• 院長 田中康文

⑩混合型頭痛、慢性片頭痛、薬物乱用頭痛(西洋医学からみた頭痛Q&A:その10)

(混合型頭痛)

Q.混合型頭痛とはどのような頭痛ですか?その場合の治療は?


(慢性片頭痛)

Q.慢性片頭痛とはどのような特徴があるのですか?

そしてそれはどうして起こるのですか?


(薬物乱用頭痛)

Q.薬物乱用頭痛とはどのような頭痛ですか?それはなぜ起こるのですか?

そしてその対策は?


(混合型頭痛)

Q.混合型頭痛とはどのような頭痛ですか?

その場合の治療は?

【回答】

以前、片頭痛と緊張型頭痛の混合した混合性頭痛というタイプの頭痛が認知されていましたが、その後の国際分類では、このあいまいなタイプの頭痛は廃され片頭痛または緊張型頭痛のどちらかに分類すべきとされました。二つがある場合は、頭痛診断としては、両者を併記することになっています。


しかし臨床の現場では、この両者が合併することも珍しくありません。ただし、両者は対処法・治療法が正反対なので、本当に合併しているのか、どちらのタイプの頭痛なのか、重症度を含む比率など、どのような形で合併しているのか、正確に見極めることが大切です。そのためにも頭痛ダイアリーを用いて頭痛を記録することがとても大切です。頭痛の起こり方や置かれた状況を記録することは診断に役立つだけでなく、緊張型なのか、片頭痛なのか、発症パターンを客観的に振り返ることができ、発作への対応や薬の使い分けに反映させることができます。


片頭痛と緊張型頭痛が合併している場合には、まず、それぞれがどのくらいの比重で合併しているかをみます。例えば片頭痛の発作が頻繁に起こっていて、緊張型頭痛はたまにしか起きない人もいれば、ベースに緊張型頭痛があって、月に1回程度片頭痛発作が起きるという人もいます。発作のパターンに応じてどこに重きを置いた治療にするかを決めていきます。

緊張型頭痛の人も片頭痛の人も頭痛が起こる前にしばしば首こり・肩こり、あるいは後頚部の張りを訴えます。このような場合、緊張型頭痛なのか、片頭痛なのか、よく分からない時は頭を左右に振ったり、首を前屈(おじぎ)したりして頭痛がひどくなるかどうかをみてから内服をするように勧めます。


片頭痛にも緊張型頭痛にも適度な運動は有効です。とくに水泳や散歩、ジョギングなどの有酸素運動は、脳内のセロトニンを増やす効果があることが知られており、片頭痛の予防につながります。

緊張型頭痛はデスクワーク中心の人に多くみられ、ストレスや運動不足が誘因になることがあります。そうした方にも、有酸素運動で体をほぐすことは有効です。短時間でも毎日行うことができるラジオ体操もおすすめです。

(慢性片頭痛)

Q.慢性片頭痛とはどのような特徴があるのですか?

そしてそれはどうして起こるのですか?

【回答】

「片頭痛は毎日は起こらないはずなのに、最近、毎日のように頭痛が起こるようになってしまった」

このように月に2~3回程度しか起こらなかった片頭痛が、月の半分以上あるいは毎日のように、慢性的に起こるようになってしまう片頭痛は慢性片頭痛と呼ばれています。片頭痛以外の頭痛が混在する厄介な頭痛です。

このような慢性片頭痛が最近、急増し、注目されています。頭痛の頻度が増すだけでなく、片頭痛のない日も緊張型頭痛にも似たような、片頭痛が変容したような、典型的でない頭痛がよく起こります。そのため、変容型片頭痛ともいわれます。

たとえば脈打つ痛み、吐き気といった強い頭痛が2~3日続いたあと、片頭痛かどうかわかりにくい軽度~中等度の頭痛も起こり、頭痛から解放される様子がなく、片頭痛と考えられる強い頭痛の日が半分以上を占めるなどスッキリする日がありません。緊張型頭痛が慢性になった場合と違い、週に2~3日はひどい頭痛(片頭痛)が起こります。頭痛ダイアリーをつけて初めて診断が可能となる頭痛です。緊張型頭痛の増加や、片頭痛が姿を変え増加すると、片頭痛と緊張型頭痛との違いがますます見分けにくくなります。

ストレスの増加、鎮痛薬を安易に飲みすぎるなどの現代の社会状況が原因の一つです。

単に片頭痛と緊張型頭痛とが混合しただけの頭痛ではなく、片頭痛が頻発して脳を変化させ、片頭痛を更に多くし、痛み方を変えてしまうと考えられています。特に痛み止めの薬の飲み過ぎが関係しているといわれています。


セロトニンは痛みを緩和させる作用がありますが、痛み止めの薬がセロトニンの機能を低下させ、さほど痛いわけではないのに脳に「痛い」という情報が届いて苦痛を感じやすくさせるのではないかとみなされています。このような慢性片頭痛を予防するには片頭痛予防体操は有用です。片頭痛が繰り返し起こることでできてしまった「痛み記憶回路」をなくするのが目的です。鎮痛薬の飲み過ぎで慢性片頭痛にしてはいけません。

薬物乱用頭痛に注意しながら、1週間に2~3回程度の服薬にとどめます。また、慢性緊張型頭痛では、ストレスや不安、抑うつ症状などの心理的な原因により脳内で痛みの調整がうまくできない状態になっていることもあるので、不安を取り除き、心を落ち着かせることも大切です。

(薬物乱用頭痛)

Q.薬物乱用頭痛とはどのような頭痛ですか?それはなぜ起こるのですか?

そしてその対策は?

【回答】

もともと片頭痛や緊張型頭痛などの頭痛を持っている人が、頭痛薬の飲み過ぎにより、かえってほぼ毎日頭痛が起こるようになった状態を薬物乱用頭痛といいます。頭痛持ちの人は、またいつ頭痛発作が起きるかわからないという不安があるため、痛いときはもちろんのこと、頭が痛くなくても予防的に薬を飲んでしまいがちで、薬への依存がエスカレートしていく傾向があります。すると薬の量が増え、効き目が持続する時間も短くなり、やがては薬そのものに よって頭痛が誘発されることがあります。これが薬物乱用頭痛です。


次のような症状が当てはまる人は、薬物乱用頭痛の可能性があります。

  • 月に15日以上頭痛がある。

  • 頭痛薬を月に10日以上飲んでいる。

  • 朝起きたときから頭痛がする。

  • 以前はよく効いていた頭痛薬が効かなくなってきた。

  • 薬をいくら飲んでも頭痛が以前よりひどくなってきた。

  • 頭痛の程度、痛みの性質、痛む場所が変化することがある。

薬物乱用頭痛の診断基準は、月に15日以上鎮痛薬を飲んでいる場合となっていますが、実際には月に10日以上飲んでいる人は要注意です。乱用の原因となる薬物で最も多いのは市販の鎮痛薬ですが、近年は片頭痛の薬であるトリプタン製剤が増加しています。


それでは薬物乱用頭痛はどうやって起こるのでしょうか?

関節リウマチや腰痛などに対して、長期に渡って大量の鎮痛薬を服用していても薬物乱用が問題となることは極めて稀なことから、片頭痛や緊張型頭痛の病態そのものがその発生要因に寄与している可能性が示唆されています。

すなわちひどい頭痛を経験すると、頭痛発作への不安から鎮痛薬を予防的に服用するようになり、飲む回数や量が増えていきます。すると次第に、脳が痛みに敏感になり、頭痛の回数が増え、薬も効きにくくなってくるという悪循環に陥ってしまいます。

このように、

ひどい頭痛を経験

→頭痛発作への不安が大きくなる

→早めに、予防的に急性期治療薬を服用

→薬を飲む回数が増えてくる

→痛みに敏感になり頭痛回数が増える

→頭痛が複雑化して薬も効きにくくなってくる。


このような悪循環に陥る原因として、最近、神経伝達部室の1つである「セロトニン」が関係しているのではないかといわれています。

禅僧が「心頭を滅却すれば火もまた涼し」と唱えながら火中に飛び込む話や寒中に滝にうたれる行者の話もどこかでお聞きになったことがあると思います。禅僧は普段から坐禅の腹式呼吸法を何年も続けてきています。その鍛錬の結果、セロトニン神経の活動レベルが高く維持されて過酷な暑さや寒さをコントロールできるようになっている可能性があります。


それでは、セロトニン神経はどうして痛みを伴う感覚を抑えることができるのでしょうか?

感覚受容器からの情報が脳神経系に伝達される途中で、セロトニン神経は鎮痛効果を発揮します。一つは感覚神経が脊髄に入るところで起こります。次が、痛みを伴う情報がストレス反応に変換されるところで起こります。更に、ストレス情報が恐怖や不安などの情動を起こすところでも抑制作用が現れます。このように、痛みの感覚情報が順次に処理されていく過程で、セロトニン神経は抑制作用を発揮します。


それでは鎮痛薬を飲み過ぎると、なぜ頭痛がひどくなるのでしょうか? 

私たちの身体は、頭痛などで痛みが起きると、痛みを抑える物質が出るようになっています。しかし外から痛みを抑える物質(鎮痛薬)を頻回に入れると、本来体から出される痛みを抑える物質を出す必要がなくなります。この体内から出る痛みを抑える物質の1つがセロトニンといわれています。体内や脳内のセロトニンの分泌量が減ると、上記の痛みを伝達する痛覚伝導路を抑制できなくなり、痛みに敏感になり、痛みに対して恐怖いや不安が増強して、鎮痛薬を飲む量がますます増えることになります。これが鎮痛薬の飲み過ぎで頭痛が悪化する理由です。

片頭痛や緊張型頭痛の頻度や程度が高まり、慢性化する大きな原因は頭痛薬の飲み過ぎ、乱用です。片頭痛の人もトリプタンを飲み過ぎると片頭痛の頻度や痛みの程度が強くなり、慢性化して慢性片頭痛となります。片頭痛は三叉神経から過剰に放出されたCGRPが脳血管の受容体に作用し、血管拡張・炎症を起こします。トリプタンはこのような三叉神経からの過剰なCGRPの放出を抑えます。しかしトリプタンを飲み過ぎると、必要以上にCGRPの放出を抑えます。すると数が少なくなったCGRPの放出に対応して、CGRPの受け皿である脳の血管の受容体は数を増やそうとします。その結果、増えてしまったCGRP受容体は、三叉神経からのちょっとしたCGRPの放出にも過剰に反応し、脳の血管を過度に拡張して頭痛の頻度が高まることになります。



それでは薬物乱用頭痛に対してどのように対策すればいいのでしょうか?

まずは患者さんの気づき、理解、意思が大切です。

・自分の頭痛が薬の飲み過ぎによるものであると気づく。

そのために頭痛ダイアリーをつける習慣をつけるよう指導します。

痛みの渦中にいると自分がどのくらい薬を飲んだかおぼえていないことも多いので、服薬管理という意味でも頭痛の記録である頭痛ダイアリーをつけることは重要です。


・薬物乱用頭痛を正しく理解する。

急性期治療薬の使用は月に10日以内にすること、また急性期治療薬を予防的に飲むのを避けるよう指導します。

そして片頭痛の慢性化により、脳の細胞部分が減少し、脳にかなりのダメージを残すことを告げ、起こってはならない頭痛であることを認識させます。


・薬物乱用頭痛を治そうという意志を持つ。

治療は治そうという気持ちから始まります。


原則的に次のステップですすめ、元の頭痛に戻ったら、それに対応した治療を行います。

①まず最初に原因薬剤を中止にすべきですが、薬を止めることに不安感を感じる方もいるかもしれないので、薬を中止にする前に頭痛予防薬を使用します。

以下の人が対象となります。

≪服薬が月10日を超える人≫

薬物乱用頭痛ではないが片頭痛発作が月に2回以上ある人も片頭痛の予防療法を検討した方がよいといわれています。


≪頭痛薬を飲んでも効果が十分でなく、月に何回も学校や会社を休んでしまう人≫

また急性期治療薬が使用できない場合にも予防療法を行うよう勧められています。

予防薬は原則として、毎日服用します。

片頭痛の予防薬として最もよく使用される薬は抗てんかん薬のデパケンR錠です。この薬剤にて頭痛発作の頻度や重症度が軽減します。その用法は、デパケンR錠(200mg)2-3錠、分2(朝1錠、夕1-2錠です。妊娠している女性は中止します。

次いで 抗うつ薬のアミトリプチリンです。アミトリプチリンは片頭痛の予防、時に緊張型頭痛の予防にも使われることがあります。アミトリプチリンは「これくらいで痛いと感じていた」のを「これくらいでは痛くない」と感じるようにすることで、痛みの域値を上げる作用が望めます。抑うつ傾向のある人には抗うつ薬を処方することで頭痛の頻度が減ることがあります。その用法は、低用量 (5~10mg/日、就寝前)から開始して、効果を確認しながら漸増し、10~60mg/日の投与が推奨されています。

そのほかに血管拡張作用があるβ遮断薬(プロプラノロール(商品名:インデラル))も片頭痛発作予防効果があるといわれ、高血圧や冠動脈疾患、頻脈性不整脈などの合併症がある片頭痛患者には特に勧められています。その用法は20~30mg/日程度から開始して、30~60mg/日が勧められています。ただし、心不全や喘息、抑うつ状態の場合は勧められず、またリザトリプタン(商品名:マクサルト)の血中濃度を上げるため併用禁忌であり、どちらか変更しなければなりません。

片頭痛に対してロメリジン(商品名:ミグシス)、緊張型頭痛に対してチザニジン(商品名:テルネリン)が用いられることが多いという報告がありますが、これらの薬剤の効果ははっきりしないことが多いように感じています。


このような予防療法とともに片頭痛予防体操、緊張型頭痛体操を併用しながら(緊張型頭痛はこのほかに鍼灸治療やマッサージなども併用)、原因薬剤を徐々に減量していきます。

減量の過程で頭痛が発生した場合は、別の治療薬で対処します(たとえばトリプタン系薬剤が起因薬剤の場合はナプロキセン(商品名:ナイキサン)などの消炎鎮痛薬、あるいは呉茱萸湯や五苓散などの漢方薬に変えます)。最近、片頭痛の抗体療法と呼ばれている薬が開発されつつあります。片頭痛の原因物質とされているCGRPに対する抗体を試験管内でつくり、皮下に注射します。注射された抗体がCGRPをブロックし、片頭痛を予防します。米国での臨床治験(試験的な治療)では、30%の人の片頭痛が消失し、70%の人は片頭痛の頻度が半分以下になったと報告されています。日本での臨床治験も2016年から始まっています。




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