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中医学(中国伝統医学)と不眠(不眠はなぜ起こるのか) 不眠症:その13

fureaikanpou


西洋医学では、脳の活動を抑制する睡眠薬を中心に、


最近ではメラトニンやオレキシンという


睡眠と覚醒の周期に関係する生理的な物質の働きを調整し


睡眠状態に仕向けていく薬が開発され、


不眠に対しての対症的治療が少し進んだとはいえ、


不眠症そのものの原因について解明した


解決策とはいい難いようです。



困ったときの解決策として、


ともかく眠れるようにしようとする手段といえます。



一方、中医学(中国伝統医学)では、


体のいろいろな情報を総合して、


睡眠とか眠れない状態とかいった現象に対する仕組みを理解して、


もう少し根本的な解決策を探ろうとしています。



現代人は寝るのがもったいないと考えている人が少なからずいます。


あれもこれもしたいのに、寝てなんかいられないといった考えです。



しかし睡眠をとらないでいると、消費だけが進むことになり、


次第に元気がなくなり、極端な場合、死んでしまうことさえあります。


すべての生き物にとって、睡眠は生きるために不可欠なもので、


眠ることが、生きて活動することの土台となっています。


活動が増えれば、休息や睡眠も増やすことが必要です。


睡眠により日中の活動によって消費したものの


回復や傷ついた体の修復、体の構造をささえる物質をつくる作業など、


睡眠中も体は絶えず働いています。



赤ちゃんや成長期の子供がよく寝るのは


睡眠により体の土台を作っているからです。


簡単にいえば、起きている間は体を消費する活動、


寝ている間は消費の回復と体に必要なものを増やす活動を


しているといえます。



機械を充電して働かせるように、


活動に必要なものが睡眠中に作られると考えれば、


生きるために寝ることが必要というのも理解できると思います。



このように、睡眠は活動のためにあるといえます。


このことは、中医学的な見方で言い換えると、


陰と陽の関係に例えられます。



陽は活動、陰は睡眠。


この陰と陽の関係は互いに相手を支えあったり、


行き過ぎを制御するなど、協力関係にあります。



このような陰と陽は中医学において、


体や自然界のすべてを陰と陽の二つの要素に分けてとらえた概念で、


性質の異なる二つが互いに協力して、


一方が主役のときは他方が控えに回るという考え方です。



陽は、熱や動きの性質をもち、活動や興奮と関係します。


エネルギーを消費して生命活動を盛んにさせる役目をもっています。


陰は、水や静寂の性質をもち、鎮静や滋養と関係します。



体でいえば、栄養や血液と関係し、体を潤したり、


精神を穏やかにゆったりした状態にします。


このような陰と陽は互いに制御しあっています。



活動ばかりしていると、体の消費が進みすぎて体を害するので、


陽の勢いを抑えるために陰が台頭して活動を抑えます。


陰が盛んになると、主役が陽から陰に変わり、


活動を停止して休息したくなり、


消耗したものを補充してつぎの活動に備えます。


これが眠くなる理由です。



しかし眠ってばかりいても元気になるわけではありません。


陰は水や静けさの性質をもつため、


陰の活動ばかりだと、体は重だるくなってきます。



そのため、陰が過剰になると、これを制御するために、


運動をすることが必要になります。


このように昼間は体を使ってエネルギーを消費し、


夜はその消費したエネルギーを睡眠によって補充する


という消費と補充の一連の巡りがとても大切です。



そのため、不眠症の解決に、


ただ眠ることばかりを工夫するのではなく、


運動や活動を充実させることがとても大切です。


反対に昼間に十分活動しないと、


陽が陰を育てられないので、


眠れなくなります。



ところが、ただ役割交代をして、


バランスをとればいいという訳ではないのです。



陰や陽は、それぞれの主役になる時間帯があります。


陰はその性質から、静かで暗く冷たい状態が


その力を発揮しやすいのです。


1日でいえば夕方から夜間、


特に午後10時から午前2時の間が主役になるべき時なのです。



反対に陽はにぎやかで明るく暖かい状態、


特に太陽の光がもっとも差し込む午前10時から午後2時の間が


陽の時間なのです。



この自然のリズムに乗って、明るいうちに活動し、


暗くなるにつれて休息に移行し、夜は活動を控えて


睡眠をとるということが、


陰陽のバランスをとるための大切なリズムです。



しかし陰陽をめぐる気の流れが一日のリズムにしたがって変化せず、


夜間になっても陽の領域に気がとどまってしまうと、


表層の活動が残り、陰の仕事が行えず、不眠になります。


夜遅く運動したり、夜遅くまで悩みごとを考えたりすると、


表層に陽が残り、陰がなかなか仕事ができまくなってしまいます。



また、夜更かしして明け方から昼過ぎまで寝るような生活では、


睡眠時間は沢山とっていても、睡眠の質はよくないはずです。


体がだるかったり、やる気がしなくなったりします。



またストレスの多い人や頭を使う作業の多い人は、


考え込んだり悩んだりしている状況になっているので、


そのベクトルの向きが内へ内へ向かっています。



そのため、その後、内へ向かって来る陰は


手に入らないということになるので、


夜なると目がさえて眠れなくなったりします。



このようなストレスの多い人や不安、


心配事の多い人は精神活動だけが過剰になって、


肉体活動があまり行われないと、


昼間の消費、消耗ということよりも、


発散ということが重要になります。



ウンと外に向けて、発散して消費する、


その分、陰をウンと内側へ取り込んで来る、


これで出たり入ったりのメリハリがつく、ということになります。



夜勤や仕事の都合などどうしようもない場合は別として、


自分で工夫できるときは、自然界の陰陽のリズムと


生活の陰陽のリズムを合わせる努力をすることが、


睡眠だけでなく体全体の調子をととのえる上でも、


とても大切です。



このような陰陽のバランスのほかに、


体の仕組みから、睡眠の仕組みを理解することもできます。



中医学では、体の働きを五臓とよばれる五つの要素によって


役割分担していると考えます。


その五つとは腎と脾、肝、肺、心で、


現代医学の臓器にも同じ名前が使われていますが、


同じ働きをしたり、それを超えた少しちがった働きも分担したりします。



五臓のうち、睡眠には特に心が関係していると考えられています。


中医学でいう「心」は、現代医学の心臓と同じように、


血液を押し出すポンプ役としての働きもしますが、


思考や精神活動を調節する大脳の働きにも関係していると考えます。



その働きの一つとして、睡眠を調節する働きに関わっています。


地球上のすべての生物が太陽の光で維持されているように、


心は体という小宇宙のなかで太陽の役割をしていて、


体の働きを活発にさせるように体全体の働きを調節しています。



したがって、体が活動しているあいだは心も活発に活動しています。


心の活動性は、動きや熱で表現される心陽が主に受け持っています。


心陽が充実している体は、活力があふれ、気力も充実し、


よろこびの感情に満ちています。



心の活動を収束させる睡眠の機能は、心陰が受け持っています。


このように心陰を充実させるためには昼間の活動や発散ばかりでなく、


不安な気持ちや悲しい気持ちを寝床にもちこまず、


その日あった楽しい出来事など心が温まるような、


心が潤うようなことを思い出しながらねることがとても大切です。



こうして、昼は心陽、夜は心陰の役割交替をすることで、


ちょうどブランコや振り子が勢いよく振れるように、


ゆたかな体の活動を生み出します。


心陰が不足すると、睡眠の時間帯にも「心陰」が主役になれず、


いつまでも「心陽」が残っていて、


体は疲れを感じても眠くならなかったり、


寝ようとしても目が冴えて寝つけなかったり、


夢をたくさん見たり、


活動が収束しない状態がつづきます。



心陰は心陽にとって消費の回復の役割と同時に、


翌日の心陽の燃料の役割も果たしますから、


心陰の充実度は心陽の充実度につながるため、


昼間はウンと活動・発散して、陰を十分に育て、


心地よい睡眠をするというメリハリがとても大切です。



中医学でいう血とは、単なる物質としての血液以上に、


機能を鎮めたり、潤したり、盛んにさせたりする、


物質以上の働きも含んだ概念です。



陰陽のバランスでみた陰の働きを血が担っています。


血は、心の働きだけで維持されているのではなく、


体の中心部分から頭部に血を運んでくることによって支えられています。



血をつくり出す働きや、血を運ぶ仕組みなどに関わる、


心以外の臓腑の状態も睡眠に影響します。


そのなかでも、自律神経や感情、


さらに気血の運搬との関係が深い肝、


食事や栄養を取り込む機能と関係が深い脾


などによっても睡眠が維持されており、


これらの異常により不眠症が生ずることもあります。


そのほかに腎も心の働きに重要な役割を果たしています。



心陰の充実のためには、心の潤いが必要です。


心の潤いは、年齢変化と関係の深い生命力を蓄える


腎から供給されています。



精神という言葉には、


この腎と心の関係が表現されています。


「腎は精を蔵し、心は神を蔵す」といわれています。



精とは生きるためのエッセンスのようなもので、


生きる力のもとを意味します。


これが腎に蓄えられていて、


腎から全身に提供されることで生命が維持されています。



この精の提供を受けて、


体全体の働きに司令を送る神の働きの調和がとれて、


体が正常に機能します。これが精神活動です。



心において、心を活発に活動させるための心陽と、


その働きに対して潤いと穏やかさを保つための


心陰との陰陽バランスがあるように、


腎においても、体全体に潤いを提供する素となる腎陰と、


腎を活発にして体全体の活動力の素になる


「腎陽」との陰陽バランスがあります。



このような陰陽バランスは、体の深いところにある腎と、


体の一番高いところにある心とが、


互いに関連しあいながらバランスをとっています。





潤いや鎮静を提供する腎陰は、


体の深いところから上方にめぐり、


体の一番高いところにある心まで上昇して、


心陰の補充に貢献しています。



心陰は心の過剰な活動を防いでいます。


こうして心における陰陽バランスが取られています。



心は生体に活動力や熱を提供する太陽のような存在です。


太陽が水を温めて水蒸気が上昇するように、


心陽が下降して重く冷たい腎陰を温めて軽くし、


深いところから上昇して心の陰液を利潤しています。



このように、体の一番深いところと


高いところの対極に存在する腎と心が、


腎は陰を、心は陽を提供することで、


互いの機能を維持するとともに、


体全体の機能を支える基礎を提供しています。



心と腎が互いに連携しあいながら機能を支えているようすを心腎相交、


心陽と腎陰が相交しない病態を心腎不交とよんでいます。


過労、寝不足、夜型生活は腎の陰を消耗し、


腎を乾かしてしまいます。



潤いを提供する役目の腎が乾いてしまうので、


心に潤いが届かなくなり、眠れなくなります。


「疲れているのに眠れない」と感じるようなときの状態です。



このように、体全体から見た陰陽のバランス状態に加え、


体の上方に存在する心の働きを維持するための陰陽のバランス、


心の働きを維持するための上下の連絡(交通)を保つ仕組みなどが


睡眠に関係しています。


こうした仕組みの異常が、不眠症を引き起こします。

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