• 院長 田中康文

寝汗(ねあせ)

寝汗をかいて困っている人は意外に多いようです。

  • 寝汗のために夜中にパジャマを何度も着替える

  • 朝目覚めたら枕もシーツもぐっしょり

  • 寝汗のために何度も目が覚め、寝不足になる

  • 病院に行ってもはっきりとした診断名がつかない

など寝汗特有の困った状況があるようです。

西洋医学では、ストレスや不安など精神的によるのではないかと抗不安薬が処方されたり、あるいはホルモンのバランスが悪いのではないか、室内の温度が高いのではないかなど、簡単に片づけられてあまり重要視されない症状です。


蒸し暑い夜に汗をかいたり、かぜを引いて発熱のときにみられる寝汗は正常な生理現象ですが、不快な寝汗は、体内で健康を阻害する要因があることを示し、また体力を消耗させ睡眠の妨げにもなります。

中医学(中国伝統医学)では、寝汗のことを“盗汗(とうかん)”といって、まさに眠っている間に、人体に必要な水分と気がこっそりと盗み出されたことを意味し、重要な判断材料のひとつとみなします。中医学では体に必要な水分は津液(しんえき)といい、汗はその津液の一種です。津液は生命活動に必要な水液であり、気とともに体内を循環しているため、寝汗をかいて無駄に津液が体外に漏れ出ると、体内にとどめておきたい大切な気も、汗と一緒に漏れ出てしまいます。その結果、朝から疲れを感じるなど、体調が不安定になっていきます。

人間の体は、生命体ですので、私たちの体調は自然界や宇宙のリズムに合わせて変化しています。一日のサイクルを漢方の視点に当てはめると、日中が陽で、夜間が陰です。昼間は陽気が盛んになり、夜間は陰気が盛んになります。昼間の陽の時間帯は活動的に動き、夜の陰の時間帯は静かに過ごし、潤いと昼間に傷ついた体を癒します。つまり陽気とは活動、熱、エネルギーを指し、陰気とは静寂、冷たさ、潤いを指します。

寝汗はこのような陰と陽のバランスが崩れて、陰の時間帯に陽が盛んになり、夜中に熱が発生し、その熱を外に排泄するために寝汗が出ることが多いとされています。しかし熱の発生しない寝汗もあり、寝汗が発生する原因は一般的には汗をコントロールしている衛気(えき)の不足によると考えられています。

中医学でいう衛気とは皮気、肌気と脈外の気の3つの気に分類され、これらは陰陽の陽に含まれ、そのため衛陽ともいわれます。このうち皮気と肌気は体表部を温め、外界からのウイルスや細菌などの病邪の侵入から人体を防衛しているとされています。このような衛気は昼間は体表部をくまなくめぐって体表部を保護していますが、夜間には太陽が地平線に沈むように、体内深く裏に入るので、眠っている間は体表を固護する衛気の機能が不足します。睡眠時に布団などの寝具や寝間着などを使って寝ないと体表部が冷え、かぜをひきやすいのは、このためです。

皮膚が防衛機能を発揮するためには、皮膚の潤いを保つこともとても大切です。皮膚が乾燥すると、細胞そのものが隙間なく構造を維持しにくくなると同時に、乾きによって皮膚の常在菌が存在しにくくなり、外からの細菌の侵入を防ぐことができず、感染が起こりやすくなります。そのために皮膚には汗腺や分泌腺などの付属器があり、これらによって表層を潤しています。

このように衛気は体表を温め、保護するばかりでなく、汗腺の開閉をもコントロールし、皮膚を適度に潤すとともに、汗が過剰に外泄しないように、さらに外からウイルスや細菌などが汗腺を通じて侵入しないように、汗腺を固め、防衛にあたっているとされています。寝汗は基本的にはこの衛気の不足によって起こるとされています。


なお、寝汗は、夜間睡眠中に汗をかき、目が覚めると汗が止まることをいいますが、ここでは単に夜間に汗をかくことを「寝汗」とします。漢方では、寝汗の原因を陰と陽のバランスの崩れや衛気の不足から考えます。


1.陰虚内熱

陰虚内熱とは、陰が減り、陽が相対的に増えて熱が出るという減少です。夜、睡眠を取らずに、運動したり、スマホをいじったり、考え事をすると、陽の時間帯と同じように活動的になり、その結果、陰が減り、相対的に陽が増え、内熱が生じます。

衛気が表から裏に入る夜間睡眠中には、衛気は陽気の一種であるため、身体内部の内熱がより盛んになり、さらに体表を固護する力の不足に乗じて内熱を外散するとともに津液を外に漏らすために、寝汗が生じます。そうなると、夜中に上半身が火照ったり、頬が火照ったり、足の裏が熱く、布団から足を出して寝たり、朝起きた時にノドが渇いていたり、寝汗を頻繁にかくなどの症状が出ます。

治療は陰を滋潤して身体内部の熱を冷まし(滋陰清熱)、衛気を補って汗が外に漏れるのを止める(固表止汗)を行います。生薬では滋陰清熱の地黄、玄参、天門冬、麦門冬、芍薬、少量の清熱の黄柏、知母、地骨皮、固表止汗の黄耆・牡蛎・竜骨などを用います。エキス剤では滋陰清熱として、胃腸機能が弱い人では滋陰至宝湯、そうでもない人では滋陰降火湯、それに固表止汗として、少量の補中益気湯、黄耆建中湯か柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯などを合わせます。

2.表衛不固(ひょうえふこ)、営衛不和(えいえふわ)

寝汗だけでなく、日中にも少し動いただけでもよく汗をかき(自汗という)、そのほかに元気がない、疲れやすい、かぜをひきやすく治りにくいなどの気虚の症状も多くみられます。

さらに症状が進んで陽虚となると、陽気の温める機能が衰えて、冷えや寒がるなどの症状が加わります。

元々虚弱体質な人や老化、慢性病などで、衛気が不足して体表を固護することができず、

衛気が裏に入る夜間に体表の汗腺を固めることができず、津液が漏れて寝汗が生じます。

この場合、寝汗には熱は伴わず、むしろ発汗後には寒気を感じます。

このような表衛不固に栄衛不和が加わると寝汗や昼間の汗がさらにひどくなります。

中医学では脈中の血を営血(えいけつ)(営陰ともいいます)と呼びますが、その血管に沿って衛気の一種である脈外の気が並走していると考えます。その営血と脈外の気が並走できなくなった状態を栄衛不和と呼んでいます。 一般に、営衛が調和し、併走するためには以下のことが必要です。

①営陰(営血)は、血あるいは脈中の津液が脈外に漏れないように自ずから守る(営陰内守)

②営陰が衛陽(衛気)を制約し、衛陽が走りすぎたり、外に漏れないようにする(営陰外守)

③衛陽は営陰が脈外に漏れないよう固めている(衛陽内固)

衛気が不足すると、汗腺を固められずに汗が外泄るばかりでなく、栄衛不和がさらに加わると、脈外の気が脈中の津液を固められず(上記の営衛調和③)、その結果、脈中から津液が漏れ、汗がひどくなります。

治療は、衛気を補って表を固め(益気固表)、汗が外に漏れるのを止め(固表止汗)、

さらに調営衛・固営陰を図ります。生薬では、益気固表の黄耆、人参、白朮、止汗の牡蛎、竜骨、温陽の桂枝・附子、調営衛の桂枝と白芍などを用います。エキス剤では、益気固表の補中益気湯あるいは益気固表と調和栄衛の黄耆建中湯または桂枝加黄耆湯(東洋)、温陽固表と止汗には桂枝加竜骨牡蛎湯を用います。

3.心血虚

中医学では心血とは、全身の臓器に潤いと栄養を与えるだけでなく、睡眠や精神活動にも関与しているとされています。また心血には地の気(穀物)と天空の気から取り入れた気を内封し、その心気を全身に配って臓器の機能の働きに関与しているとされています。過度の心労でこのような心血が消耗し、心血が不足すると、心気も衰え、衛気も不足し、夜間睡眠中の体表を固護する力がより不足するために、津液が外に漏れてねあせをひきおこします。また心血が不足すると栄衛不和により脈中の津液を脈外に漏れないように守ることができず、(上記の調和栄衛①)、脈外に津液が漏れ出し、寝汗がひどくなります。

寝汗のほかに動悸、眠りが浅い、夢をよくみるなどの心血虚の症状がよくみられます。

治療は、心血を滋養し(補血養心)、気を補い(益気)、汗が外に漏れないように収斂し、(斂汗)、調和栄衛を行います。

生薬では、補血養心の当帰、地黄、竜眼肉、酸棗仁、益気の人参、黄耆、白朮、斂汗の竜骨、牡蛎・五味子、調和栄衛の桂皮と芍薬などを用います。エキス剤では、補血養心、益気、斂汗、調和栄衛の生薬を含む人参養栄湯や帰脾湯合黄耆建中湯、桂枝加竜骨牡蛎湯などが用いられます。

4.心肝火旺

普段からストレスを感じやすく、イライラしたり、気分が落ち込んだりするなどの症状がみられ、これらの症状が高じると焦燥感、じっとしていられない、動悸、不眠症、寝汗などが現れます。中医学における肝の主な働きは、気血と津液の巡りをコントロールし、心とともに精神状態の安定化にも貢献しています。強いストレスを継続的に受け続けると気や血を巡らすはたらきが悪くなり、やがて熱を帯び(肝火という)、その熱が心みも移り、心肝火旺という状態になります。

このような状態に、衛気が体表から体内の裏に入る夜間では内熱がより強くなるために、衛気の不足に乗じて熱が津液を外に漏らしてねあせが発生します。

発汗後には皮膚に熱感があります。

治療は、心肝の火を清瀉し(清心瀉肝)、斂汗を行います。

生薬では、清心瀉肝の浮小麦、黄連、菊花、淡竹葉、生地黄、牡丹皮、山梔子、斂汗の竜骨、牡蛎などを用います。エキス剤では、加味逍遙散、柴胡加竜骨牡蛎湯、黄連解毒湯、三黄瀉心湯、甘麦大棗湯などを用います。

5.瘀血内熱(瘀熱)

上記の心肝火旺の症状と寝汗が数年間も続くと、血の流れが悪くなり(中医学では瘀血という)、やがて熱を帯びるようになります(瘀熱という)。

瘀血の症状としては、唇や歯ぐきや舌の色が暗赤色になっている、舌の裏側の静脈が暗い紫色に腫れている、顔色がどす黒い、女性であれば月経の色が黒ずんでいたり、塊が混じる、そのほかに目にくまができる、シミが多い、お腹や足の静脈が浮き出ているなどの症状がみられます。

一般に夜間では日中より気血の流れが緩やかになるため、夜間になると瘀血の状態がひどくなり、熱をさらに生み、津液を外泄させます。

治療は、清心瀉肝に加えて活血、斂汗を行います。生薬では、上記の清心瀉肝と斂汗の生薬に加えて、活血の桃仁、紅花などを用います。エキス剤では、上記の心肝火旺のエキス剤に加えて、桂枝茯苓丸、通導散、桃核承気湯、腸癰湯などを用います。

6.湿熱

じっとりとした寝汗(首から上に多い)、口が粘る、体が重だるい、むくみなどがみられます。発汗後は熱感がみられます。脂っこい食事やアルコール類を、日常的に取ったり、大量に摂取したりすることで、胃腸機能が弱まり、水分(湿)が生じ、長期間停滞し熱を帯びて湿熱となり、夜間には衛気が裏に入って内熱がより強くなるために、衛気の不足に乗じて熱が津液を外に漏らしてねあせが発生します。

治療は、熱をさますと同時に湿を発散したり尿として除く(清熱利湿)を行います。

生薬では、清熱利湿の茵陳、薏苡仁、山梔子、滑石、清熱燥湿の黄連、黄芩、黄柏などを用います。エキス剤では、茵陳五苓散、竜胆瀉肝湯などを用います。

423回の閲覧
住所
栃木県下野市
文教1-2-28