• 院長 田中康文

睡眠薬以外の不眠に効果のある薬:抗精神病薬、抗ヒスタミン薬(不眠症:その13)

【抗精神病薬】


抗精神病薬は、ド-パミンの働きを調節して統合失調症の治療薬として開発された薬ですが、その副作用として鎮静・眠気があります。


その副作用を逆手にとって睡眠薬として使われることがありますが

その頻度はそれほど多いものではありません。


その代表的な薬として、セロクエル、ジプレキサ、シクレストやリスパダール

などが挙げられますが、これらの薬は糖代謝への悪影響が少なからずみられます。


セロクエルとジプレキサは糖尿病患者には投与してはいけないことになっており、

リスパダールは慎重投与となっています。

シクレストは糖尿病患者にも投与可能ですがやはり注意が必要です。



〔セロクエル〕


抗精神病薬は、定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬に分けることができます。


定型抗精神病薬は、第一世代の薬物群を指し、それ以降に開発された薬物群が

非定型抗精神病薬で、現在はこちらが主流の治療薬になっています。


セロクエルは、その第二世代の非定型抗精神病薬になります。

ド-パミンだけでなく様々な受容体に作用して、

その働きをブロックすることで効果を発揮するため、

MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)と呼ばれています。


現在日本で発売されているMARTAはセロクエル、ジプレキサ、シクレストの3剤です。


セロクエルは過剰なド-パミンの働きを抑える働きがあるため、統合失調症の治療薬として開発されましたが、気分の安定にも効果が期待できることがわかってきました。


そのため、うつ病・うつ状態、双極性障害(躁うつ病、特にうつ状態)の治療として使われることがあり、抗うつ剤に追加してうつ病治療を強めるために使われることがあります。


また気持ちの高ぶりを抑える作用があるため、強い不安や不眠に対しても使われることがあり、抗不安薬や睡眠薬を使っていくよりも、症状をコントロールできることもあります。


しかしセロクエルは糖代謝に悪影響を及ぼすことがあるため、糖尿病患者には使ってはいけないこととなっています。


そのほかに副作用として、眠気・ふらつき、体重増加があります。

セロクエルはクエチアピン錠としてジェネリック医薬品が発売されています。


[セロクエルの作用時間]

セロクエルの最高血中濃度到達時間は1.4時間、半減期は3.4時間となっています。

このように作用時間の短い薬ですが、効果のピークが早いため、不安や不眠に対して効果は比較的すぐに認められます。


[セロクエルの用法]

セロクエルは、25mg錠・100mg錠・200mg錠の3剤型があります。

ジェネリック医薬品では、12.5mg錠・50mg錠も発売されています。

強い不安や不眠に対しては、就寝前に12.5mgあるいは25mg錠の少量から開始し、効果が不十分であれば通常、50mgまで増量します。


セロクエルは離脱症状が少ないですが、長期で服用している場合は少しずつ減量していく必要があります。

うつ状態・うつ病には最近、徐放製剤が発売され、(ビプレッソ徐放錠といいます)、

血中濃度の上昇がゆるやかで、作用時間が長いという特徴があります。

そのため、セロクエル錠よりも、飲み始めの副作用が軽減し、1日1回の服用で済む

という効果が期待できます。

徐放錠では50mg、150mgの2剤型となっています。

うつ状態・うつ病に対しては、就寝前に50mgから開始して、最大用量は300mgとなっています。



〔ジプレキサ〕


ジプレキサもドパミン以外の多くの受容体にも作用し、セロクエルより鎮静・睡眠作用が強く、強い不安や不眠に対して使われることがあります。


またジプレキサも糖代謝に悪影響を及ぼすことがあるため、糖尿病の患者では使うことができません。


ジプレキサもオランザピン錠としてジェネリック医薬品が発売されています。

ジプレキサは抗うつ効果はやや弱く、抗躁効果は強いという特徴があり、そのため

双極性障害、特に躁状態に対して効果が期待できます。


また食欲を増加させる効果や制吐作用も認められます。

そのため、高齢者で食欲不振がひどい場合、ごく少量のジプレキサで食欲が回復することがあります。

また抗がん剤の副作用としての吐き気を和らげる作用もあることが知られ、心因的な吐き気にも使われることがあります。


ジプレキサは抗コリン作用が目立ち、便秘や口の渇きなどの副作用がみられ、また離脱症状に注意が必要です。そのため、長期で服用している場合は、少しずつ減量していく必要があります。


またジプレキサは、タバコを吸っていると効果が弱くなってしまいます。

タバコはジプレキサの分解に必要な肝臓の酵素の働きを強めてしまうため、有効成分が分解されてしまいます。


[ジプレキサの作用時間]

ジプレキサは、最高血中濃度到達時間は4.8時間、半減期は28.5時間となっています。

ジプレキサは4.8時間ほどでピークになり、そこから28.5時間で半分の量になるということになります。そのため、1日1回の服用で効果が一日安定します。


[ジプレキサの用法]

ジプレキサは、2.5mg錠、5mg錠、10mg錠の3剤型がありますがジェネリック医薬品では1.25mg錠、20mg錠も発売されています。

ジプレキサは、強い鎮静作用を期待するときは10mgから開始することがありますが、通常は1.25mgあるいは2.5mg、5mgから開始します。

維持量は10mg、最高用量は20mgとなっています。


〔シクレスト〕


舌下錠という特殊な剤形になります。舌の下に薬を置くことで溶け出し、舌下から吸収されて直接血管に移行して脳に働くため、しっかりと効率よく作用します。


もともとは錠剤で開発されましたが、吸収されてすぐに肝臓で分解されてしまい、効果が不安定になってしまうために舌下錠となりました。


シクレストには気持ちの高ぶりを抑える作用があるため、不安や焦燥感が強いときに使われます。また深い睡眠が促されるため、睡眠薬として使われることもあります。


シクレストも代謝に悪影響はありますがセロクエルやジプレキサほどではなく、糖尿病でも使うことができます。しかし血糖値には注意が必要です。


[シクレストの作用時間]

1時間ほどでピークになり、24時間で半分の量になるとされています。

そのため1日1回の服用でも可能です。


[シクレストの用法]

5mgと10mgの舌下錠の2種類があります。

睡眠効果を期待する場合は、夕食後や就寝前に5mg舌下から開始し、睡眠が不十分であれば2週間後に10mg舌下まで増量します。厳密に舌下におかなくても、口の粘膜ではどこからも吸収されます。

しかし舌下投与後10分間は飲食を避けます。

また薬を飲みこんでしまうと肝臓で分解されてしまい、

効果が減弱してしまうので注意が必要です。




〔リスパダール〕


リスパダールは、第二世代の非定型抗精神病薬になります。

ドパミンだけでなくセロトニンもブロックすることで、過剰なドパミン遮断を和らげるため、SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)と呼ばれています。


ドパミンの働きを抑えることで、統合失調症の治療薬として開発されましたが、

気持ちを落ちつける鎮静作用も認められるため、不安や不眠に効果を期待して使われることもあります。


また気分の安定にも効果が期待できるので、抗うつ剤による双極性障害(躁うつ病)やうつ病・うつ状態の治療効果を増やす目的に使われることがあります。


リスパダールはどちらかいうと落ち込みを改善するなどの抗うつ効果は弱く、気分の高まりを鎮める鎮静効果の方が強く、そのため、双極性障害の中でも躁状態に使われ、また深い睡眠が促されるため、睡眠の目的で使われることもあります。


リスパダールはジェネリックも発売されており、リスペリドン錠という名前で発売されています。

リスパダールも糖代謝系に悪影響がありますが、セロクエルやジプレキサほどではなく、それでも高血糖には注意が必要です。


そのほかには体重増加に注意が必要です。


[リスパダールの作用時間]

リスパダールは最高血中濃度到達時間は4時間、半減期は1.1時間となっています。

非常に作用時間の短いようにみえますが、リスパダールが体内で分解されてできる

パリペリドンはリスパダールと同等の効果があり、その半減期は6.6~13.8時間となっています。

そのため、リスパダールの作用時間は比較的長く、1日1回の服用でも効果が安定する場合があります。


[リスパダールの用法]

リスパダールは、1mg錠、2mg錠、3mg錠の3剤型とOD錠((口腔内崩壊錠)0.5mg・1mg・2mg)が発売されていますが、ジェネリック医薬品ではさらに0.5mg錠と3mgOD錠もあります。

そのほかに内用液(0.5ml・1ml・2ml・3ml)と細粒(1%)も販売されています。

強い不安と不眠に対しては、就寝前に0.5mg錠あるいは1mg錠から開始し、維持量は1mgあるいは2mgとし、最高用量は3mgとした方が安全です。

効果が安定してくるまでには時間がかかるので、2週間ごとにじっくりと調整して行きます。

なおOD錠は飲み込みが悪い方でも服用しやすく、リスパダール内用液は水なしですぐに服用できます。

ただリスパダール内用液は、錠剤に比べると薬価が高いため、不安やイライラが強いときなどに頓服で使われます。


リスパダールは離脱症状が認められることがあるため、減量する時はゆっくりと時間をかけて減少します。


〔抗ヒスタミン薬〕


花粉症やアトピーなどのアレルギーの発症には、ヒスタミンという体内物質が関与しています。

このようなヒスタミンは哺乳類の粘膜下組織や結合組織などに存在する肥満細胞内の顆粒に高濃度で存在し、細胞表面の抗体に抗原が結合するなどの外部刺激により、細胞外へ放出され、アレルギー反応や炎症の発現に介在物質として働き、生体防御機構に重要な役割を果たしています。


なお肥満細胞というと肥満と関係があるように思われますが肥満とは関係なく、

細胞が膨れた形が肥満を想起させることからついた名前とされています。

細胞外に放出されたヒスタミンはヒスタミン1受容体という神経受容体と結合し、

その刺激により湿疹や皮膚のかゆみ、クシャミや鼻水などのアレルギー症状が誘発されます。


このヒスタミン1受容体にフタをしてヒスタミンが引き起こすさまざまなアレルギー症状を抑えるように開発されたのが抗ヒスタミン薬です。


第1世代と呼ばれているポララミンなどの抗ヒスタミン薬はヒスタミン1受容体をはじめとしてさまざまな受容体に作用するため、副作用が多いとされています。


そのため、開発された第2世代はヒスタミン受容体に対する選択性が高く、抗コリン作用が減弱されて、第1世代に多い口の渇きや排尿障害などの副作用が軽減され、また脳への移行が比較的少ないため、眠気、ふらつきが軽減されています。


最近は第2世代の抗ヒスタミン薬に処方が移っていることが多いですが、かゆみで眠れない場合は鎮静作用をかねて第1世代の抗ヒスタミン薬が用いられています。


アトピー性皮膚炎のかゆみはヒスタミンだけでなくさまざまな体内物質によって複合的に生じています。そのため、抗ヒスタミン薬だけで皮膚のかゆみを完全には抑えることはできませんが部分的に軽減できることが知られています。


〔ポララミン〕


ポララミンは昔から使われている第1世代の代表的な抗ヒスタミン薬です。


ヒスタミン受容体に対する選択性が低く、その他の受容体にも作用するため、

抗コリン作用による口の渇きや排尿障害などもみられることが多いとされています。

また、脂溶性が高く脳に入りやすいので、眠気や集中力の低下といった中枢抑制作用もみられます。


使用実績が大変豊富で、口の渇きや眠気は多いですが安全性が確立されています。


重い副作用はほとんどなく、市販のかぜ薬や鼻炎薬の多くにも配合されています。


ただ閉塞隅角緑内障のある人や、前立腺肥大症などで尿の出の悪い人には

症状が悪化する可能性があるため、用いることができません。


また心臓病や高血圧症、甲状腺機能亢進症、腸に閉塞や通過障害のある人は慎重に用います。 

d-クロルフェニラミンマレイン酸塩錠としてジェネリック医薬品が発売されています。


[ポララミンの用法]

錠剤、ドライシロップ、シロップがあります。

錠剤では2mg錠の財形が販売されています。

睡眠を期待する場合は就寝前に4mgを服用します。


〔アタラックス〕


アレルギーを起こす物質の働きを抑える作用と、中枢神経抑制作用による静穏効果を示します。

通常、じんましんや皮膚疾患に伴うかゆみ、また神経症に伴う不安・緊張・抑うつの治療に用いられます。

ヒドロキシジン塩酸塩錠としてジェネリック医薬品が発売されています。

心電図にてQT延長がみられる人、高齢者、緑内障、前立腺肥大症、重症筋無力症の患者3は慎重投与となっています。


[用法]

10mg錠、25mg錠の2種類の剤型が販売されています。

睡眠を期待する場合は就寝前に50mgを服用します。


【ニポラジン/ゼスラン〕


ニポラジン、ゼスランは同時に2社で開発され、ニポラジン錠とゼスラン錠として、別々の会社で発売されています。

書籍によっては第2世代とも第1世代とも分類されています。

副作用の抗コリン作用がやや弱められていますがそれでもなおポララミン錠と同様に、抗コリン作用により症状が悪化する可能性があるため、閉塞隅角緑内障と前立腺肥大の患者には投与できないことになっています。

メキタジン錠としてジェネリック医薬品が発売されています。


[用法]

眠気を期待する場合は6mgを用います。