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院長 田中康文

睡眠時無呼吸症候群(不眠症:その3)

睡眠時無呼吸症候群は、文字通り寝ている間に何回も呼吸が止まる、あるいはもう少しで止まりそうな弱い呼吸が繰り返される病気です。英語では Sleep Apnea Syndrome といって、頭文字をとって SAS(サスと読みます)と呼ばれています。

睡眠中10秒以上、呼吸が止まることを「無呼吸」と呼び、無呼吸にはなっていないがもう少しで止まりそうな弱い呼吸を「低呼吸」といいます。このような無呼吸・低呼吸が7時間の睡眠中、一晩に30回以上、若しくは1時間あたり5回以上あれば、睡眠時無呼吸と診断されます。この病気が深刻なのは、寝ている間に生じる無呼吸が、気付かないうちに日常生活に様々な支障を来すことです。特に自動車の運転中に強い眠気が発生し運転操作を誤って人身事故を起こすこともあります。日本では2003年の山陽新幹線の運転士の居眠りよるオーバーラン、2012年の関越自動車道高速バスの運転士の居眠りによる人身事故が報道され、この病気が注目され、広く一般の方にも知られるようになりました。

睡眠中に呼吸停止が繰り返されることで、身体の中の酸素が減っていきます。その酸素不足を補おうと、身体は心拍数を上げます。寝ている本人は気付いていなくても、睡眠時にしっかりと体を休ませることができなくなるので、脳や身体には大きな負担がかかります。そのために熟眠できず、起きている時間に強い眠気や倦怠感、集中力低下などが引き起こされ、日中の様々な活動に影響が生じてきます。

〔原因〕

睡眠時無呼吸症候群は、いびきがひどくて、肥満の人が多いのですが、必ずしもそういう人ばかりではありません。睡眠時無呼吸症候群は大きく分けて2種類あります。

・一つは、呼吸という運動は保たれているが、上気道が何かの原因でふさがっていて一時的に息ができない状態で閉塞性睡眠時無呼吸症候群と呼ばれています。

・もう一つは呼吸せよという脳からの信号が一時的に途絶え、呼吸運動そのものが停止する中枢性睡眠時無呼吸症候群です。

これらの閉塞性と中枢性が混ざっている混合型もあります。閉塞性ではいびきが生じますが、中枢性では基本的にいびきはかかないとされています。閉塞性は睡眠時無呼吸全体の84%と睡眠時無呼吸の大部分を占め、中枢性は0.4%、混合型が15%を占めるといわれています。

1.閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因

ふつう寝る時は仰向けの時間が長いと思います。仰向けで寝ている時は重力の影響により、舌がのどの奥の方向に少し落ち込みます(舌根沈下)。このような舌根沈下だけでは通常、気道が閉塞してしまうことはありません。しかし、肥満で頸部に脂肪が多く付着している人は舌の周りにも脂肪な付着していることが多く、気道が狭くなります。この時、狭いのどを空気が通過しようとして抵抗が生じ、いびきが発生します。このような閉塞性睡眠時無呼吸症候群に特有のいびきは、通常の一定リズムではなく、しばらく無音のあと著しく大きく音を発するという傾向・特徴を持っています。

いびきは気道が狭くなっていることを知らせる重要なサインです。いびきをよくかく方は閉塞性を疑ってみる必要があります。さらにこの部位が完全に閉塞すると、無呼吸となります。閉塞型では、この際に、呼吸をしようとする動き「呼吸努力」が胸部、腹部に見られるのが特徴です。

このような閉塞性はすべての年齢で起こり得ますが、舌も含めた筋肉が加齢でゆるんでいくため、男性は30代以降に患者が増え始め、55~60歳が最も多いといわれています。女性の場合は閉経後に発症する例が多く、ホルモンとの関係が指摘されています。扁桃腺が大きい人や舌が大きい人、鼻炎・鼻中隔弯曲などの鼻の病気を持った人も同様の現象が起きることもあります。また顎の小さい人もなりやすいとも言われています。日本を含めた東アジアの人はあごが小さく、顎の小さい人は気管も狭い人が多く、やせていてもあごが小さくてえらが張っていない小顔の人は睡眠時無呼吸症候群になりやすいといわれています。

2.中枢性睡眠時無呼吸症候群の原因

中枢性は脳の呼吸中枢から信号が送られないことによって生じる無呼吸です。閉塞性と違って、のどが狭くなったり、塞がったりすることはなく、脳からの呼吸するための指令が筋肉に届かないことが原因です。そのため、中枢性の患者さんは通常いびきをかきません。

中枢性無呼吸がどのような仕組みで起こるのか、まだ十分に解明されていないのですが、脳にある呼吸の司令塔の機能異常などが原因として考えられています。このような中枢性は、心不全をはじめとした心機能低下や脳卒中で多くみられ、心血管系の病気の結果として出現すると考えられています。心不全患者さんで中枢性呼吸障害を合併する率は21~40%と報告されています。なかでもチェーン・ストークス呼吸と呼ばれる呼吸パターンが特徴的で、心不全患者さんによくみられます。これは無呼吸の後に呼吸が再開する際、だんだん大きく速くなった後、今度はだんだん弱くなっていき(漸増漸減パターン)、最終的に再び無呼吸に至るという呼吸パターンで、中枢性の一種です。心不全患者さんでは、チェーン・ストークス呼吸を伴う中枢性が、寝ている時だけでなく、日中起きている時にも出現します。つまり無意識にこの異常呼吸をしているのです。そして、夜間睡眠中や起きている時のチェーン・ストークス呼吸の出現頻度が高い心不全患者さんほど予後が悪いと考えられています。

〔症状・合併症〕

睡眠時無呼吸症候群の影響は1)日常生活、2)合併症、の2つの問題があります。いずれも大きな問題となります。


1)日常生活

この症候群の多くの人にいびきがみられますが、いびき以外の自覚症状は乏しく、昼間の眠気を自覚される方もいますが、それは半数程度といわれています。家族などの同居者がいない場合、この病気の発見は非常に遅れます。また同居者がいてもこの病気に関する情報を持っていなければ、単に「いびきをかきやすい性質」としか認識されず、治療開始が遅れます。特に自覚症状が弱い場合は誰にも発見されないため、その状態が徐々に悪化して深刻な問題を起こしてしまうことがあります。よくある深刻な問題の例は、自動車の運転中に強い眠気が発生し運転操作を誤って人身事故を起こします。

眠気を自覚される方では日中の眠気のため、思うように日常生活が送れなくなり、何かに集中することができなくなります。また仕事中に居眠りをしたり、大事な会議で眠ってしまうなど、業務にも支障をきたすことがあります。そのほかには、抑うつや朝方の頭痛、夜間頻尿、男性の性機能障害などで日常生活や性生活に悪影響を及ぼすことがあります。朝方の頭痛は夜間に頻繁に覚醒と睡眠を繰り返し、脳を十分に休ませることができないために生ずるといわれています。

最近、閉塞性睡眠時無呼吸症候群が夜間頻尿と深く関わっていることが分かってきています。夜間頻尿とは寝ている時間中に2回以上トイレに起きてしまう症状です。閉塞性無呼吸の治療によってこのような夜間頻尿がしばしば消失するといわれています。本来、眠っている間はリラックスの神経である副交感神経が優位となっており尿意を感じにくく、膀胱にたくさん尿を溜めることができます。しかし睡眠時無呼吸症候群では無呼吸状態によって血液中の酸素濃度が低下し、血圧や心拍数の上昇を招くことで交感神経が優位となり膀胱が収縮しやすく、尿意を感じやすい状態になっています。そのため、夜間頻尿の症状が出やすくなるといわれています。

「閉塞性」は疑うためのポイントがあります。いびき、日中の眠気、肥満、小さいあご、朝方の頭痛、夜間頻尿などは、「閉塞性」の患者さんに比較的よく認められる症状や状態です。

一方、中枢性は、閉塞性のような特徴的な症状や状態はあまりみられないようです。中枢性は循環器病があること自体がすでにその危険因子と考えた方がいいといわれています。つまり、心不全をはじめとした循環器病をもっている方は、一度は睡眠時無呼吸症候群を疑って検査を受けることが勧められています。


2)合併症

この症候群は単に呼吸が止まるだけの病気ではありません。心臓、脳、血管に負担をかけます。睡眠時無呼吸症候群があるだけで高血圧症、脳卒中、狭心症、心筋梗塞など循環器病を合併する危険が高まることがわかっています。それだけでなく、糖尿病を悪化させたり、不整脈の原因になったりすることもわかってきています。しかし、この症候群の治療をきちんと受けると、長生きできる可能性があることもわかっています。

こうした心臓や血管、代謝の病気の発症や悪化に広く関与している可能性が高くなっており、この病気を治療しないでいると突然死を起こしやすくなるとさえ言われています。そのため、正確な診断と、積極的な治療が必要です。


①高血圧

閉塞性であること自体、高血圧の原因になる可能性があります。閉塞性の患者さんの50%に高血圧が認められ、高血圧の患者さんの30%に閉塞性が認められると報告されています。無呼吸によって血液中の酸素濃度が下がり、低酸素血症が生じて、それを補おうとして心拍数が増加することで血圧が上がるとされています。


②心不全

閉塞性は心臓に負担をかけて、心機能を低下させる可能性があります。実際、心不全患者さんの11~37%は閉塞性を合併することが報告されています。閉塞性を合併している心不全患者さんでは、閉塞性を治療しないと死亡率が2~3倍高くなることもわかっています。


③脳卒中

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは、脳卒中を発症するリスクが閉塞性でない人の2~4倍も高いことが報告されています。


④不整脈

夜間の不整脈が閉塞性患者さんの50%近くに認められていると報告されています。心房細動、非持続性心室頻拍、洞停止、2度房室ブロック、心室性期外収縮などの不整脈が比較的多いとされています。


⑤狭心症・心筋梗塞

健康な人と比較した場合、閉塞性患者さんの虚血性心疾患の発症リスクは2~6倍も高いことが報告されています。


⑥突然死

閉塞性の患者さんが、心臓が原因の突然死をきたすリスクは、閉塞性でない人に比べて2~3倍も高いことが報告されています。


⑦糖尿病

糖尿病と睡眠時無呼吸症候群はあまり関連性が無いように思われがちですが、睡眠時無呼吸症候群の患者様の中には糖尿病も合併していることが多いと言われています。実際、睡眠時無呼吸症候群があると糖尿病の発症リスクが約2倍近くになることが報告されています。

睡眠中の低酸素状態と正常な酸素状態が交互に繰り返される現象と、無呼吸状態から呼吸が再開するときの「覚醒反応、この2つが繰り返されることで、交感神経が活性化、ストレスホルモンが過剰に分泌されることで、血糖値や血圧が上昇し、脂肪が増加しやすくなるといわれています。また夜間分泌されるといわれている成長ホルモンの分泌が低下することで、筋肉量が減少して脂肪が蓄積されやすくなり、脂肪量が増えるとインスリン抵抗性が上昇し糖尿病を発症、悪化しやすい状態になるとされています。

なお、成長ホルモンはその言葉からも分かるように、“身長を伸ばすホルモン”としてよく知られていますが、成長ホルモンにはもう1つ重要な役割があります。それは、体にある物質をエネルギーとして使えるような物質に変えていく働き、すなわち代謝と深い関係があります。つまり成長ホルモンは、子どもから大人まで、あらゆる年齢に必要なホルモンなのです。


〔検査・診断〕

問診にて、日中に強い眠気を感じるか、最近、集中力や記憶力が低下していないか、家族などから、いびきを指摘されているかなど、睡眠時無呼吸症候群が疑われるような症状がないかをチェックすることが必要です。自覚症状の感じ方や程度には個人差がありますから、可能であれば寝ている間のことについてぜひご家族やパートナーにきいてみてください。この病気は、睡眠中に無呼吸や低呼吸が存在し、体内が低酸素に陥っていることを証明することで診断できます。また、重症度やタイプ(中枢型、閉塞型、混合型のどのタイプか)を診断することが重要です。

それぞれに応じて治療の必要性などが決定されます。通常、診断のための検査は二段階で行います。簡易検査を行って陽性であれば、本検査に進みます。日中、眠くなることが必ずしも睡眠時無呼吸と関連していない場合もあり、他の疾患の可能性が見つかることもあるため、詳しく検査する必要があります。

1)簡易検査

指先に、体内の酸素飽和度を測定する機器を装着し、腕に小型の機器をはめて一晩休んでいただきます。自宅で検査が可能です。また操作も簡便で、装着後、ご自分でスイッチを入れ、翌朝、スイッチを切って、検査メーカーに郵送していただくだけです。結果は2週間程度で判明します。費用は、保険診療で3000~5000円程度かかります。

2)本検査(ポリソムノグラフィー(PSG))

 簡易検査で陽性と判定された方は、本検査を行います。この検査はポリソムノグラフィーと呼ばれ、指先の器械だけではなく、心電図や脳波、鼻や口の気流測定、腹部の動きなどを見るセンサーなどを装着していただき、一晩休んでいただきます。1泊2日の入院での検査が必要となり、いびき音の測定なども行われるため通常は個室を使用して行います。

結果は2~3週間程度で判明します。費用は、個室代を含めて、保険診療で55000~60000円程度かかります。少しお金がかかりますが、重症度やタイプなどが詳細にわかるため、診断確定には本検査が必要です。


〔治療〕

1)閉塞性睡眠時無呼吸症候群の場合

まずは生活習慣の改善が基本となります。

肥満の人はのどの周辺に脂肪が蓄積し、上気道が狭くなるため、体重管理を行い、特に炭水化物を制限し、減量をめざしていきます。

また横向きに寝たり、寝る前の飲酒や睡眠薬の制限~中止、禁煙を指導します。アルコールは睡眠の質を悪化させるので、晩酌は控える必要があります。特に過度の飲酒で泥酔すると、気道周囲の筋肉の緊張状態が過度に失われてしまい、閉塞性を悪化させます。

また睡眠薬、特にベンゾジザゼピン系睡眠薬は筋弛緩作用があり、睡眠中にのどの周囲の筋肉が緩み、閉塞性を悪化させる可能性があるため、睡眠薬の変更、減量あるいは中止が望まれます。喫煙は気道に炎症を起こし、気道がむくんでしまうので、禁煙は大切です。

これらの生活習慣の改善により重症度をある程度下げることが可能で、軽症の患者さんでは無呼吸がほぼ正常域まで改善する場合があります。特に 肥満者では減量することで無呼吸の程度が軽減することが多く、食生活や運動などの改善を心がけることが重要です。

しかし、こうした生活習慣の改善だけでは十分な改善が得られない場合は、口腔内装置や持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)、もしくは耳鼻科的手術が必要となります。口腔内装置はマウスピース療法とも呼ばれ、下あごが少し前方に出るようなマウスピースを歯科・口腔外科で作製し、これを夜間装着して寝る治療法です。肥満体でなく下顎が小さいことで閉塞性を生じている人が主な対象です。下あごが前方に移動する分、気道が広くなるので、軽症~中等症の閉塞性なら改善が期待できます。

CPAP療法(シーパップと呼んでいます)は、鼻マスクを装着し、マスクにつながった機械から加圧された空気(陽圧の空気)を送り、その持続的な加圧により舌根の周囲の軟部組織を広げることで、吸気時の気道狭窄を防ぐ方法です。なお、CPAP療法のCPAPはcontinuouspositiveairwaypressure(持続陽圧呼吸)の略です。マスクを通して送られて来た空気はそれほど強い圧力ではないので、慣れてしまえばふつうに眠ることができます。CPAP装置には大きく分けて2タイプあり、ひとつは固定CPAPと呼ばれ、もうひとつはオートCPAPと呼ばれています。いずれも日本国内では保険診療として認められており、1ヶ月当たり5,000円弱で利用することができます。

一般的には保険診療扱いで装置をレンタルして使うため、1ヶ月に最低1回は担当医師の診察が必要ですが、通院が困難な場合などはCPAP装置を購入するという選択肢もあります。固定CPAPは、あらかじめ検査入院するか、計測器を自宅で取り付けて適切な圧力を測定し、それを医師が装置に設定して使います。

オートCPAPは設定を必要とせず、患者の状態に合わせてリアルタイムで圧力が変化するようになっています。鼻マスクは、あえて空気が漏れやすい構造になっていて、息を吐き出したらスムーズにマスクの外へ流れるようになっています。冬季は、冷たい室内の空気が加圧されて送られるため、冷たさや乾燥を伴うことがありますが、寝室の空調で対応します。CPAPにはコンパクトで効率の高いエアフィルターが付いています。花粉やハウスダストなどによるアレルギー症状を持つ患者には、オプションパーツとしてアレルゲン対応のエアフィルターが提供されます。CPAPの利用者は、宿泊を伴う移動の際は必ずこの装置を携行しなければならないのですが、そのため、リュックサックやショルダーバッグのようなケースに収めて提供されます。重さはだいたい1~3キログラムですが、中には1kgを切るとても軽い機器もあります。

成人睡眠時無呼吸症候群では高血圧、脳卒中、心筋梗塞などを引き起こす危険性が約3~4倍高くなり、特に重症例では心血管系疾患発症の危険性が約5倍にもなると報告されています。しかし、CPAP治療にて、無呼吸を減らすだけでなく、高血圧の改善、不整脈の減少、交感神経の働きの抑制、糖尿病の改善などの効果があり、心筋梗塞・狭心症や脳卒中など循環器病の発症を抑え、健常人と同等まで死亡率を低下させることが明らかになっています。

上気道の閉塞部分がはっきりわかっているときは、上気道を拡大する手術が行われる場合もあります。扁桃の肥大が原因で喉や気道が塞がっている場合、手術によって扁桃除去術で改善する場合もあります。また小児の場合、アデノイド・口蓋扁桃肥大が原因であることが多く、アデノイド・口蓋扁桃摘出術が有効といわれています。

2)中枢性睡眠時無呼吸症候群の場合

まず原因の一つと考えられている心不全などの循環器病をきちんと治療することが大切です。こうした循環器病に対する適切な治療により、症状は改善してきます。それでも中枢性の症状が残ってしまう場合には酸素療法、もしくはCPAP療法などの陽圧呼吸療法を行います。

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