• 院長 田中康文

睡眠薬以外の不眠に効果のある薬:抗うつ剤(不眠症:その12)


不眠に使われる薬は、睡眠薬以外にもあります。うつ状態やうつ病、不安などによく使われる抗うつ剤や、統合失調などに使われる抗精神病薬の中には、眠気の副作用が強い薬があります。また花粉症や蕁麻疹などアレルギー疾患ギ使われる抗ヒスタミン薬も眠気が強い薬があります。このような副作用を利用して睡眠薬代わりに使うことがあります。


【抗うつ剤】

抗うつ剤で眠気の強い薬は鎮静系抗うつ薬と呼ばれていますが、その中には従来の3環系抗うつ剤のトリプタノール、四環系のテトラミド、そのほかのデジレル/レスリン、最近では新しい抗うつ剤のリフレックス/レメロンが知られています。これらの抗うつ剤による眠気の強さを比較してみると、リフレックス/レメロン≧トリプタノール(三環系)>四環系のテトラミド、そのほかのレスリン/デジレルとなります。

悪夢がみられるときは、レム睡眠を減少させるといわれている三環系抗うつ剤のトリプタノールを少量使われることがあります。


リフレックス/レメロン

2社が共同で開発したため、2つの会社からリフレックス錠とレメロン錠という薬が発売されています。 リフレックスは、抗うつ剤の1つで、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ剤)という種類に属します。

セロトニンとノルアドレナリンを増やす作用に優れる事から、うつ病、不安障害(パニック障害、社会不安障害など)などの精神疾患に主に用いられていますが、それ以外にも不眠症、食欲の改善、アトピーなどで生じるかゆみを改善させる効果なども期待でき、上手に使えば幅広い疾患治療に役立つ薬です。


このようなリフレックスは従来のうつ病の薬より効果があり、その割には吐き気や下痢、のどの渇きなどの副作用が少ないとされています。しかし眠気と食欲増加が副作用として認められ、それを逆手にとって睡眠や食欲の改善にしばしば用いられることがあります。

脳内には神経から神経へ情報を伝える神経伝達物質が沢山存在します。その中でもおもな神経伝達物質として、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンが知られています。セロトニンは不安や落ち込み、ノルアドレナリンは意欲や気力の低下、ドーパミンは興味や楽しみの減退などの精神症状を改善するように働いています。

リフレックスはこれらの物質のうち、セロトニンとノルアドナリンの分泌を増やし、落ち込みや不安、そして意欲低下に効果が期待できます。また多少ですが前頭前野のドーパミンを

増やす作用も持ち、楽しむ力を改善させる効果も期待できます。このように、リフレックスはうつ病を改善し、不安を和らげます。しかしそれ以外にも眠気を引き起こし、眠りを導くだけでなく、眠りを深くする作用があり、眠りの質を改善させる効果があります。

これらの眠りを導く入眠作用は、リフレックスがヒスタミン1受容体に作用する事で生じ、熟眠作用はセロトニン2受容体に作用する事で生じると考えられています。ヒスタミンも神経伝達物質の1つで、いくつもあるヒスタミン受容体の1つのヒスタミン1受容体に結合すると、脳を覚醒させるはたらきがあることが知られています。リフレックスはこのヒスタミン1受容体にフタをしてしまい、ヒスタミンが作用できないようにしてしまいます。すると、脳の覚醒を保ちにくくなるため、眠くなります。しかし、このヒスタミンをブロックする作用(抗ヒスタミン作用)は、すぐに耐性(慣れ)が出来てしまう事も知られています。実際、リフレックスは服用してから数日は強い眠気が生じますが、その後はだんだんと慣れてくる事が知られています。


一方、眠りを深くする効果(熟眠作用)は、セロトニンが関係しており、こちらは耐性は生じません。セロトニンがセロトニン2A受容体という受容体に結合すると眠りが浅くなることが知られています。リフレックスがこのセロトニン2A受容体にフタをして、セロトニンが結合できないようにしてしまうと、眠りが深くなります。実際、リフレックスを服用すると深い眠りの割合が増える事が確認されています。リフレックスにはこのような眠りのほかに、食欲を改善させる効果もあります。この作用もリフレックスがヒスタミン1受容体をブロックする事によって生じるとされています。

ヒスタミンは脳を覚醒させるはたらきがありますが、それ以外にも食欲を抑制するはたらきもあります。リフレックスはヒスタミン1受容体をブロックするため、食欲を抑えにくくなります。すると食欲が増して体重も増えやすくなります。このように食欲低下で困っている患者さんには役立ちますが、一方で過食や体重増加を引き起こす可能性があります。

また、この食欲改善効果も入眠作用と同じくヒスタミンへの作用なので耐性が生じます。そのため、体重は多くは数kgの体重増加にとどまります。


[リフレックスの作用時間]

リフレックスは最高血中濃度到達時間は1時間、半減期(血中濃度が半分になるまでの時間)は32時間となっています。すなわちリフレックスは1時間ほどでピークになり、32時間で半分の量になるということになります。そのため、1日1回の服用で十分ということになります。薬の血中濃度は、飲み続けていくことで安定し、1週間ほどで安定します。


[リフレックスの用法]

リフレックスは、15mg錠、30mg錠の2種類の剤形が販売されています。

眠気が強い薬なので、就寝前に服用します。

飲み始めは眠気や倦怠感が強く出やすいため、用法の半分の7.5mgから始めます。効果が不十分な場合は2週間ごとに増量し、最高用量は45mgとなっています。

リフレックスは他の抗うつ剤に比べると離脱症状は明らかに少ないのですが、薬を減量していく時、離脱症状がみられることがあり、精神的に不安定になったり、めまいや倦怠感がみられることがあります。


レスリン/デジレル

同時に2社で開発され、レスリン錠とデジレル錠として、別々の会社で発売されています。

レスリン/デジレルは三環系抗うつ剤と新しいタイプの抗うつ剤のちょうど間頃に開発された抗うつ剤です。SSRIに近い薬で、不安感をともなう比較的軽いうつ状態に適しています。

効果はマイルドで睡眠を深くする特徴があるので、睡眠薬として処方されることが多くなっています。緑内障、前立腺肥大で尿の出の悪い人などは病状を悪化させる可能性があるので慎重に用います。緑内障の人は定期的に眼圧検査を受けて下さい。また、24歳以下では かえって症状が悪化(自殺念慮、自殺企図)するという報告があるので、若い人に用いる場合は、慎重に投与します。


レスリンは抗うつ薬のなかでは、副作用が少ないほうです。おもなものは、口の渇き、眠気、めまい、立ちくらみ、便秘などです。そのほかに、心電図でQT延長がみられることがあり、機会があれば心電図をとって下さい。

また特徴的な副作用として、陰茎・陰核の持続性勃起がみられることがあります。このような症状がみられたときは薬は中止して下さい。レスリンは薬を急に飲むのを中止すると反動で症状が悪化したり、体の具合が悪くなることがあるので、減量するときはゆっくりおこなう必要があります。

また、うつ病では、症状がよくなってからも、しばらく少量を続けることが多いようです。

いわゆる「揺りもどし」による再発を防ぐためです。半年~2年くらいは続けることになると思います。


[作用時間]

最高血中到達時間は4時間、半減期は6∼7時間となっています。

そのため、効果を持続するためには、1日2~3回服用する必要があります。


[用法]

25mg、50mgの2種類の剤型が販売されています。通常、1回25mgあるいは50mgを1日2~3回食後から開始します。少量より開始し、よい効果のでる量まで徐々に増やしていきます。よく効いてくるまでに、2~3週間以上かかるかもしれません。

最高量は1日200mgとなっています。高齢の人は副作用がでやすいので、少量から開始します。


トリプタノール

トリプタノールは昔からある三環系抗うつ薬に分類され、第一世代と呼ばれることもあります。最近では、治療の初めから使われることはほとんどなくなり、まずは副作用の少ない新しい抗うつ剤が使われることが一般的となっています。しかし、トリプタノールは確かに副作用も多いのですが、効果も大きく、抗うつ薬の中では切り札として現在も使われています。

分泌された神経伝達物質は、役割を果たすと、再取り込みされて回収されます。トリプタノールはセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害すし、脳内のセルトニンとノルアドレナリンの量を増やします。これによって、これらの物質の受け皿である受容体の刺激を増加させて作用します。このため、セロトニンが増えることによる抗うつ効果と、ノルアドレナリンが増えることによる意欲改善効果が期待できます。

また、気持ちを落ちつける鎮静作用も強く、不安や不眠、焦りなどの改善も期待できます。

さらにノルアドレナリンは交感神経系に働く物質なので、ノルアドレナリンが増えると、身体の痛みが感じにくくなります。このため、鎮痛効果が期待でき、末梢神経障害など、さまざまな慢性的な痛みの緩和に使われています。

また、悪夢が多いときに使われることがあります。トリプタノールはレム睡眠を現象させる効果があるので、夢が減ります。特にうつ病やうつ状態の人、不安が強い人、ストレスの多い人は悪夢をみることが多く、これらの症状も合わせて治療する必要があります。

トリプタノールはセロトニンやノルアドレナリンのほかに、いろいろな受容体に作用します。抗コリン作用(アセチルコリンが働くムスカリン受容体をブロックして、アセチルコリンの働きを邪魔するので、抗コリン作用と呼ばれます。)も強く、便秘や口渇などがみられ、おしっこを出にくくします。この副作用を逆手にとって、おねしょの治療に使われることがあります。また抗ヒスタミン作用もみられ、体重増加や眠気、ふらつきなどもみられることがあります。


[トリプタノールの作用時間]

トリプタノールを服用すると4.4時間ほどで血中濃度が最高値になります。そこから徐々に血中濃度が低下していき、31時間前後で血中濃度が半減します。抗うつ剤の中でも薬が身体から抜けるのが遅い薬となっています。


[トリプタノールの用法]

トリプタノールは10mg錠、25mg錠の2種類の剤型があり、10mgかあるいはその半量の5mgを用います。トリプタノールは他の抗うつ剤で効果が十分でない人、慢性疼痛がある人に使われ、悪夢がある人には就寝前に少量で使われます。