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  • 院長 田中康文

水イボ(伝染性軟属腫)


プールの時期になるとお子さんの水イボに悩まされる方がいらっしゃると思います。水イボは正式には伝染性軟属腫といい、伝染性軟属腫ウイルスによる皮膚感染症です。丸くて光った小さなイボがみられ、つぶすと白いかたまりが出てきます。この中にウイルスが含まれていて、これが皮膚につくとうつります。

幼少児によく見られ、大人は免疫(抗体)があるので子どもからうつされることは普通はないようです。保育所などで遊んでいて、水イボに接触するとうつってしまうことがありますが、通常はプールで感染します。しかしプールの水から感染するのではなく、互いの皮膚の接触や、ビート板やタオルの共用が感染の原因となるようです。最近は冬季でも多くみられ、暖房がよくきいているため薄着でいることが多いからとされています。水イボはいずれはどこかで感染するので、早く感染する方が早い時期に治るといわれています。

なお、学校保健法施行規則が改正され、通常登園禁止の必要はないこと、原則としてプールの禁止は必要ないことが認められています。ただし、タオル、浮輪、ビート板などを介してうつることがあるため、これらを共用することはできるだけ避けるようにします。プールの後はシャワーで肌をきれいに洗いようにしましょう。

 

《ふれあい漢方内科での治療方針》

痛みを伴わない治療をします。東洋医学では「皮膚は内臓の鏡」といわれているので、皮膚の病気は外側からと内側からの両面から治療します。

1.内側からの治療

水イボに対する抗体産生を促進するためにヨクイニンを用います。

ただハトムギの外側の皮を除去したヨクイニンのエキス剤はヨクイニンの含量が少なく、またヨクイニンはもともと薬効が穏やかなため、少量では十分な効果が期待できないといわれています。そのため、ヨクイニンの服薬量を増すためにヨクイニン錠とヨクイニンを含有したエキス剤の麻杏ヨク甘湯の両者を用い、さらに利水効果と肌を強くするために防已黄耆湯の三者の漢方薬を用います。

これらにてなかなか効果がみられない場合はヨクイニンの生薬を15~20g煎じ、またヨクイニン単独では美味しく飲めないので、炒ったハトムギ又は焙じハトムギを混ぜると、麦茶と同じ味で美味しく飲めます。薬が飲めないお子様には普段のお茶をハトムギにするのもいいですね。

なお、体力がない・抵抗力の弱い子供は直りにくく、また再発しやすいので、補中益気湯を併用します。

2.外側からの治療

イソジン液とイソジン軟膏(イソジンゲル)、さらに紫雲膏の三者を用います。

(1)綿棒の一方側にまず液体のイソジンをたっぷり染み込ませ、患部にちょんちょんと塗ります。

(2)綿棒の反対側にイソジンの軟膏をつけて、患部にさらに塗ります。

(3)絆創膏(あるいはより幅広いブラッドバン)の裏のガーゼの部分に、綿棒で紫雲膏を付着させたら、それをそのまま患部に貼り付けます。

具体的には、入浴後に上記の順番で患部に多めに塗ってから新しい絆創膏を貼って寝て、翌日はそれを貼ったまま過ごして入浴前にはがす、を毎日繰り返します。いずれも綿棒を使って塗ると清潔ですし、楽です。入浴の際に患部も普通に洗います。紫雲膏の量は、絆創膏からはみ出さない程度にたっぷり塗ります。

(4)乾燥肌やアトピー性皮膚炎があれば、水イボの治療と平行して治療します。

水イボになりやすい子は乾燥肌やアトピーの子が多いようです。このような子は皮膚表面が荒れています。皮膚細胞間に隙間があいている(バリア機能がない)ので、水イボのウイルスが侵入しやすい状態です。そのため、乾燥肌やアトピーでは水イボが拡がりやすいため、保湿剤(たとえばプロペト軟膏、ヘパリン類似物質、アトピコローション・クリーム)にて毎日スキンケアをします。水イボが完全になくなるまで、十分な皮膚のケアが必要です。

アトピーの子でステロイド剤を皮膚に塗布する場合、ステロイドは水イボのウイルスに栄養を与え、水イボに塗ると大増殖する可能正があるため、ステロイド剤は水イボを避けて塗ります。

 

以下は、多くの病院で現在行われている治療法を列挙します。

1. 自然に治るのを待つ

水イボはいくら広がってもからだには無害で、放置していても免疫(抗体)ができれば自然に治ることが多いため、無理に治療はせず、経過観察でよいとする意見があります。

しかし水イボのウイルスは弱く免疫反応が起きにくく、免疫ができるのに半年から1年、時に1、2年あるいは5、6年もかかることがあり、その間に、多発したり、他の人にうつしてしまうことがあります。

また、痒みを伴うことがあるので、かき壊して湿疹になったり、とびひになってしまうことがあります。

2. ピンセットで摘んで取る

皮膚科に行って「水イボ」と診断されると、数がそれほど多くない場合はひとつひとつピンセットで摘んで、水イボを除去することが多いようです。

水イボは2、3日するとウイルスの塊である芯が浮いてくるので、この白い芯をピンセットで抜き取りティッシュなどに包んで捨てます。しかし、とても痛いようで、痛みを軽減するために麻酔のテープ剤を使用することもありますが、年齢が小さければ小さいほど嫌がります。

では摘除すれば完治するかというと、すでに感染していたウイルスによってまた新しくでてきたり、新たに感染したりします。しかも除去したと思っても取り残しがあったり別の場所に感染して水イボの数が増えていたりすることがあります。

また小さいイボは摘除できないため、大きくなるまでわざわざ待たなければなりません。さらに多数発生している場合、一度に全てを摘除するこができません。

長所:直ぐに治る場合もある。

短所:

①すごく痛い。

麻酔薬テープを使用すれば痛みが軽減されますが保険上の枚数制限があり、1度ではまず取りきれません。

②水イボのウイルスが残っていると取ってもまたぶり返す。

1度では取りきれないので、結局は何回も通院して治癒までには数週間を要する。

③摘除後に傷が出来ると、感染が拡がりやすくなることがある。

3 .硝酸銀ペーストで灼く

病院では、数が少なければ硝酸銀で焼くかピンセットでとることが多いようです。水イボのひとつひとつに、硝酸銀ペーストを付けます。炎症反応が起きて、数週間で治ります。

1週間に1度、3~4回通院が必要です。

長所:

①痛くない。

②数週間で治ることがある。

短所:

①硝酸銀の付着した皮膚が黒くなって、見かけが悪い。

②手間がかかる。

③ケロイドになってただれることがある。

④水イボのウイルスが残っていると取ってもまたぶり返す。

⑤1度では取りきれない。

結局は何回も通院して治癒までには数週間を要する。

4. 液体窒素による冷凍法

アメリカでは液体窒素療法が1番目の選択肢で、日本でも一部の病院・医院で実施している所もあります。スプレーにて液体窒素を水イボひとつひとつに照射して冷凍させ、その後、除去します。

長所:直ぐに治る場合もある。

短所:

①痛みを伴う。

②手間がかかる。

③水イボの数が多ければ1度では取りきれない。

5.スピール膏で灼く

水イボのひとつひとつに、「うおの目」を取る時に使用するスピール膏を小さくカットして貼り付け、絆創膏で固定します。2~3日すると炎症反応が起きて、爪でひっかくとポロポロ落ちます。

長所:

①痛くない。

②数週間で治る。

③自宅でできる。

短所:

①手間がかかる。

②スピール膏が大きすぎると、水イボのまわりの健常な皮膚を痛めることがある。

③絆創膏かぶれを起こすことがある。

6.漢方薬「ヨクイニン」を服用する、はと麦茶を飲む

ヨクイニンを服用することで抗体ができるのを早めるのではないかと考えられています。

はと麦茶にはヨクイニンが含まれているので、漢方薬に合わせて飲むと水イボの治りがよくなるといわれています。個人差もありますが、一般的にはヨクイニンの飲用後2~3ヶ月位で抗体ができてくるといわれています。しかし、この時点で飲むのを止めると直ぐに再発するといわれているので、出来れば半年位飲み続けることが推奨されています。抗体ができたどうかは新しい水イボが発生しなくなることで分かります。ヨクイニンを飲むと、患部が硬くなり、入浴時に自然にとれます。

ヨクイニンは顆粒のほかにも錠剤もあります。

長所:痛くない。

短所:

①毎日服用しないといけない。

②数カ月かかる。

7.漢方薬の軟膏「紫雲膏」を塗布する

紫雲膏は、江戸時代末期の名医・華岡青洲が創方した漢方の軟膏です。もともと中国、明の時代に陳実功が著した外科正宋にある「潤肌膏」に豚脂を加えたものです。紫根、当帰、ゴマ油、ミツロウ、豚脂の5種類の生薬から構成されている油脂性軟膏剤で、皮膚の再生機能を促進して、患部を乾かさないように治します。低刺激性の軟膏として老人性イボや火傷、痔、皮膚のただれなどに広く用いられています。紫雲膏単独の塗布だけで水イボが見事に取れたという話やまったく効かなかったという話もあります。

入浴後に綿棒を使って紫雲膏を患部に多めに塗ってから新しい絆創膏を貼って寝て、翌日はそれを貼ったまま過ごして入浴前にはがす、を毎日繰り返します。入浴の際に患部も普通に洗います。紫雲膏の量は、絆創膏からはみ出さない程度にたっぷりです。2~3日すると芯がうき、ポロンととれ、痛い思いもしなくてすみます。

長所:痛くない。

短所:

①手間がかかる。

②どぎつい赤色で油分を含む軟膏なので衣類や寝具に付着することがある。

絆創膏を上から貼り付けると軟膏が他のものに付着するのを防ぐことができる。

③独特な臭い(汗臭いというか動物臭というか)がする。

8.消毒用イソジン液とイソジン軟膏(イソジンゲル)を塗る

イソジン軟膏単体だけでは効きが悪いという話があるため、イソジン液と軟膏の両方を用います。イソジンは「ヨウ素でウイルスを分解する」力を持っているとされています。

風呂上がりあるいは寝る前に綿棒にイソジンをたっぷり含ませて水イボという水イボの頭に色がつくぐらい塗ります。その後、イソジンの効果を長く水イボの頭部分に留めておくためにその上にイソジン軟膏を塗ります。イソジン軟膏で蓋をするイメージです。肌が弱くなければその上に絆創膏(あるいはブラッドバン)を貼ります。水イボが多数の場合は、特に絆創膏を貼らなくても大丈夫です。絆創膏を貼ることで、水イボがはじけてその中にあるウイルスが飛散する事を防ぎ、同時にはじける時点でイソジンにて水イボウイルスを撃退します。

長所:

①痛みがない。

②数週間あるいは1カ月以内で治ることが多い。

短所:手間がかかる。

9.木酢液・竹酢液

市販の木酢液クリア・竹酢液を用います。風呂に原液をキャップ2杯入れて入浴させて、湯上がりあるいは就寝前に原液を綿棒に含ませてそれぞれの水イボにたっぷりと塗り、その後、絆創膏あるいは注射パッチ(ブラッドバン)のガーゼ部分に原液を含ませて貼ります。

翌日の入浴前に注射パッチを取り、同じことを繰り返します。

2~3日すると黒くかさぶたになり、剥がれおち、膨らみが平になります。そして1~2カ月するとほぼ水イボは消失します。

長所:痛くない。

短所:

①手間がかかる。

②独特な匂い(スモークチーズのような、煙くさい匂い)がする。

③少し跡が残るが数日のうちにきれいになる。

 

最後に、水イボになり易い子は

・スイミングに通っている子や幼稚園や保育園にプールがある子

・乾燥肌やアトピーの子

・アレルギーを起こし易い子は、ウイルスにも弱いので起こり易い傾向がある。

・12歳以下の子

特に8歳以下で乾燥肌と尋常性疣贅の既往(イボになったこと)があり、本人や家族や親類にアトピー・花粉症・アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎・蕁麻疹・喘息がある場合は、水イボが少数でも早期に治療を開始することが勧められています。


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