(片頭痛の治療薬)
Q.片頭痛に聞く薬にはどのようなものがありますか?
そしてそれはどうして効くのですか?
(片頭痛と吐き気・嘔吐)
Q.片頭痛の時、なぜ吐き気や嘔吐をしばしば伴うのですか?
(片頭痛治療薬を飲むタイミング)
Q.片頭痛の時、トリプタン製剤はいつ飲めばいいのですか?
(片頭痛の治療薬)
Q.片頭痛に聞く薬にはどのようなものがありますか?
そしてそれはどうして効くのですか?
【回答】
片頭痛は「ひと眠り」するとよくなることが多いのですが、そうもいかない場合は脳の血管の拡張とともに発生する片頭痛のメカニズムに作用する薬を飲むのが一番いいと思います。
それではどのような薬があるのでしょうか?
片頭痛の人は体や環境のちょっとした変化を視床下部で敏感に感じ取り、そのため視床下部からの刺激を受けて脳幹の中脳からセロトニンが大量に放出され、脳内のセロトニンが枯渇します。その結果、セロトニンのコントロールから解き放たれた三叉神経は勝手に 興奮し、脳血管に向けて、血管の拡張と炎症を起こすCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を放出します。それにより脳血管は拡張し、血管周囲に炎症を起こし、さらに拡張した脳血管の隙間から血漿成分の炎症物質がしみ出し血管周囲の炎症がさらにひどくなります。その炎症と血管の拡張により血管を取り巻く三叉神経が刺激されて、片頭痛が生ずるとされています。
このような脳の血管周囲の炎症を鎮める鎮痛薬には、セデスやバッファリンやイブプロフェン、カロナール、ボルタレン、ナイキサン、ロキソニンなどがありますが、片頭痛においては血管周囲の炎症は付随的に生じたものであるため、消炎鎮痛薬は軽い片頭痛しか効果がありません。
片頭痛を治療するには、片頭痛が発生するメカニズムに直接作用する薬物を飲む必要があります。そのため、減少した脳のセロトニンを活性化し、セロトニンが担当していた三叉神経のコントロールを復活させ、CGRPの放出を阻止する必要があります。
そのために開発されたのが、セロトニンに構造が類似し、血管のみに作用するトリプタンという薬物です。この薬は片頭痛を起こすメカニズムに関わる三叉神経のレセプター(受け皿)のみに作用し、セロトニンの活動減少をおぎなって三叉神経の興奮をコントロールします。
片頭痛のみでなく群発頭痛にも効果があります。
このようなトリプタン系の薬は日本では、イミグラン、ゾーミッグ、マクサルト、レルパックス、アマージの商品名で5種類の薬が発売されています。
イミグランは効果発現が比較的早く、服用後約30分ぐらいで効果が出ますが、
効果が持続する時間は約2時間半と比較的短く長時間にわたっての偏頭痛の場合は、頭痛が再発することがあります。飲み薬のほかに、即効性のある点鼻薬、皮下注射、群発頭痛にも有効)があります。
ゾーミッグ、マクサルト、レルパックスは効果発現は比較的ゆるやかで、服用後から効果発現までに約60分かかりますが、効果の持続時間は4ー5時間とイミグランより長いです。
アマージは立ち上がりはマイルドで遅く、イミグランほどすぐに効果は出ませんが、効果持続時間は5時間と最も長く、長時間の頭痛の人にはよいとされています。
トリプタン製剤による副作用は内服後30分位で出現して1時間から3時間位続くと言われております。嘔気やめまい感、眠気や体の痛みが出現したり首が締め付けられる感じ、動悸感や胸の圧迫感がでたり全身の脱力感がでることもありますが時間が経てば軽快するので心配は要らないと思います。9割以上の患者さんはこれらの副作用はありません。
イミグラン、アマージ以外のトリプタン製剤は脳血管関門という機構を通すので、副作用として頭のふらつきなどが多いが、イミグラン、アマージは比較的少ないといわれています。これらのトリプタン製材は血管を収縮させるため、心筋梗塞や脳梗塞など、血管に障害の既往を持つ人は禁忌となっています。また消炎鎮痛剤は小児では服用できますが、トリプタン製剤は15歳未満の患者さんには原則使用できないことになっています。
最近、CGRPの放出を阻止する抗CGRP抗体が開発され、米国では発売され、日本では現在、臨床治験中です。月に二回以上の片頭痛発作を経験する方は予防薬の適応になります。月に10回以上片頭痛発作があれば予防薬は投与すべきと考えられます。
しかし、適切に急性期治療薬を使用しても日常生活に支障をきたす片頭痛発作が起こるなら頻度が少なくても予防薬を考慮すべきです。また頭痛が起きてからの治療では効果が十分ではなく、月に何回も学校や会社を休んでしまう-このような状況であれば、予防療法を考慮します。患者さんによっては急性期治療薬が副作用や禁忌のため使用できない場合は予防療法をお勧めます。
予防療法は、
①発作の頻度や重症度を軽減
②発作時の治療への反応を改善
③QOL(生活の質)の向上
をおもな目的としています。
予防薬は原則として、毎日服用します。予防薬として抗けいれん剤などに使用されるバルプロ酸(商品名:デパケンR)を用いることがあり、片頭痛の発作予防にはある程度効果があります。
その用法はデパケンR錠(200mg)2~3錠 分2朝食後1錠、夕食後1~2錠です。
この薬は三叉神経の興奮を静める作用のほかに、脳内セロトニン濃度を上昇させる作用もあるといわれています。セロトニンは必須アミノ酸であるトリプトファンから合成されますが、このトリプトファンが脳の中に取り込まれるためには、脳血管関門という能動的取り込み機構を介して取り込まれます。
しかし、トリプトファンは血中ではタンパク質と結合しているため、このままでは脳内に取り込めず、タンパク質と結合していない遊離トリプトファンのみが取り込まれます。バルプロ酸はトリプトファンのタンパク質結合を阻害して血中の遊離トリプトファン濃度を上昇させ、脳内セロトニン濃度を上昇させるといわれています。バルプロ酸はてんかん時の使用量を使用することはまずありませんが800mg位を毎日内服して妊娠をすると胎児のIQが低くなるというデータがでており、米国では妊娠の可能性のある女性には禁忌となっており日本でも慎重投与となっています。妊娠中は片頭痛の発作が治まることが多いので、治療がうまくいって病態がある程度落ちついてきたら、薬を減らすか中止を検討します。
片頭痛の予防薬として、そのほかに少量のアミトリプチリンなどの抗うつ薬やミグシス錠、インデラル錠などの脳血管拡張剤なども報告されていますが、効果は比較的薄い、あるいははっきりしないことが多いようです。
またコーヒーにはカフェインが含まれており血管収縮作用があります。普段多く飲んでいる人は少なめにすると片頭痛の発症の程度や頻度が軽減されることがあります。また逆にあまり飲まない人では片頭痛発作時に飲むと頭痛が軽減されることが知られています。カフェインによる血管収縮作用によると思われます。
なお、片頭痛に著効するトリプタン系薬剤は緊張型頭痛には効きません。
使っても害はありませんが、薬価が高いので、今起きている頭痛がどちらかを見極めて薬を使いこなすことが大切です(トリプタン製剤は一剤が500円から1000円ほどします(3割負担の保険で150円から300円の自己負担)。片頭痛はひどくなると吐き気をもよおしたり、吐くこともあるので、片頭痛が始まったら早めに飲みましょう。
(片頭痛と吐き気・嘔吐)
Q.片頭痛の時、なぜ吐き気や嘔吐をしばしば伴うのですか?
【回答】
片頭痛の時にしばしば吐き気を伴い、時に吐いてしまうことすらあります。原因はまだ十分には解明されていませんが幾つかの説が上げられています。
一つは片頭痛を持っている人はほかの人より脳の深部にある視床下部という所が過敏になっており、そこの部分が片頭痛の発生源と深く関与していることが最近、分かってきました。片頭痛が発生する時、その視床下部の嘔吐中枢も刺激されて起こるのではないかといわれています。
もう一つは、片頭痛は脳内のセロトニンが減少することで起きることが最近、分かってきましたが、そのセロトニンは胃や腸にも存在し、主に腸の内容物を肛門まで運ぶ蠕動運動を促す作用があるとされています。
片頭痛の発作の最中、脳内だけでなく胃や脹のセロトニンも減少して胃や腸の正常な動きが止まってしまい、時には逆方向に動いて、胃の中のものを腸の方向に送らず、食道方向に逆流させ、吐き気がしたり、吐いたりしてしまうのではないかとされています。
そのほかには、片頭痛では立ちくらみやめまい、時には耳鳴りが起こることがありますが、片頭痛が内耳障害に関連する脳の部分にも影響し、めまいや吐き気と強く関係するのではないかともいわれています。
このように片頭痛がひどくなると、吐き気や嘔吐をもよおすため、片頭痛の特効薬といわれているトリプタンを早めに飲むことが大切です。
吐き気がするほどの片頭痛のときにトリプタンを飲んでも、胃や腸から吸収されず、胃液ごと薬を吐いてしまうことすらあります。このような時、片頭痛が起きそうで心配な時に胃の動きをよくする薬ドンペリドン(商品名:ナウゼリン)やモサプリド(商品名:ガスモチン)などを一緒に飲むと、トリプタンの胃や腸からの吸収がよくなり、効果が高まるといわれています。
その用法は
①ナウゼリンまたはナウゼリンOD錠(口腔内崩壊錠)(10mg)3錠 分3毎食食前
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと(動物実験(ラット)で骨格、内臓異常などの催奇形作用が報告されています)。授乳中の婦人には大量投与を避けること
(動物実験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されています)
②ガスモチン錠(5mg)3錠 分3毎食前または毎食後
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること(妊娠中の投与に関する安全性は確立していない)。
授乳中の婦人に投与することを避け、やむを得ず投与する場合は、授乳を中止させること(動物実験(ラット)で乳汁への移行が報告されています)
(片頭痛治療薬を飲むタイミング)
Q.片頭痛の時、トリプタン製剤はいつ飲めばいいのですか?
【回答】
通常は頭痛の予兆期や前兆期では飲まないで、頭痛がきてから早期に内服するように勧められています。トリプタン製剤は血管収縮作用を持ちますが頭痛の前兆期から頭痛期のごく初期にかけては血管が収縮すると言われています。つまりトリプタン製剤を早く飲み過ぎると血管がより収縮してしまい、その反動でより血管が拡張して頭痛が軽快しないばかりか増悪してしまうこともあります。しかし、人によっては肩こりや首こり、目の奥の痛みがすでに片頭痛としての症状でもあり、トリプタン製剤を飲むと頭痛が軽快するよいタイミングの場合もあります。緊張型頭痛なのか片頭痛なのか、よく分からない場合は頭痛がきてもすぐには内服をしないで頭を左右に振ったり、首を前屈(おじぎ)したりして頭痛がひどくなるまで待って内服をするように勧めます。首を前屈して頭痛がひどくなるのをお辞儀徴候といいます。では、おじぎ徴候ですべての人が内服すべきかといえばおじぎ徴候ではすでにタイミングが遅い人もいます。
結論から言えば千差万別の対応になります。つまり頭痛が来てすぐに飲む人もいれば頭痛が起こる前に飲む人、頭痛のピークで飲む人がいることになります。
各人がそれぞれどのタイミングで飲むといいのか、自分で探して頂く方法しかないようです。
Comments