスタ>アモバン>マイスリーとなります。 ルネスタはアモバンより作用時間が長く、ナイスリーが一番短いことになります。このことから、非ベンゾジアゼピン系の3剤は、基本的には入眠障害に使う薬ですが、ルネスタやアモバンでは、夜中に何度も目が覚めてしまう中途覚醒にも比較的効果がある可能性があります。一方、最高血中濃度到達時間はマイスリーが一番短く、ルネスタとアモバンは同じ1時間ということになります。 このことから、マイスリ―は服薬後すぐに効果のピークがきて、体からすぐに抜けていくので、効果の実感もよく、翌日に眠気が残りにくい睡眠薬になります。このようにマイスリーは効果が早く切れ味がよいため、依存しやすい要素があり、長期に服用していると常用量依存が形成されてしまって、マイスリーをやめられなくなってしまうことも少なくありません。そのため、漫然とした長期的に使用は避けなければいけません。 依存性の対策としては、 ・睡眠に良い生活習慣を意識する ・できるだけ少量・短期間で使う ということになります。

3剤の中で、アモバンとルネスタは親戚になり、ルネスタは、アモバンの改良型です。 アモバンとルネスタは苦みの副作用があります。特にアモバンでは、服用継続が困難になってしまうことも少なくありません。アモバンは左右対称な成分でできていますが、そのうちで睡眠効果の強い半分だけを取り出したのがルネスタです。これによって、アモバンで問題になることが多かった苦味の副作用が軽減されています。ですからこの2剤を比較すると、アモバンの方が効果があることになり、マイスリーはこれらの2剤の中間に入ります。

アモバンは7.5mg錠と10mg錠の2種類が販売されています。7.5mgから開始していくことが一般的です。肝機能障害がある患者さんでは効果が強まってしまうことがあるため、半分の3.75mgから開始していくことが推奨されています。用法は1日1回就寝前です。アモバンは健忘の副作用があるため、就寝直前に服用するようにします。最高用量は10mgとなっています。

マイスリーは5mg錠と10mg錠の2種類が販売されています。マイスリ―は5mgから開始していくことが一般的です。もうろう状態や夢遊病などの副作用が10mgの方が多いことが報告されているため、とくに高齢者では5mgから開始していくこととなっています。用法は1日1回就寝前です。マイスリーも健忘の副作用があるため、就寝直前に服用するようにします。最高用量は10mgとなっています。

マイスリーの作用の特徴として、非ベンゾジアゼピン系の中では最もω1(催眠に対する受容体)への選択性は高いといわれています。そのため、マイスリーはより純粋に睡眠効果だけを期待する薬といえます。

またマイスリーは、統合失調症や双極性障害の患者さんの不眠には使えないこととなっています。これらの病気では、原疾患の治療が重要であるためとされています。その他の睡眠薬ではこのような規定はなく、これらの病気でも海外ではマイスリーが使われています。実際に日本でも、適応外として処方されることは少なくありません。


ルネスタは1mg錠、2mg錠、3mg錠の3種類が販売されています。

開始用量:2mg(高齢者は1mg)

1~2mgから開始していくことが一般的です。肝機能障害や腎機能障害がある方、高齢者では効果が強まってしまう可能性があるため、1mgからとなっています。用法は1日1回就寝前です。ルネスタも健忘の副作用があるため、就寝直前に服用するようにします。最高用量は3mg(高齢者は2mg)となっています。

また、ルネスタに特徴的なこととして、処方制限がないことが挙げられます。

睡眠薬のほとんどは、麻薬、麻薬原料植物、抗精神病薬及び麻薬抗精神病薬原料を指定する政令」の中で、30日までの処方制限があります。ルネスタはアメリカでも処方制限されていない流れを受けて、日本でも処方制限はされていません。(アモバンも同様でしたが、平成28年10月の改正で30日処方の制限がつきました。)

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