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院長 田中康文

頭痛


頭痛はよくみられる症状ですが、頭痛にはクモ幕下出血や脳内出血など、生命に危険のある病態もあるので急性の激烈な痛みで意識障害あるいは高熱を呈する場合、あるいは慢性で次第に増強したり頻度が増す場合には、病院を受診すべきです。

明らかな病変が認められずに頭痛が起こっている場合には、漢方による治療が有効です。

頭は体の最上部にあり、頭部には臓腑の陽気(清陽の気といいます)、手足の気など、体全体の陽気が集まってくるため、頭は「清陽の府」または「諸陽の会」といわれています。そのため、頭痛の部位と臓腑にはある程度の関連性があるといわれており、経絡(気の流れの道筋)の循行により、部位によって使用する薬物が異なるといわれています。

①頸項部(後頸部から両側肩甲骨間の背部)から後頭部は太陽頭痛(太陽膀胱經)

②こめかみから側頭部は少陽頭痛(少陽胆經)

③前額から眉稜部は陽明頭痛(陽明胃經)

④頭頂部は厥陰頭痛(厥陰肝經)

と呼ばれています。

ここでは主に慢性頭痛に対しての漢方藥の用い方について述べたいと思います。

 

《反復性・慢性の頭痛》

反復したり慢性に持続する頭痛は内因が主体であり、外因は頭痛を誘発したり増悪させる要素として作用します。

【頭風頭痛】

最もよくみられる頭痛で、長期にわたって反復する頑固な頭痛で、頭痛以外にこれといった特徴は特にありません。自然界の風は突然現れ、舞い上がり、突然消えるという特徴がありますが、このような風が体内にも生じて(内風といいます)、頭部を襲い頭痛が発生する病態で、古人は風が吹くと頭痛が生じると考えて「頭風」と称しました。普段からストレス、疲労、睡眠不足などで慢性的に肝腎の陰血が不足する傾向があり、そのため陰陽のバランスが崩れて肝の陽氣(肝陽といいます)が上昇しやすくなっており、このような状態に、さらに軽微な感冒を患って外から風邪が侵入したり、あるいは情緒変動、疲労、温度変化、睡眠不足などのなんらかの軽微な外因の作用により、内風をひき動かすたびに、肝陽と結びついて風陽となって頭部を襲い、おりにふれて反復する頑固な頭痛が起こります。肝胆に関連した病変ですから、一般には厥陰頭痛・少陽頭痛として発症します。

治療としては、内風を鎮めるとともに肝気の流れを調整して止痛するようにします。生薬としては、風邪を発散させる荊芥、ビャクシ、防風、独活、菊花、肝気の流れを改善する柴胡、香附子、センキュウ、肝の陰血を整える当帰・白芍・何首烏・生地黄などが用いられます。エキス剤としては、センキュウ茶調散+釣藤散がよく用いられます。

【内傷頭痛】

内傷頭痛とは、体内の臓腑の機能失調によって現れる頭痛です。一般に、外感頭痛は激しく急性で経過が短く、内傷頭痛は反復性・慢性で経過も長く、詳しく症状を分析して臓腑の機能、陰陽のバランスを調整しなければならないといえます。臓腑のうち、最も関連の深いものは肝です。

①肝陽頭痛

慢性病などの消耗により肝腎の陰血が少なくなり、陰血と陽氣のバランスが崩れ、陽気を抑制できなくなり、肝の陽氣(肝陽といいます)が上部に上がって(上亢といいます)、頭痛を引き起こします。

肝胆に関連した病変ですから厥陰頭痛・少陽頭痛をともないます。慢性に反復し時間とともに増減する頭痛がみられ、そのほかにはふらつき、耳鳴り、いらいら、怒りっぽいなどの上部の症状とともに、腰がだるく痛む、下肢に力が入らないなどの下部の虚弱症状がみられます。中年以降によくみられる頭痛で、高血圧症・更年期障害・自律神経失調症などに相当します。治療としては、肝腎の陰血を滋潤することにより肝陽を抑制し陽亢を鎮潜させて正常化を図ります。

主な生薬としては、陰血を潤し養う生地黄、熟地黄、枸杞子、女貞子、白芍、阿膠、玄参、天門冬、肝気を抑制し肝風を鎮める釣藤鈎、天麻、菊花、肝陽を鎮める亀板・鼈甲・牡蛎・竜骨などが用いられます。エキス剤としては、釣藤散、天麻鈎藤飲、鎮肝熄風湯、杞菊地黄丸などが用いられます。

②気虚頭痛

頭風頭痛とともに最もよくみられる頭痛です。生まれつき体が弱いヒトや疲労や慢性病、老化により陽氣(エネルギー)が不足して頭部に上昇できずに頭部にエネルギーを与えることができないために生ずる頭痛です。慢性的に反復する頭痛、疲れると痛みが増強、疲労倦怠感、息切れ、食欲不振などの症状が見られます。治療として、元気をつけ、気力を増強させ、陽気が頭部に上昇できるようにします。

生薬としては、胃腸機能を高め、陽氣を増やす黄耆、人参、白朮、甘草、気を持ち上げ上昇させる柴胡、升麻などを用います。エキス剤としては補中益気湯を用います。

③血虚頭痛

出血・出産・慢性病などにより血が不足し、脳に潤いと栄養分を与えることができないため生ずる頭痛です。胃腸機能が弱く、気虚のために血を作ることができなかったり、出血の時に血とともに気も失うので、多くは血虚に気虚をともなって気血両虚を呈します。慢性的な頭痛に頭のふらつきをともない、顔色や肌につやがない・動悸・不眠・筋肉のひきつり・目のかすみ・しびれなどが見られます。

治療として、血を作り増やすことで、脳に栄養分を与えます。

生薬としては、当帰、白芍、熟地黄・阿膠、何首烏、枸杞子などが用いられます。エキス剤としては、四物湯、当帰芍薬散、婦宝当帰膠などが用いられます。気虚をともなう場合は、気を増やす黄耆、人参、白朮、甘草などを加えます。エキス剤としては、十全大補湯・人参養栄湯などが用いられます。

④風痰頭痛

反復する発作性の頭痛とめまい、甚だしいと周囲が回転して立っていることができず、吐きけ、嘔吐を伴い、ふだんから食欲不振、吐きけ、痰がからむなどの症状が見られます。飲食の不摂生、飲酒、過労、精神的ストレスなどにより、胃腸機能が弱まり、水湿が停滞して痰を生じ、一方では陰血の産生が不足して肝の陰血が不足し、肝陽を抑制できないので肝風が発生し、内生の痰が肝風とともに風痰となって頭部に上昇し、頭痛が生じ、根本に胃脹機能の低下が存在します。

治療としては、肝風を鎮め、痰を除き、胃脹機能を高め、痰と風の内生を防止します。生薬としては、肝風を鎮める天麻、釣藤鈎、防風、菊花、化痰降逆の半夏、陳皮、生姜、天南星、胃脹機能を高める白朮、蒼朮、茯苓、麦芽などが用いられます。エキス剤としては、半夏白朮天麻湯、釣藤散、竹茹温胆湯などが用いられます。

⑤瘀血頭痛

固定性の刺すような頭痛で、夜間や運動時に増強します。他の病態で頭痛が反復することにより血の流れが悪くなったり、外傷、打撲、むちうち、手術などによる内出血で、血行が停滞して頭痛が生ずる病態です。他の病態に対する治療と併用すべきです。

治療として、血行を促進するとともに老廃物を除いて循環を順調にします。主な生薬としては、当帰、センキュウ、桃仁、紅花、赤芍、丹参などが用いられます。エキス剤としては、通導散、桂枝茯苓丸、冠元顆粒、通竅活血湯、血府逐瘀湯などが用いられます。

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